ME

発声練習からしっかりお腹の声を作った。
やや強い胸声系の声になるが、彼女の中低音は意外なほどしっかりしている。
かといって、暗くこもらずに明るい声質である。

この身体の使い方、慣れて出せるようになったらで良いのだが、後一歩の喉を開いて出せると、更に良いだろう。

曲はフォーレのMandolineから。
母音に関して言うと、彼女も広いオの母音が暗くなる。
ほとんど下あごを使う必要は無い、と思ってちょうど良いと思う。
その前のLesの広いエの母音から響きを変えないようにして、Donneurのオの母音の響きへと持って行く感じ。
細かいことだけど、こういうことがレガートでかつ綺麗な母音の連なりになって、逆に歌詞を浮き立たせてくれるだろう。

Leur courte veste de soie,leurs longues robes a queue,Leur elegance,leur joieという
並列の歌詞は、良く区切ることと、言い方、を考えて欲しい。
特にLongueはオの狭い母音の形もあるが、長さを語感で表せるし、特に後半のLeur eleganceというときには、そのエレガントさが顕れたい。
要するに歌っていながらその景色が見えているかどうか?

次はArpege
声が小さくまとまらないように、大きなフレーズを大切にしてほしい。
大きく、というのは大きな声、と言う意味ではなく、お腹から声を出すように、フレージングするようにと言う意味。
特に中間部は小さくしたくなるが、声を抑えるのではなくちゃんと響かせること、そしてその響きがピアノ伴奏の和音と良い関係(器楽的な)を持てる声を出そう、と言う意味。
例えば、支えのない抜いた声で歌っても器楽的にはあまり意味のないことになってしまう。
何となくエモーショナルに音楽を扱うのではなく、もっと良い意味で音響的なことを大切に考えて欲しい。

PとかDolceといっても、そのスタンダード(基準)を、4畳半では無くて最低30畳くらいの部屋で歌うことを考えて欲しい。
それはくどいようだが、大きな声と言う意味ではなく、楽器としてきちんと使う、仕立てる、と言う意味である。

最後にL’auroreという1870年作の非常に美しい曲を歌ってもらった。
私は初めての曲だが、初期の他の有名な曲と比べても、後期のフォーレの美しい歌曲を思わせる品の良い美しい歌曲である。

言葉の母音を際立たせて歌う部分と、レガートに線を強調する部分を明快に分けたられれば理想だ。
特に鼻母音の響きは喉から上だけになりがちなので少し深く意識したり、同様な意味であいまい母音も狭すぎないようにすることは喉の開いた声による母音と線の立体感のためにもとても大切なことである。
語感を意識した響きを大切にして欲しい。

UK

発声練習は主に中低音を中心にした。
彼女の中低音は当初に比べると、かなり聞こえる声になってきたが、まだこもって奥に引っ込み気味である。
また、響きのポイントがつかみにくいせいか、音程もやや♭気味である。
これは、常に♭なのではなく、特に高音から降りた場合に、支えが取れなくて♭になったりするようである。

ハミングやNgaで何度か中低音をやりくりしてから、最後に母音をエにしてその口の形のままアでやってみると、大分明るくなる。
要するに中低音でも以前からそうだが、高音に特化した声のポジションで出してしまうのだろう。
ある程度チェンジさせる意識を明快に持った方が良いのだが、こればかりは慣れと積み重ねなので、いつも忘れずにトライしてもらいたいところである。

高音は3点Fまで難なく出せているが、3点C以上になると喉だけで当てている印象がまだある。
息の力で綺麗に廻せるようになりたいところ。
これは、慣れだからいつも適度には練習して欲しい。

曲はドニゼッティのルクレツィア・ボルジアのロマンス。
ドレミ出版には載っていない、レシタティーヴォに当たる部分から持ってきた。
通してみた印象は、彼女の声にはお似合いの曲である。
彼女の声は最近中低音も出るようになってきたが、それ以上に2点G前後の響きも肉厚になって、女性らしい強さも感じられるところが素晴らしい。
そういう面があると、単なるお嬢様の歌で終わらずに、大人の歌になるので表現力が倍加する。

中間部あるいは最後のページに出てくる細かいメリスマの中低音の響きを練習した。
低い響きは落とさないで、鼻腔に入れるように、お腹の支えもしっかりさせると音程も落ちないし響きも高くなると思う。
高音から降りるときには特に注意して欲しい。

最後に同じくドニゼッティのルチアからRegnava nel silenzio
出だしのモチーフはぞくぞく、っとするぐらい良く歌えていた。
息の流れと声の響きが一致していて、静かで滑らかで美しい音楽的なフレージングが出来ていた。
これだけでも大進歩だ、と言える。
こんな長い大きなアリアでも、このような大切な音域的に狭いモチーフ一つ、綺麗に美しく歌えるだけで、曲の音楽的価値は飛躍的に大きくなれるから。

しかしさすがに長丁場のアリア、声のコントロール、そのための身体の状態のコントロールなど難しさは未だ残っている。
途中から再度練習したが、オプションのカデンツの歌いこみが足りないために、不安定になるところもあるので、練習次第でもある。
音程の上ずりを意識する場合もあるらしいが、響きのポイントが決まっていれば、音程そのものを意識しなくても良いはずである。
2点C~Eくらいの間の響き、発声がまだ安定してないので、取りあえずは音程そのものを意識しないで、響きだけに集中すれば良いだろう。
そのことで、喉の調子が安定すれば、そのことのメリットの方が今は大きいと思う。
彼女も地道にこつこつ通ってくれたけど良く成長してくれた。これから花開くところだと思う、楽しみにしている。