今は、この曲もそうですが、こういう歌を楽しむ人も歌う人もいなくなりました。
フランス語らしい母音の響きの形、その美しさを丁寧に忠実に表現している歌ですね。
私はかねがね思うのですが、広いEの母音の美しさはなかなか日本人に真似が出来ないと思います。IL m’est cherのCherのEなどは、実に美しい表現です。
また動詞や形容詞の語尾の狭いeの表現ですね。
この歌手の素晴らしいところは、オペラ歌手としてもドラマティコというキャラクターで活躍していながら、このように繊細な母音の美しさを表現出来る歌手でもあったことです。
フランス語の美しさ、その美を音楽にしようとした作家たちの趣味や時代の美学を伝えるのは
とても難しいですが、それだけにやりがいがあります。
この演奏を聴きながら、フランス歌曲を長くやってて良かったと思いました。
ささやかながら演奏家として続けて来なかったら、真の鑑賞眼・審美眼が育たなかったと思うからです。
それだけの自負はありますし、自負が育ったことが我ながら嬉しいです。
フランス歌曲、というものは、地味だけれども繊細な光で輝いています。
その中でも、本当に良質で高い美の価値を持っているのが、フォーレの作品群です。
そういう作品を現実にする作業に自分が参加していること、参加出来ていると実感出来ることが本当に嬉しい。
後半生は、なるべくそのことだけに腐心出来ればな、と思います。