TKさん

同じイニシャルの人がいるが、今日は違う方。
音大、声楽を中退して、独自に活動されているそうである。
もう一度、声のこと、歌のことを、声楽と言う視点でやり直してみたい、とのこと。
体つきは一見細く、静かな感じの方だが、実は体も芯もしっかりしているのであろう。
人というのは、一見の雰囲気と、本当に持っているものは違うことが往々にしてある。彼女もそのような一人だ、とレッスンを終わる頃に思った。

声というのは、その人のイメージだから、イメージに限定されていれば、その枠から外れた声など出すわけもないし、出ることも出来ないのである。
ということは、そういうイメージから一端出てみて、違うイメージを持ってみること。
イメージさえ決まれば後は自然に声は手に入ると思う。

今日のレッスンは、結局、呼気の強さを意識すること。
そのための方法として、最初は息だけで練習してみること。
お腹をへこますと、息が強く出せるか?
その息を声にする行為は、今は、理屈ではなく喉に任せれば良い。

ただ、漠然としているので、彼女のように気息的で弱い声は、喉を使うことを一端おぼえてみても良いだろう。
ということで、胸声区の出し方をやってみた。

鎖骨の中央の窪みに声を当てるようにすると、活力のなかった声帯が一瞬にして活力を取り戻す。
直ぐに出来たので、後は少し鼻腔を開発するために、ハミングを練習。
最初は口を開けないで、閉じたハミング。
胸声を尊重したいので、声を胸に当てる感じ。

声の支えが持ちにくそうなので、今度は声を出す瞬間に、脇腹を張り出すように、
重いものを持つ時の腹筋を使うように練習。

後は口を開けたハミングから母音に変換して、という方法を取ってみた。

発声に40分くらいかかったか?
最後に彼女が選んできた、フォーレの「秘密」を練習。
ブレスが足りない、という彼女。
確かに今までの声の出し方では、ブレスが持たない。

話は前後するが、ブレスは、息そのものよりも、声楽のために必要な腹筋を
準備させる行為、と思ったほうが良さそうである。
息そのものは意識しなくても、必要な量は入るのである。

それは、呼気、吸気、呼気、という練習を繰り返してみれば分かるが、呼気で緊張した腹筋を、緩めれば自然に入っている、ということで理解できると思う。

さて、そうやって声の出だしを力を込めて入れば、声の当て所さえ間違わなければ
声は思いのほか出ることが分かるはずである。
声が出たら、後はフレーズを息を吐き続けるように腹筋を使って繋いでいけば良い。
そのためにも、ブレスポイントははっきり決めること。

などと何度も繰り返し練習をして、声も出るようになった。
ピアノ伴奏でも聞こえる声で、何だか眠かった彼女の声が目覚めたようで、良かった。

最後にL’absentを一回通して歌って終わりにした。

まだ、声をしっかり出すというところで終わってしまうかもしれないが、まずはここを定着したい。
声の洗練は、その先になるだろう。
声楽は結果が出るのに時間がかかるので、ある程度根気良く続けてほしいと思う。