久しぶり。何年ぶりだろう?
仕事が関西なので、たまにこちらに来るくらいだったが、出向で1年東京にいる、とのことでやって来てくれた。
彼も久しぶりに声を出すようで、最初は発声も忘れてしまったようだった。
身体が動く気配がないので、心配したが、しばらく高音の練習などしているうちに目覚めたようで、結果的には退歩していることもなく、良かった。

彼の元々の希望はテノールだったが、その後色々苦労して今に至っている。
今回もそれは変わらなかったが、喉が高音になると下がる癖が強く、ファルセットと実声との中間、いわばチェンジした声を狙うのがとても難しい喉である。

ファルセットにしても、息を意識した支えのあるファルセットになると必要以上に喉が下がる。
ただ、逆に彼の中低音はとても良い声質で、バリトンじゃ駄目なのかな?とも思う。
ファルセットを練習する際には、確かに息の支えが必要だが、なるべく喉を下げる意識をなくして、高いポイントに当てる意識を持ってみてはいかがだろう?

私も一緒に声を出しながら中高音域、1点F前後の発声をやってみたが、やはり喉が開きすぎ、喉が下がり過ぎという印象が強い。
では、下げないように、とすると今度は上がり過ぎてしまう。
バランスなのだがそのバランスをつかむのが難しいのだろう。
恐らく丹念に練習を積み重ねて、瞬間的に行うポイントがつかめれば、上手く行けそうな印象も残った。

曲はアマリッリをさらってみた。
中声用であればほとんど問題ないし、前述のように中低音はむしろバリトンになった方が良いくらいの素質が垣間見られる。
この曲の高音域では、やや胸声傾向が強く、前述の喉のバランスが関与しているのだろう。
ハミングで鼻腔に入れる響き、あるいはもう少し脳天に響きを入れる意識を持つと、響きが明るく、ピッチも♭にならないだろう。

そこで、高声用で練習してみた。
こちらは1音高いため、どうしてもチェンジ領域に入るのが難しい。
ただ、以前のようにどうにもならない、という傾向がなくなり、どうにかなりそうである。
この曲の高声用で練習してみる価値はあるのではないかな?
顎を出さない姿勢と、軟口蓋がきっちり上がっていることで、導かれる鼻腔の響きを出すために、ハミングできちっと練習してみてほしい。
最後の母音で難しいイの母音の弱声は、無理に抑えないできちんと当てて練習した方が良い。
その代わり、鼻腔へ導く回路を意識した発声を大切に。
喉を下げないで出来る限りのとことで響かせるポイントを探して、結果的に声は出てもピッチの正しい響きになれば、先ずはよいと思う。
今後も忙しいと思うけど、暇を見つけて歌い続けて欲しい。

のうじょうさん

今日は発声では中低音を中心に練習した。
低音から上向形で始めると、どうも喉が緊張しているように感じた。
それで、もっと喉をリラックスさせて、ど~んと響きを降ろして楽に当てて、と指示してみると中低音は豊かな良い響きに変わった。
彼女は意外と中低音が良く出るのである。
これが出来ると、これを元に更に開いた高音を出すきっかけになるから、恐らく声量は更に増すきっかけになると思う。

彼女の中低音は、ずっと前から感じていたが、高音がちょっと喉っぽいのが気になっていたし、変化とニュアンスに乏しかったので、高音のメッザボーチェを練習してきた。
これは、恐らくかなり良いところまで成長できていると思う。

で、そのうち、彼女の高音の特質に気づいた。彼女はそんなに軽い声ではないのだ、と。

というのも元声が軽いのか重いのかなかなか判断が難しい声だからである。
発声は本当に人の喉によって違うので判断が難しい。
彼女の場合中途半端に軽いままにすると、恐らく2点b以上の高音域が出なくなってしまうだろう。
深く開かないと、声帯を充分に伸ばすことが出来ないのだろう。
恐らく、長い間かかって覚えた対処法だと思う。

