MT
特に低音域の発声をやってみた。
やってみて、あらためて思ったのは、むしろ中高音域のいわゆるお腹の付いた声のためには低音域の練習が欠かせない。
喉を開くあるいは息を混ぜる、あるいは共鳴を出す、という発声を今後は徹底したい。
低音の響きそのものは、無理に出す必要はないと思う。
無理に出そうとすると喉で合わせてしまうからである。
あくまで声の出し始めで喉が開いていることと、深い場所から自然に出だすこと、である。
それから今までも何度も言っているが、出し始めでッア~と声帯狭窄を絶対に起こしてはならない。
あくまで息が通るように、自然に、である。
みぞおち辺りから声が出だすように。
そして1点Cくらいになってきたら、更に喉を開いて響きが豊かになるように。
声帯で合わせてび~っとさせないほうが綺麗に共鳴が出るようになる。
曲はTel jour tel nuitから前半の6曲を歌ってもらった。
発音の間違い、リエゾンなどは省く。
低音は彼には厳しいが、音そのものを鳴らそうと無理しないで、深さや開きが意識できるだけで良い。
1曲目は、全体的に平和で親密な雰囲気を大切に。
低音のせいもあって、出だしから何か深刻な音楽になりがちだが、まったくその逆である。
時計のカチカチいう音だけが聞こえる静かな部屋で秘密めいた悦びに浸っている。
したがって伴奏のテンポはメトロノミックなくらいが良い。
2曲目はPPの声であっても、深い感動が欲しい。VideとかPleureという言葉を大切に。
Il est minuitのところはレガートをくれぐれも大切に。
そのためには、PPを出すことで喉が浅くならないように。
伴奏はシンコペーションが強くならないで、ソフトにあいまいに。
むしろその上に出る右手の旋律を鐘の様に澄んだ通った響きできちんと響かせること。
3曲目は歌詞の意味を問うよりも、音楽が型に表しているものだけを大切にすれば良い。
出だしは勇壮な音楽だから、その通り。中間部は説明。
コーダは強い感情の燃え尽きた残り香。
4曲目は語りである。静かな音楽だが、その語ろうとする感情は非常に深く強いのである。
それが音符の上にあるマルカートで表されている。
低音で出しにくいが、音を声にしようと思いすぎないで、フランス語の朗唱のリズムを大切に。
リズムに慣れたら、なるべくフランス語の読みをやってそこから形を導いて欲しい。
5曲目は喜遊曲。あるいは幕間狂言。早口言葉を強調、あるいはそのリズムの形を強調するように。
最後の1点Gの伸ばしは、喉で押さないで響きを大切に綺麗に処理しよう。
その後の曲の声に効いて来るから。
伴奏は田舎の楽隊をイメージして、お嬢さんみたいに小奇麗にお上手に弾かない事。
男っぽく破天荒にいい加減くらいに弾けば多分ちょうど良い。
6曲目は、極上の声を使う意識。PPでも浅い響きではなく適度に喉が開いて深さのある開いた響き。
そしてレガートを大切に。喉の開いた声で、口先でアーティキュレーションしないこと。お腹を大切に。
最後にLe pontを。
音域的にはこの曲は無理が無い。
この曲も良い響きを大切に基本的にレガートな歌唱を大切にしよう。
音楽的なエッセンスが強いから「歌えば歌えちゃう」が、それで終わらないで、声質とレガートを大切にすればするほどこの曲の本当の美しさが出てくると思う。それは夢のようなイメージの伴奏と共に、表現出来るだろう。
伴奏はペダルをけちらないで、充分に滑らかに柔らかく、ソフトフォーカスのかかったノスタルジックな音による橋のイメージを出して欲しい。
HA
発声練習は低音からハミングで始めた。
ピッチが低くならないように、ハミングの響きをぶ厚くせず、目の辺りに集めるように。
この響きで1オクターブちょっと練習してから、同じような感じで母音で5度スケールで練習。
良い感じの母音アの響きになった。
高音で気をつけて欲しいのは、踏ん張る必要はあるがそれは腰であって、喉まで踏ん張らないこと。
あるいは、息を下に向けて吐かないこと。
息(声)は常に上に向けて立ち昇る感じ。
あるいは、歌いながらフレーズが進むに連れてお腹がゆるまないこと。
それからお腹が緩まないことと関係があるが、声を♪一つ一つで歌う意識ではなく、線にして歌う意識。
これは実際の歌でもそうだが、発声でも基本的に大切に。
例えば、ドレミファソの5度だったら、5つの点を発声するのではなく、息の流れで線になっていて
