アメリカで17歳から大学まで声楽、帰国後も声楽レッスンを続けて来られたという経歴の方。

コロラチューラだと思います、とのメールを頂いたが、正真正銘のコロラチューラの発声を会得している。
一番高いチェンジの声がやや浅めの痩せた響きで始まるのだが、2点Gを越すとやにわに声が当たりだし、高音ならどこまでも行くぞ!といわんばかり。
4点Gまでは綺麗に当った響きが出せていた。
それも、ひーひー出すのではなく、クールな顔で無理なく出せる。
これは、凄い!ということだが、今度はその代わり中音部がすかすかになってしまう。

これは、最初からスカスカなのではなく、彼女の体つきや顔の形から想像できるように実は結構中低音も出せる喉は持っているのだ。
高音は難しいが、高い喉のポイントながら、良い当たり所を見つけていて、超高音まで無理なく出せる。
その響きもメタリックで細くしなやか。良い響きだと思う。
ただ、低音から意識して上がれば2点Gくらいまで、普通のチェンジした声で上がれるのだがややもすると、2点Cくらいから高いチェンジの響きに変わってしまうし、チェンジすると段差がきついので、歌い難くなる。
また、その領域の声で高音から下降すると、今度は1点Gくらいまでそのままの声になってしまう傾向が強いためやはり、すかすかになって不安定な歌唱になる。

実際に歌ってみると、やはりその傾向が顕著に顕れる。
今日はリストのOh quand je dorsを持ってきた。
ヴィクトル・ユゴーの詩による、美しい作品だ。
彼女にはそれほど高くない音域で、むしろ中低音も良く出てくる。
高音といっても、5線の上のソ~ラくらいが良い響きが出てくるが
気をつけないと、そのまま下がってしまいすぐにすかすかした中音域の声で歌ってしまう。

今後続ける場合は、どちらかといえば、下の領域の声を練習して、それをなるべく上まで引っ張り上げること。2点Gくらいまで行けそうである。
後は、高いチェンジに備えて中音域の発声を、喉だけに頼らずに鼻腔へ持っていってチェンジを容易に出来るようにすること。
今日はハミングでピッチを高くして、低音からやってみたが、今度は声帯が開きすぎてしまうようだった。
胸声の前に当った響きが基本だけど、ピッチを高くする、というミックスのポイントを見つけていくことが大切になるだろうと思う。

最後にプッチーニのLa rondineのドレッタのアリアをやってみたが、確かに高音は綺麗だが、今度は少し細すぎて大きさに欠けてしまうようである。
この曲はコロのキャラクターではないだろう。
特に3点Cの響きはもっと厚く強い響きが欲しいところ。

しかし彼女は良い高音を持っているので、中音域との整合性が出れば素晴らしい歌手になる。
その辺りは難しいが勉強する価値はあるだろう。楽しみである。

さわださん

発声はいつものように、イで始めたがその後エそしてアと変えて行くのに
時間がかかった。
単に喉の温まりに関係することだが、この時間は大切だ。
忍耐強く声を温めて、声を前に当てるようにしていく作業。
そうすると、徐々に光が射してくるように、スカスカの中低音のアヤエの母音が当り出してくる。微妙だがその違いは大きい。

これはテクニックが関係あるので、少しでも微妙な違いを早く会得して欲しい。
そうすれば、それほど喉が温まらなくても、声が当たってくるのが早くなる。
それが証拠にイだと最初からビュンビュンと声が出てくるではないか。
エやアの母音は思っているよりも、ずっと前で処理することである。
舌先の位置や下顎のちょっとした使い方、そして姿勢などで変わることも良く観察して、実行して欲しい。
今の所音域はまだ高音の練習には至っていないが、そろそろ練習していきたいところ。

曲はフォーレの「イスパーンのバラ」
出だしのフレーズがどうも活き活きとしない。
この曲は旋律の形だけで、聞かせるのがとても難しい。
特にキーが低いと、なおのことである。
中声用のキーでやっているが、言葉のアーティキュレーションをはっきりさせることで、旋律の形をモディファイするようなこと、いわば意識されたフレージングが相当ないと、どうも良く分からない音楽になってしまう。

これは、フランス語の語感、意味などが関係するので、一つ一つ
手取り足取り教えることになる。
Les roses という場合に、Roseのオの母音はそれだけで長母音化しているから声を伸ばすようにしなければならないはず。
とか、その後に出てくるGaine mousseなどの母音もそういう傾向がある。
そういうものを、一つ一つ丹念に潰しながらフレーズの形を紡いで行く。
あるいは、2番のTa levreと歌いだす最初のTaの8分音符を漠然と歌わないで次のLevreのエの母音を伸ばすためには、Lの子音の強さが必要なわけでその前のTaの処理が関係してくる、、、というような具合である。

この曲はそういう細かい面がないとすると、後は余程メゾらしい声があってレガートでトロ~っとして、かつ、ブレスが長くないと、聞かせる音楽になるのは難しい。
しかし私自身はそうだとしても、あまり面白いとは思えないが。。

最後に「祈りながら」前回の3連符の伴奏に対する上の旋律の歌い方はかなり良くなっていた。
また、この曲はイスパーンに比べると、はるかに旋律で歌える曲である。
後は、優しい感情表現と、力強いクレッシェンドがあれば、それだけで
充分聞かせる音楽になるから、楽といえば楽である。

最後に「我らの愛」これは、音程とリズム、言葉の確認で終わった。
イスパーンはまだ継続して細かく見て行きたい。

かさはらさん

彼女は音大出身で、現在オペラの研修を受けていらっしゃる。
音大出てからブランクがあるが、情熱の炎がめらめらと沸き立ち、現役音大出身のの若者達と一緒に勉強している姿勢は素晴らしいものである。
私なども彼女の爪の垢を煎じて飲みたいくらいである。

