今日は前回にも増して声の調子が良かった。
声の段差ははっきりとあるが、実際の歌の中では、旋律の形によっては、その段差はほとんど目立たない。
また、その辺りの対処も彼女は良く心得ていて、上手く対処できていると思う。
実際、段差そのものを気にするよりも、例えば、中低音域から始まる場合は、その声区に応じた声の出し方で始まる方が印象が良いし、後々出てくる声の段差も目立たないだろう。

個人的には、中音域、と高音域の間の1点A~2点Eくらいの中間のところをもう一段違う意識を持つように作って行けるのではないか、と思っている。これは下の声区で徐々に上がっていく時に、上に行くほど声帯を開いて、息を混ぜていくような感じだろうか。
フレーズの中で変えていくというのは難しいが、不可能ではないし、理にかなっていると思う。
そういう出し方が出来ると、更に高い声区への繋がりが良くなるのではないかな、と思う。

また、そのためには中低音の時には喉や軟口蓋など意識して、中の開いた発声を心がけて欲しい。
更に高い声区でも、鋭い声は得意だが、もう一つ開いた柔らかい響きが欲しい時がある。
そういう場合も当てるだけではない、息の通りの良い息のミックスした響きが出せると、表現力が倍増すると思う。

今日は7月の発表会で歌ってもらう曲を練習した。
初めて彼女が来た時に歌ってもらった、リストのOh quand je dorsから。
惚れ惚れするくらい美しい。夜の透き通った星空が目に浮かぶような歌声だ。

フレーズが長いので、ブレスポイントをきっちり定めることと、フランス語の発音の確認。
下の声の出し方は上手い。押さないけれども、ある程度響かせること。
高音はとても素晴らしい。

次はモーツアルトの「後宮よりの逃走」コンスタンツェのアリア。
全体的な印象は、かっちりと固まってきて、モーツアルトらしい品格のある演奏に近づいてきた。
声としては、出だしの声、抜けないように、中低音の声を使って欲しい。抜けると印象が悪いので。
それから、コロラチューラの声を披露する最高音と、そのちょっと手前の普通の高音域を出す
滑らかなフレーズの声の使い方に微妙に違いがあると更に素晴らしい。

この曲の中で、コロラチューラ的に細かくまたエキサイティングに動く場合は、そういうテンションの高さが
表現されている。例えば非常にスリムだが鋭い高音である。
コロだから動きに俊敏さが必要だから、当然鋭くなるわけである。

だが、そうでない中間的な高音は、エキサイティングというよりも、柔らかさ、広がりという
声質がほしいと思うことがあった。

どうしても高音なので、調子があるから、一概にこうしなければならない、というよりは本人が
最高音で一番調子が出るための、全体的な歌、ということも言えるので、声の調子と相談しながら
色々トライしてみて欲しい。

はらさん

ヘンデルのドイツアリア2曲をフルートのオブリガトワール付きでピアノと共に伴奏合わせに来た。
アンサンブルの面白さ、難しさを堪能させてもらった。
歌としては、開放的な長いフレーズのクレッシェンドがもう一つ欲しい所。
後は、強いて言えばピアノとフルートを合わせると、響きの豊かさにおいて、もう一歩が欲しくなる。
これは、声量ではなくて響き感、共鳴だろうか。

確かにソプラノだけれども、もう少し全体に中が開いた発声で、中低音から中高音にかけて広がりとふくよかさのある
声が求めらるだろう。
そういう意味で、この曲はどちらかといえば、メゾ傾向のふっくらとした声の方が向いている気がした。

アンサンブルとしては、フルートさんのピッチが気になった。
全体的にピアノに対して、やや高すぎる傾向が大きかった。
ピッチが綺麗に合うだけで、演奏の良し悪しに響くので、ピッチ合わせは大切にして欲しい。

後は特徴的なリズムの処理だろうか。
これは特にピアノに要求したい。
他の声部に出てくる特徴的なフレーズの形を真似るように、処理して欲しい。
単純に楽しい、とか俊敏にとか、そういう単純さ、お遊び的な要素を大事にして欲しい。

発声練習でも感じたが、まだまだ喉で力んで発声している傾向が残ると思う。
ブレスが続かないのは、恐らく息を詰めて、喉を絞って息漏れをなくして、喉の声帯だけで
合わせて歌っている、という印象がある。

理想は、声帯はわずか開いていて、常に息と響きが自然に排出されていて、歌いながら息が自然に吐けているように。
逆に今の状態で言うなら、吐ききれない息をブレスする直前に息だけ吐いてみるようにトライできると思う。
恐らくそれが出来ると、もっとブレスが自然に出来るようになるだろう。

