HN
歌うと特に高音がかすれる、普段の話し声、その声が嫌で声楽を始めて3年、とのことで来た。
なかなか興味深い、といっては失礼かもしれないが、教え方次第では良くなる可能性を持っていると見た。
あまり来られない方なので、少し詳しく書いておく。
発声練習をすると、身体全体が固く緊張した感じを受けた。
また、確かに高音は2点Fを過ぎると急速に出なくなる傾向。
一言で言えば、声区の融合が上手く出来ないために、5線以内の声を喉で押すと、当然2点Cから上が苦しくなって、更に上のチェンジが出来なくなる、という感じである。
しかし、中音域を喉で押すとはいっても、地声ではなくちゃんと声はチェンジしている。
既にレッスンに通っているだけあって、口の開け方や頬の使い方、姿勢もちゃんとしているように見えた。
口の開け方は、喉を開くことにあまり寄与していないことが高音の出しづらさにも関係がありそうだし、声区の融合が上手く行かず、分離してしまうことにも関係ありそう、と見て、先ずは口を良く開いて行くことを練習した。
それから、声を出す前に息だけで、練習。
声を当てる場所を明快にするためと、口の開け具合を息が当たる音で判断するため。
ただ、これは理解が難しいと思う。そのうち分かってくるだろう。
順序は違うが、ブレス時に少し喉をあくび状態にするのも、上記の問題を直す良い方法と感じた。
声を出す際に、顔が微妙に前に出ることからも、喉で声をアタックすることも喉で押す原因だろう。
顎を引く、あるいはうなじが真っ直ぐになる、という姿勢も大切だが、先ずは声を出す際に、顔構えに出ないように意識するだけでも違うだろう。
そして、声はついつい口が前にあるから、前に押してしまうのだが、彼女のような場合は、声を前に出さないで、脳天から後頭部に向けることも良いかもしれない。
単に歌いながら高音に昇る際には、下顎を降ろして行くようにするだけだが、これが、言わないとなかなか開かないものである。
立つ姿勢は、上半身の固さをとって、腰から側腹にかけての、声を出すための筋肉を効率よく瞬時に使えるためにも大切である。
片足立ちして、骨盤が前に入った、いわゆる腰の入った状態で重心がしっかり落とせていること。
そうすれば、上半身、特に肩は、ガチガチに固まらないだろう。
また、頭は脳天に穴があったら、お尻の穴まで貫通しているような、場所にずっしり乗っかっているイメージである。
これらのことを発声や歌を歌いながら練習した。
歌はイタリア古典中声用で、Lasciar d’amartiから。
かなり細かく練習したが、要点は、声の出だしで顔を前に出さないこと。
喉で押すために、顔が前に出るのである。
あくび状態をブレス時に作ったら、口の中に空間を作ったまま、発音発声すること。
ピンポン球を口のなかに入れたまま発音する感じである。
そのためには、顎を動かすのではなく、舌を良く動かさなければならないだろう。
最後になってしまったが、お腹の使い方も、前腹ではなく、側腹を広げるようにした方が、重心が下がって良さそうである。
そして、このことのためにも前述の立ち方が関係してくる。
今日の状態では、このお腹周り、腰周りの使い方が不十分であるか、上手く機能しないために、声も出し難いという感じもした。
Ombra mai fuでは、このことだけに注意して、最後のDivege tabile,,から特に最後のSoave piuという高音に昇るところを練習してとてもよくなった。
Soaで下に下りたら、その声のまま上に昇るわけである。そうしないと、今は声がチェンジするだけで支えのない高音になってしまうためである。Veの時に下顎を充分降ろすことで、太い下の声区のままPiuにいけるだろう。Piuは日本語のウを出すと締まるので、オに近く発音した方が出やすいはずである。
また、順番がめちゃめちゃだが、高音だけの練習として、声をまったく押さないで、音程だけを口を開けた小さなハミングで練習した。
音程がきっちり乗っていることが大切で、喉で押すと必ず太く当るから、音程が♭になるはずである。
この小さな息だけのハミングで徹底して練習して、いわゆるファルセットみたいな声にする。
ハミングで良い音程が出たらそのまま軟口蓋を開けて、母音にする。
その響きを大切に、少しずつドレミファソなど長いフレーズで練習して高音を上に伸ばして行く。
音程の良い息の流れの良い高音が出るようになったら、今度はそこから声量を付けて行く。
ただ、今は声量よりも、喉で押さない音程の綺麗な小さな響きだけで良いだろう。
以上、つらつら書いたが、姿勢、喉を力ませない、ブレス時の喉の準備、お腹の使い方、など分けて行けば理解は深まるだろう。
一遍にはなかなか行かないし、時間はかかることは理解して欲しい。