TKさん

声はとても良い調子で、発声練習無しでも良く響いていた。
惜しむらくは、顎が硬いのか、口がほとんど開かない発声なので、もう少し母音の開いた良い響きが出せると、発音も明快になって
響きも更に豊かになるだろうな、という印象である。
これは、直ぐにとは行かないが、これからの課題に取っておいて欲しい。

曲はフランスロマンス集から、Maman dites moi!
意味がまだ良く分かっていないでフランス語を歌うので、それがちょうど子供っぽさにつながって、一つの表現を成しているといえば良いか。

上述の口をほとんど開かない発声なので、アーティキュレーションとして口をもう少し開くことを意識すると変わるだろう。
ただ、口の開き方は気をつけないと響きが落ちてしまうので、それは避けたい所である。
口を開けるのが苦手であれば、唇を良く使うこと、舌の動きを意識して子音をきちっと出す努力だけでもかなり変わるだろう。
音楽のテンポはそういう作業も加味して総合的であるから、漠然と響きだけでさっさか歌ってしまうと、上述のようになってしまうのである。

パーセルは、Music for a while から。
前回ピアノ伴奏とのアンサンブルの練習になったが、その問題はほぼ解決した。
出だしたテンポを途中で変えるのは、この曲の場合非常に目立つのでやめたほうが良い。
この曲は、一定のテンポが繰り返され延々と続くことで、音楽を作っているためである。

I attempt from love’s sicknessは、まるで言うことがなかった。後は意味が歌に直接反映されるような意識、ニュアンスだけだろう。

If be the food of loveは、こちらもピアノのしっかりしたリズム感があれば、大丈夫。
出だしのテンポ速すぎないようにするかわりに、歌に付き添う和音の打鍵のタイミングが変に後れないように。
中間部の3拍子は流れないでかっちりした、オーソドックスなテンポ感を大切に。
声は本当に気力が漲っていて、良い。テンションも良い。この調子を本番で出せれば今は言うことがない、という状態である。

GHさん

発声練習無しで始めたが、良い声が声量も伴って出せていた。
ただ、まだ少し緊張しているのか、声が震えるのが少しだけ気になるが、気にしなければ気にならない程度である。
もっと横隔膜を落ち着かせて、どんと構えて欲しい。
それが出来るとそれだけで、自然に声が良く響くように出せるだろう。
出そう、と頑張ると余計に上ずってしまうものである。

Ombra mai fuは、最初の発表会トライにしては、上出来な歌いっぷりになりそうである。
声もしっかりして、重量感が出てきた。
レシタティーヴォの雰囲気、間合いは良いが、時として声の扱いが乱暴である。
確かに弱々しくはなって欲しくないが、ノーブルな声でなければそれは意味がない。
荒々しいとしても、あくまでも良い声を忘れないように。
特に最後のAusto rapaceの終わり方は決して怒っているわけではない、と思うので。

アリア部は、出だしのOmbraのロングトーンの安定感は作れたので、今後はメッザヴォーチェを意識してクレッシェンド出来れば理想である。ただ、音程はくれぐれも気を付けて。
それから、最後の高音で伸ばすPiuは、これも出し過ぎて声が乱暴にならないように。
低音域はとても良い声である。

シューベルト「菩提樹」は、悪くないのだが、どうも声のポジションが気になってしまう。
特に、出だしの和音と声の関係があまり良くなかった。
やはりどうも妙に喉が高い感じなのである。
声を出す際に、単純に基準にする音をピアノのヘ音記号の実音の音をイメージしてはいかがだろうか?

後は、良く勉強されていて言葉の意味を伝えようという意志のある歌である。
声の扱いと言葉のニュアンスは、バランスをいつも考えて、言葉だけに頼らないことも大切である。
基本的な声のことを、まずかっちり抑えておくことも大切にして欲しい。

KHさん

発声練習の声は、今までに比べても一段進歩した声の響きを聞かせてくれるようになった。
特に中低音~中音域にかけて、喉の開きが少しずつ出てきた感じである。
下顎の使い方、口の開け方を工夫すると、良い開いた響きが出るようになっている。
2点D辺りの響きも、共鳴感が出るようになっているのは、大きな進歩である。

ただ、実は2点F以上の高音域は、まだ発声的に未解決である。

イタリア歌曲のSe bel rioは、テンポを遅くしても早くしても、品の良い明るい良い歌が聞かれるようになった。
今の彼女にはこの手の曲はお似合いのようである。
伴奏は途中1番から2番に入るところのRitは充分にかけて良いと思う。

