TMK
今日は彼女が歌いたいもので、私も歌いたいものがあったので、ピアノが弾ける彼女にも伴奏を少し弾いてもらって、私も歌ってみたりしてレッスンを始めた。
フォーレの「閉じられた庭」の最後の曲Inscription sur le sableと言う曲。
哀しい曲で、歌っていると哀しさの余り声が詰まってくるくらい哀しい曲。
この曲はどうしてもAdagioで弾きたくなるし、歌も重く悲しくなりたいのだが、そこをぐっと
こらえて、どこかに軽やかさを残してさっさと歌うのがフォーレらしい、あるいはフランス的に最上の演奏に繋がる、と思うのだ。
と思ったら冒頭にちゃんとAndante quasi adagioと書いてあるではないか!
これを「ほとんどAdagioじゃん!」と思うか「それでもAndanteじゃん!」と思うか難しいところだが、自分は「やっぱりAndanteじゃん」と思う。
99%悲観的でも1%の楽観は残っているのだ。
ところで彼女の声だけど、息漏れの特徴的な中音域の声が集まってきたし、少し高めの2点C~Fくらいの間の声に共鳴がついて、まるでフルートのような響きが出ていた。
あまり大したことを教えてないけど、それなりに歌いこんでいて、曲のイメージが出来ているのだろう。
声としては非常に良い傾向であると思う。
初めて聴いた時も、中高音から高音にかけて真っ直ぐな突き刺すような潔さが声のどこかに感じられて、それが好ましいものだったが、それがそのまま響きを産み出して洗練されていこうとする意志を良く感じる。
また、その後イブの歌を2番から最後の10番までざっと通してみたけど、低音に変わる声も段差が無くて、どきっとするほど良い低音が時折聞こえてきて、好感が持てる。
ブレスは大分伸びたけど、まだ息が吐き切れていない時がしばしばある。
これは、難しいから少しずつ、出来るようになれば良いと思う。
響きの場所がはっきり明快に分かってきて、それを大切に歌えることが出来れば、更にブレスは伸びるだろう。
大きな声を出すのではない、力まないで、良い響きを大切にすることは、どの音域も同じである。
ということで、彼女に曲を選んでもらってその範囲で声を伸ばしていくことに関しては、本当に苦労を感じないのである。
やはり歌うことや演奏は言語的、音楽的な意志だから、そこさえしっかりあれば、こちらは必要なことを忠告すれば良いだけなのである。
最後にLe secretを歌ってみた。
歌い進もうとする流れが声に出てきたので、その分ブレスに無理が無くなった。
もっと遅く歌おうとする場合は、この曲は低いから低音域の声の響く場所、あるいは共鳴を感じられる場所を見つけて、そこで丁寧に歌うことを努力してみつけなければならない。
低音はそこがとても難しいが、彼女なら出来るだろう。
そして最後の最後に「閉じられた庭」の1曲目Exaucement
声は充分な声が出ているから、この曲は後は余裕である。
和音の緊張感に即して、声が充実していくか、優しくなるか、情熱的になるか?という変化は大切にしたいところ。ピアノの響き、和音、音楽に忠実に歌う調子を感じて作って欲しい。
一番良い声の響きを最大の情熱と捉え、そこを中心に声でこの曲の持つ優しさを表現出来たい。