これは尊重すべきであって、これを根本からやり直すと、恐らく出来上がった頃には人生が終わりに近くなってしまう、それくらい
大変なことである。
今の彼女が覚えた発声の核を大切にして、それを中心に良さを広げていくという考え方を私は取りたい。

さて、中低音で喉を降ろした、しっかりした胸声が出せればそのままのポジションで上がると、喉に来るから自然に声帯を開くようになる。それを大切にしたい。
チェンジポイント、あるいは2点C以上くらいになったときに、喉のポイントを軽いポイントにしようとしても、チェンジは出来るし
細い綺麗な声だが、やや音程が上ずるのと不安定になる。
だから、中低音の落ち着いた喉の状態のまま息の流速だけを高く早く当てるようにすると、声帯が自然に開くように対処するはずである。
この響きが音程が上ずらなくて、かつ開いた落ち着いたメッザボーチェの中高音になる。
これを覚えて欲しい。
今までの声よりも声質としてはやや重いが、決してしまった響きではなく、軽やかになるはずである。
その上で落ち着いた大人の女性の響きになる。

この辺りをこれから大切にして声を育てて行きたい。

パノフカの8番、ポルタメントの練習。
この8番は低くて、ただのアでやるとやや喉っぽくなるのが玉に瑕だ。
というのは、後の祭りでこれから気をつけたい、Naなど鼻腔に響きが入り易い子音を使うのも手だろう。
ポルタメントは小節線をまたぐとき、テンポがずれるのは気をつけて欲しい。
後は、慣れだけ。
彼女は良くも悪くもポルタメントがないのが特徴で、これからは少しポルタメントすることも覚えて欲しい。
旋律に表情が出てくる場合もあるから。
また、声の面でも重い高音に上がろうとする場合有効である。

プーランクの「偽りの婚約」は2曲目Dans l’herbeとIl vole!を練習。
前者は声の使い方を中心に練習。
発声でやったように、声帯の開いた柔らかい響きからメゾフォルテの充実した響きへの移行や、対比を大切にしたい曲。
全体にそれは悲しさと栄光への希望という2つの要素が関係するだろう。
Il voleはピアノが弾けないので、歌だけ歌ってもらってフランス語の間違いを見たが、ほぼ問題ない。
よく譜読みしてきたと思う。

Les Mamelles de Tiresiasは、一度歌ってもらってから、フレーズ毎に私が発音朗読して真似をしてもらった。
高音は素晴らしく良く出る。ブラボー!
全体にこのアリアは強い表現が中心だが、声の扱いはそれだけだと飽きる。
軽やかに柔らかく歌えるところもあるから、その対比をきちんと出すことが大切だと思う。

言葉は単語単位で読むだけはなく、フレーズ単位で抑揚を付けた読み方が出来るようになって欲しい。
例えば、日本語で「私の思い」というときに、わたしの・おもいとは読まずに、わたしのおもい、とつなげて読むと
言葉の音感やシラブルの微妙な長さに変化が出るだろう。
その変化が旋律を歌うときの音符単位の扱いの微妙な揺らぎにつながるのである。
揺らぎのない音符の扱いをするから、語感のない歌になるのである。

そういうことが出来ない速いテンポ、早口言葉もあるから一概に絶対とは言えないが、歌詞を歌う作法の上ではとても重要なことである。
アマチュアであれ、プロであれ、曲を作品を大切に扱う以上、言葉、歌詞の扱いをないがしろにして良いはずはないからである。
我々は器楽奏者ではなく、また器楽奏者に出来ないことは何か?といえば、たった一つ歌詞の扱いという面だけである。
歌詞はなんだか分からないけど、読めたから歌っちゃう!というのも好きで趣味でやるなら、ありとは思うが、出来るならば
とことん分かって歌えるようになると、まるで違うのだ、ということを彼女には分かってもらえるようになって欲しいのである。