その経過点がドレミファソ、であるように歌うこと。
言葉にすると難しいが、要するに一度振動したらその振動を更に膨らますような感じ、と言えば良いか。
弦楽器をやってみると判るが、ひとたび弦を擦ると弦の振動が始まるから、それを壊さないようにボーイングしたりフレット側の指の押さえる場所を変えて音程が動き出す。
その際に弓のボーイングは微妙にその強さを変えていくことで、変化していく音程の響きが膨らんで行くような効果が得られるのだ。
声もこれに良く似ている。
必ずしも最初の擦りだけが大切ではなく、最初は弱く始めて、後になるほど強くのほうが良い場合もあるし、その逆もある。
このように、点で響きを捉えないで、常に線で捉えて響きを紡いで響かし続けるイメージを大切にして欲しい。
点の部分の発声はとても良いのである。
特にイとかエは、良い響きが出やすい。
後はアとかオなどの母音でも、その感覚を大切に応用して欲しい。
曲はイタリア古典歌曲集高声用のStar vicinoから。
これも前述の発声と同じだが、言葉が付くから歌詞の発語の方法を考えよう。
日本語を喋るように素直に歌詞を発音すると、ブチブチと響きが切れてしまう。
一度あけた口をつぶらないで、開けたままで子音を発音したり母音を変えたりする技術を覚えよう。
簡単なのは、良くやるように指をくわえたまま歌詞で歌ってみることである。
そのことで、口の中奥は開いたままで、歌えるだろう。
その後は椿姫のAddio del passatoの日本語ヴァージョン。
さすがにこの曲になると、ブレスが厳しい。
それだけ発声がシビアになるのは、前述のフレージングが出来ているかどうか?
響きを保ってそのままフレーズの終わりまで綺麗に響きを維持できるかどうか?
練習するとしたら歌詞ではなく、母音でレガートに線を紡ぐことを確実にしてから、そのことを大切に歌詞の発音をデフォルメして歌ってみよう。
日本語歌詞のことだけど、そもそも日本語でないものを日本語で歌うわけで、日本語のてにをはを大切にしたら、本来の旋律の美しさなどが壊れてしまうことは仕方の無いことである。
だから、何を優先すべきなのか?は自ずと答えが出るだろう。
先生によっては、旋律や音楽の美しさよりも、言葉が判るように歌え、と言う人もいるから柔軟に対処して欲しい。
最後にMy true loveを。
こちら、低音が多いので低音はピッチを高く、綺麗に処理して欲しい。
力んで歌うとかえってこもって聞こえなくなる。
後はフレージングを尊重して、あまりブレスを入れすぎない方が綺麗だ。
喉で力んで歌わないで、旋律線を綺麗に描くように歌って欲しい。
MM
今日は前半はどうも喉がガサガサしていて、調子が出なかった。
そのままベッリーニのAh non crede mirartiを練習。
前半は省いて、最後のカデンツだけを良く練習した。
彼女は調子が出ないと、喉が上がる癖があるが、その癖が何によって起こるのか?を考えると、発声で大切なことの或る意味が判ると思う。
喉が温まらなくても、声が出にくくても、そのことに拘らないで喉を開く、開いた声を出すということ。
特に高音域になったらそのことは大切に。
歌っている様子を見ていると、口や顔面の筋肉の使い方で喉を調整する部分がほとんど動いていない。
まず、声の出し始めで顎を出さないこと。
それから上顎や頬、唇をもっと使うこと。
上を開ける意識が、自然に喉も開かせるから。
声についてはこの一点だけ。
もう今までも何度も指摘していることだから、後は実行あるのみ、である。
声を練習するよりも、そういう部分を動かす練習だけでも良いと思う。
あるいは歌詞を読む際に、上を開いた顔つきになって語るとか、喋るという練習でも良い。
ブレスしただけでも顔つきが変わるくらいに、上を開く意識を持って欲しい。
あとはシャブリエのLe sentier sombreから。
8/9の楽しい3拍子だから、歌詞もそれに相応しい語りを付けること。
詳細は歌いながら教えたので省く。
Credo d’amourも同じく、歌いながら教えたので記述しない。
意外と大切なことは、子音の特にZとかVなどは喉の開きと関係するので、しっかり出した方が良い場合があること。
彼女の場合、これに限らず、今は全体に子音をもっとはっきり出すことに勢力を注ぐことも良い歌につながる感じがする。