また、Sebben crudeleも、端正に綺麗に歌い通せている。
もう少し情熱的でも良いとは思うが、今のままでも美しい、という印象があるし、しみじみとしているので良いだろう。
彼女の芸風らしきものが、既にして感じられるので、今後の選曲や、歌の教え方の参考になるものであった。

ショーソンのLe colibriは、やはり音域の高さが、未解決になってしまっている。
練習時も高いとは思ったが、伴奏とのアンサンブルのせいなのだろうか?
あるいは疲れてしまったのか?分からないが、ブレスが伸びないし、高音も腰砕けになってしまう。

以前も教えたと思うが、最初の出だしや、中低音から始まるフレーズでは、声を高く集めないでもっと喉を楽に、低いポジションを意識して声を出して見てはどうだろう?
そのためには、単なる声の出だしのイメージだけではなく、アーティキュレーションも積極的に下あごをだらーんと降ろすこともトライしてみて欲しい。
全体に下顎が使われない(降ろさない)傾向であることも、喉が上がりやすい原因の一つになりえるからである。
要するに声を顔で歌おうとしないで、胸で喉は楽に、ソフトに歌う感じである。

最後のバッハーグノーのアヴェ・マリアは、逆に口を開けない集めた響きで、全体にソフトに細く軽やかに歌えているから、これはこれで良いと思う。
これも、もう少し全体に声を出すこと、共鳴腔を作って響かせることを覚えると、更に良い響きになると思う。
その辺は、今度の発表会というよりも、もうちょっと先に目標を作って行けば良いと思う。

MMさん

今日は合わせだったが、中身の濃いレッスンになったと思う。
フォーレのEn sourdineは、彼女のテンポは少し速めだけど、良い声が出るので良しとしたい。

その分、ピアニストさんは和音の重さをもう少し感じさせて欲しい。
アルペジョは左手のベースの音をもう少し響かせて、その上に和音が綺麗に構築されたい。

中間部後半のRider les ondes des gazons rouxのところは、Rouxに入ったら即座にどんどんクレッシェンドして良いと思う。
そしてその勢いを買って、次のEt quand solennelに飛び込んで大きな波をど~んと起こして欲しい。
最後のLe rossignolに入る前から急激にPPという感じだろうか。

彼女、声は本当に良くなった。中低音域は、もうメゾソプラノの美しい響きの一端が垣間見られるようになってきた。鼻腔への響きも出来てきた。
これで、もう少し喉の開きのバランスや力加減を覚えると、もっと声が出てくるだろう。そうなったら凄いと思う。きっとなれるだろう。

アーンのL’increduleは、歌手の声が良く響いているし、ピアニストさんは、全体にもう少し響きが出ても良いと思う。
その分、特に後半のEt si profond est ma foisからのクレッシェンドは思い切って情熱的に持ち上げて欲しいものである。
恋人同士の演奏のように二人で熱い情熱を燃やして欲しい曲である。
「君は~を信じている、僕は~しか信じない」というパターンは、もっともっとFamiliereな語り方、雰囲気を出して欲しい。
ということは、あまりテンポ通りというより、くだけた、Sans rigueurに、ということである。
そして、後半のEt si profond est ma foisの件を、情熱的に、あるいは気持ちを中に込めて歌うと表現になるだろう。

同じくアーンのDerniere valse
こちらは、前回敢えて何も言わなかったが、今日再度聞かせてもらって、スタンスを変えてみた。
前回聴いたピアノは、ドイツの美しいお嬢さんの品の良いヴァルス風であったが、この曲はもう少しくだけた感じが良いと思う。
全体に柔らかいくだけたイメージで、もっとペダリングを駆使して、全体がソフトフォーカスのかかったような雰囲気を出して、歌も柔らかく軟派な雰囲気を創ってもらいたい。
ちょうど1930年代くらいのソフトフォーカスな写真や、映画のノスタルジックな雰囲気を、そのまま直截に演奏にも活かしてもらうという
風情である。
従って、3拍子もきっちり刻むというよりも、多少適当でも流しても良いだろう。

歌は、ポルタメントを駆使して、滑らかに柔らかく、切なく歌ってほしい所である。
中間部はかなりPPを意識して歌えているが、もっとやっても大丈夫そうである。
ムジカーザは良く響くので、充分響くだろう。
発声とか、あまりアカデミックに考えないで、やりたいようにかなり思い切って声の振幅を大きく表現すると気分が出るし、歌うほうも気分が乗りやすいだろう。
気分が乗らないで歌うこの曲くらいつまらないものはないと思うから。