Sさん
特に今まで声楽をやっていた、とか、合唱で歌っていたというような、いわゆる声楽趣味系の方ではないが、その歌う心には魅かれるものがあった。
身体もしっかりしていて、声も発声の持って行きかたで直ぐに声が出るタイプである。
今日は、軽く発声練習をして声の傾向を見て、すぐに歌を歌ってもらった。
最初にディズニーの「ピーターパン」から「右から2番目の星」
これは知らない歌だったけど、伴奏が素敵で、彼女に歌ってもらって伴奏を弾くのが楽しかった。
やっぱりディズニーだ!アメリカだな~!と感激。
彼女の声だが、素直で無理の無い声だし、音程も良い。
声が出ないといっても、喉が締まりそうで締まらない喉だし、ちょっとやると、結構声が出そうである。
声の響きが散ってしまうので、母音のイで少し練習して、歌詞にした。
歌詞も指をくわえて、あまり口が開きすぎないように練習もした。
だが、彼女の場合は、下顎が良く降りていたほうが、喉がきちっと当るポイントがあるように思えた。
なかなか良い響きである。
「宗谷岬」も「みんなの歌」ヴァージョンで、親しみやすく、良い歌だな~と素朴に思う。
このところ小難しい曲ばかり生徒に教えていたので、改めて歌謡曲やPopsの新鮮さに触れた思いだった。
最後にCaro mio ben
これを歌う頃には大分声も出るようになって、少し高めの音域はなかなか良い味のある声が出ている。
発声ばかりやってもつまらないだろうし、歌いながら彼女の良い声を伸ばせれば理想だ。
そういう教え方をもっと手に入れたいものだ、と思わされたレッスンだった。
SYさん
二人目の方は男性。
テノール、というようなお話だったが、実際はPopsの歌を練習していて、高音をもっと綺麗に出したいというご希望だった。
男性の典型的な喉のタイプで、高音を伸ばすのは大変だが、かといってバリトン、バス、という喉でもない、というタイプである。
実際に発声練習で声を聴いてみると、高音を出す喉の状態になっていない。
下の胸声のまま持ち上げて出そうとするので、応援団声になってしまっている。
だが、これは実は発声練習のせい、でもある。
請われるままに発声練習をして、声のディテールだけを医者よろしく見てしまうこちらの落ち度でもあるのだ。
歌声は、まず歌ってもらって考えるのが筋だ、と真面目に思う。
発声は声を温める準備運動だけで良いのだ。
歌はナット・キング・コールのLove is a many splendored thing を歌ってもらった。最初のLoveが1点Es、ミ♭だ。
発声練習のミ♭とLoveと歌うミ♭は、音程は同じだけど、別種の音である。
まずは好きな歌なら歌おう、そして歌う声をどう考えるか?
出ない声は、出せるようにしなければいけないし、音程が明らかにおかしいなら?
それは何とかしなければならない。
彼もかつてのヴォイストレーニングではだいぶ嫌な思いをしたのだろう。
アマチュアが楽しんで、少しずつ良い声を手に入れていくのに、決まりきったマニュアルでは、様々な個性を伸ばせない。
あるいは伸ばそう、という考え方も色々在るわけで、問題は本人がどう思うか?
何が大切なことなのか?
そのことを、教えるものが指し示す必要はあるだろう。
今日教えたことは、高音域の軽いハミング、喉の脱力、そこから母音でも薄く軽く当てて音程の良い高音を少しずつ出していくことであった。
ただ、歌声とつながらないと、これも意味が無い。
発声練習で声を何とかする、と考えずに、歌いながら何が問題なのか?を良く見出して、対処して行くことが、彼の場合良いのではないだろうか?