声の太さとか細さとか、声域とか、そういうことも必要だが、中低音域でもっともっと中の開いた発声、
喉で当てすぎない発声を開発できると思う。そうすることで、もっと器楽的で響きの広がりのある歌声に成ると思う。
結果的に音域が狭くても、その方が良いのではないか、という気さえするが、どうだろうか。

あめくさん

彼女の場合、発声の課題は大きい。
声帯が合さりやすくて、閉じやすい。
中音域は当りすぎると太くなり過ぎるし、高音は逆に締めてしまうことになる。

常に中の開いた発声を心がけて欲しい。
難しいけれども、前に集まった声は意識しない方が良さそうである。
閉じて締めてしまう結果につながりやすい。

むしろ声帯は適度に当っているけども、響きは身体の中で共鳴しているような広がりのある声をイメージして欲しい。
歌っていて、自分の声がビンビン直接耳に聞こえるのではなく、一端声が外に出て、反響した声が耳に入ってくるような出方である。
これはどちらかというと、後頭部や首、背中に向って歌うような意識、歌い方である。
この辺がこれからの課題だろう。

今日はアーンのオペレッタ「シブレット」のシブレット役のアリエッタを譜読みとフランス語の読み練習。
なかなかフランス的でオシャレでシックな曲である。
一見取っ付きが悪いのだけど、伴奏と合わせて歌ってみると実に素敵である。
フランスだな~というしかない。
どうして同じクラシックでも国によってこれほど違うのだろう。

シブレット登場のコーラス付きで歌うほうは、高音が課題だろう。
もう一曲は、全体に低めの音域だが雰囲気で聞かせる歌。
言葉や音楽的なセンスが問われるだろう。

ともかくまずはフランス語の読みを確実にしておくことと、母音だけで旋律を歌って、声の調子を定めておいて欲しい。

たかはしさん

今日も徹底したのは、声の揺れの矯正と声質。
大きなフレーズ単位や、あるいは小さな単位でも、喉で当てて集める声をあまり意識せずにフレーズや小さなモチーフ単位で息で流すようにすること。要するに流すように歌うこと。
当てる意識が強いのかどうか分からないが、結果的に声は集まるがその声が鼻声傾向になることと、
集めるがために、押してしまって声が揺れる傾向になることだろう。

声を出す、あるいは持続させる要素が、息を吐いている感覚になれば、どうやっても声に余計な揺れが出てこないはずである。
それが、実際は歌ってみると、非常に揺れるのは、一音一音の意識が強すぎるのではないだろうか。

発声練習では、これがかなり軽減されているし、声質もかなり良いところに来ている。
後は、これを歌詞を付けて歌った時にどれだけ応用できるかである。
ということは、母音だけだと流れるが、歌詞が付くと流れないのである。

鼻声傾向の独特の響きも、声の揺れも、どうも声を当てることや、声を出し始めるポジションのあり方に原因があるかもしれない。
どうもポジションが高いのである。
目の前にとか、目と目の間にとか、前を意識していることではないだろうか。
これはこれで意味があるが、もう充分に身に着いたから一端捨ててみてはいかがだろうか。
声を前に前にと意識することで、喉は締まるし、鼻声傾向になるのが強過ぎると思うのだが。

逆に、今度は中を空けて中だけで歌う感覚である。
前に出そうとしないで、身体の芯、あるいは喉から頭の中にかけて一本の筒があって、その中だけで共鳴させて歌う意識である。
それから、中低音域で響きを高く高くとあまり意識しすぎないで、胸に楽に降ろしてゆったりと胸で響かせる感覚である。
これだけで、緊張して細く鋭く当る声帯が、リラックスしてくるだろう。
声帯自体も歌う際に自然に開く傾向になると思う。

ソプラノだから、高音が、響きが、高く、ということばかりで練習してきて、声帯の緊張と
合さる力だけが醸造されて、声帯や周囲のリラックスした感覚が少しなくなっているような感じである。
ここは、一度声域に惑わされないで、一端響きを中低音のリラックスと豊かな響きを作ることで、
声全体の建て直しを図る方が、結果として良いような気がする。

そう思ったのは、今日持ってきたシューマンの「ハスの花」を聞かせてもらったときである。
しばしば、非常に美しいふくよかな中音域、あるいは中低音域の声が垣間見られた、いや聴けたのである。
これを放っても高音を練習するために、ギスギスとした中音域をそのままにさせるのだろうか。
これは違うのではないだろうか。
次回から、もう少し中低音域の充実と喉のリラックスを考えた発声を練習してみたい。