彼女、タイプはコロラチューラである。
ただ、3点Cから上はやや不安定で、3点E~Fはややパワー不足であろうか。
しかし、良い声質で品のある端正な声である。
強いて言えば北欧系の声とでも言うのだろうか。
声が前にビンビンと出てくるというよりも、息が後ろに廻って出るタイプである。
この声はこれで表現にはまれば非常に美しい効果をもたらしてくれるだろう。

ただ、彼女が試験で歌ったという夜の女王などのアリアは、これだけだと弱いだろう。
これに限らずだが、オペラの場合、側で聞いて綺麗な声、だとするとやや弱いものである。

今日は発声練習で彼女の声の傾向を聞いて、中音部から高音のチェンジ以降にかけての声をもう少し単純に前に当てていくようなことをした。
彼女を見ていると、ブレス時点で喉を下げる傾向がやや強い。
特にアの母音だと、明快にそれが出るために、響きとしては深いとはいえるが今度は響きが前に出てこない声になる。

それは、下顎と舌根を使う傾向なので、まずはイとエの母音で
上向形の発声練習を主に3点Cくらいまでの間で行ってみた。
これは、頬をやや上げることと、下顎を使わないようにすることが目的。
声は明快に高く前に出てくるようになる。
この練習の後、今度は母音をアで行ってみると、下顎が動いてしまうためにどうしても喉の奥に引っ込んだ響きになる。
舌先に神経を持って、舌根を押さえつけないように、響きを前に前にと意識して欲しい。
下顎を下げて喉を深くしようとしないことも大切だろう。

姿勢もあって、やや顔を上向き加減にすると、どうしても喉方面に掘ってしまわないだろうか。
下顎で喉を掘らないで、うなじを真っ直ぐ立てることで後ろ側から喉頭を支えるような意識も声を前に持っていくためには必要である。
顎が前に出るのは、そういうことと関係があるのではないか
このことと舌の力みがなくなることで、下顎が疲れないで歌えるのではないだろうか?

高音域だが、思い切ってもっとも声帯が伸びる方法をやってみた。
スタッカート(マルカート)で、声を鎖骨の中間の窪みに思い切って当てるようにする。
ドミソだったら最高音を特に思い切ってこの場所に当てるようにすること。
これは、ぐずぐずやると、かえって喉を痛めるから、思い切りが大切だ。
3点Cまでやったが、少し喉に負担になってしまったようである。
エでやったが、最初はアの方がマイルドかもしれない。

発声練習は、この高音の負担もあったので、最後にハミングで最低音域のチェンジから徐々に上がって上のチェンジに自然に移行する練習。
ハミングだと、段差が付かないで上の領域に以降できるだろう。
ン~からアに変える練習では、特に下顎を絶対に動かさないこと。
また、ン~の時の口の開け具合もある。開けたときに良い響きになるポイントを見つけることも大切。
そうやって、ハミングでドレミファソなら、最初は胸の響きから始めて、最後の一番上のソの響きは鼻腔に入れるように、チェンジしていくこと。そういうハミングから低音域から中音域そして高音域への
チェンジが自然に行われるようになるだろう。

曲はフィガロからPorgi amor
最初聞かせてもらった歌は、とても綺麗な頭声のコントロールされた声であったが、いかにせん、音楽が小さくか細いのであった。
単純な話、もっともっと大きな音楽が必要である。
それは、フレージングで高音に昇るクレッシェンド傾向の声。
もっと前にしっかりと響きを出していくことである。
イタリア語のアクセントと音符の長さの関係ももっとはっきりと出すべきである。
頭の中にある綺麗な音楽をそのまま声にしてしまうと、往々にして音楽が小さくなる。
大きなホールで自分が喋る言葉の意味を音楽という衣を使ってオーケストラの伴奏で1000人、とは言わないまでもせめて500人ほどのお客様の入る小屋で歌うイメージを持つことは大切である。
これはただ闇雲にでかい声、といことだけではなく言葉と音楽のフレージングと関係の処理の問題としてである。
そして発声の基本はそういう音楽作りを可能にするための素材の基礎である、といえるだろう。

最後にホフマン物語の「オランピアのシャンソン」を。
部分ごとに回すメリスマの練習をした。
高いポイントで共鳴的に響かせるのではなく、しっかりと当てて同じ所で響かせる意識を持つこと。
共鳴の感覚だけでやろうとすると、声がやや奥にこもってしまう。

キャラクター的に言うと、もっと生っぽい艶やかな女性の色気みたいなものをもっともっとストレートに出すべきだろう、この曲は。
そういう観点から声のことを推し量って欲しい。
という意味では、2点Fから上の音域の声をやはりもっと前に当った響きを作って行く事ではないだろうか。
それが確立することで、一段下の領域の声と整合性がつくことで、下降形のメリスマも段差が少なくなって、廻りやすくなるし音程もフラットが目立たなくなる。
もっと卑俗な平たい言い方で言えば、声をもっと出すべきである。

最後の高音3点Esは、何度か練習したが今ひとつであった。
上手く行くとしても、ちょっと響きの反響の少ない響きになってしまう。
息をためておいて、最後の3点Esは、息の力を最大限使って、呼気を思い切り高く当てることをしてみてはいかがだろうか?
当てる、というだけではなく、息の廻った力を最大限使う、というイメージ。
次回のレッスンで再度挑戦してみたい。

こちらも教えるスキルはまだまだ未完成だし、知らないこと分からないこともある。
だが、やれるだけのこと、教えられるだけのことはしたいと思う。