空が紅に染まるとき
川は紅色になる
そしてそよ風は麦畑の上をそよぐ
幸せであれというお告げが あらゆるものから立ち出で
悩みの心からも立ち昇る
この世の魅力を楽しむこと
みな若く この夕べは美しいのだから!
さあ行こう 川の水が海に戻るように ぼくたちも・・・
「美しい夕べ」 
作曲 クロード・ドビュッシー(1862~1918)
詩 ポール・ブールジェ(1852~1935)
この曲はドビュッシー18歳の作曲です。
1880年ですから、まだ初期の作品で、マスネーなどの甘美な薫り溢れる、
若々しい作品だと思います。
ところで、この録音は、そのドビュッシーが1904年にオペラ・コミックで初演した
オペラ「ペレアストメリザンド」のメリザンド役であったメリー・ガーデン自身の録音なのです。
良く分かりませんが、類推では1920年代の録音ではないかと思われます。
現在のどの録音を聴いても、このように楽譜に書いてあることと違って歌う人はいません。
その理由は、多分、いまの世の中にはあまりに録音が多く溢れているからではないでしょうか。
この当時は、録音はいまほど多くなく、演奏家はみな楽譜や他人の演奏だけを頼りに
自分の演奏を作ったのではないか、と思うのです。
それだけに、音楽に真摯に耳を傾け、あるいは歌詞の中からイマジネーションを膨らませることに心血を注いだのではないか、と思うのです。
元より他人の演奏ですから好き嫌いはあると思います。
私自身、この古い録音から類推される彼女の声や歌い方が、とても好き、というわけではありません。
しかし、なにか人の心をぐっとつかむ、彼女の歌と詩に対する強い意志を感じるのです。
その彼女の意志に対して、私は敬意を払いたくなるのです。
音楽鑑賞というものは、単においしいもの、噛み砕き易いものをばくばくと
いい気になって食べるような行為だけではなく、たたずまいを正して、
良い緊張を以て味わうことで、気持ちが屹立して魂を浄化させてくれるような効果も
あるのではないでしょうか?
気持ちが良い、だけではなく、どこか不気味だけど何か魅力がある、とか、
そういう味わいのある演奏だと思います。