改めて、みなさんの歌う姿に感動したステージでした。それぞれの魂が迸りひらめく姿と逡巡とがないまぜになり、一つのステージを形作ること、その姿が素晴らしいのです。しかしそれは、各人がそれなりに精進されることから出てくるのだと思いました。改めて、私は皆さんの魂をあずかり、指導出来る事実を重く受け止めてました。月並みな言葉ですが、音楽は本当に素晴らしいものだ、と思います。
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各出演者の感想(イニシャル)
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プーランク 歌曲集「月並みな話」「オルクニーズの門」「ホテル」「ワロニーの沼地」「パリへの旅」「すすり泣き」
初出場でした。フランスの音楽や歌が好きなようで、弾き語りでシェルブールの雨傘を歌うことができる才能あふれるバリトンです。
プーランクは、彼の声に合っていると思える歌でした。レッスンで積み上げた発音と発声による歌唱が功を奏し、端正で分かりやすい演奏になりました。
これから歌いこんで行けば、更に声量出て魅力的なバリトンの声が披露できるようになるはずです。今後に大いに期待が持てた演奏でした。
ST
イタリア古典歌曲集から「陽はすでにガンジスから」「美しいくちびるよ、おまえは言ったのだ」「たとえつれなくとも」
今回は、しっかりと歌を歌う、ということに特化した訓練をしました。発声を細かく指示しても、本番になると気持ちが上がってしまい、か細くなよなよとしてしまう、と思ったからです。最初から洗練された歌声で歌おうとするのは無理なことです。まずはしっかりした声で歌う。その中から、クラシックの作品を歌うために、どのように歌声を作っていくか?洗練させていくか?という手順に変えるべき、と思いました。その意味で、成功だったと思います。今後は高く響かせること、響きをより意識した発声を練習していきましょう。
レオンカヴェルロ オペラ「道化師」より「衣装をつけろ」トスティ「最後の歌」クルティス「勿忘草」
3曲とも大変よく歌えていました。換声点近辺で、やや喉っぽい響きがあるのは、喉の高さと姿勢が影響していると思います。顔を上に上げて喉を高くして最高音域に臨む、彼の発声の影響が、中音域に影響しているでしょう。
少しずつ姿勢を直すことと、喉を高くしないで歌うこと、むしろ喉を深く意識してどうなるか?という点を、少しずつ開発していくと、発声が変わって行くでしょう。
ただ、焦らずにゆっくり確実にやってみてください。
フォーレ「リディア」「われらの愛」小林秀雄「落葉松」
フォーレの「リディア」は、大変良い出来でした。中音域の声に芯が出てきて、高音も張りが出てきました。「われらの愛」も、難しい語りの中低音の響きと発音をクリア出来ましたし、最高音も張りが出ました。低音も安定していました。
「落葉松」は、出だしのポジションが決まらなかったのが惜しいです。この高低差のあるプログラムで、ポジションをどう取るか?次回につなげてください。
シューマン「間奏曲」「美しい5月」モーツアルト「すみれ」ドナウディ「限りなく麗しい絵姿」
直前のレッスンあたりから、発声の良いポジションが見つかってきた、思っていました。まだ慣れてないため、声のポジションが高いのに共鳴効果を強く狙う発声になったために、音程感の定まりにくい発声になっていたように思います。
今回も、リハーサルでその傾向が強く出ていたので修正したところ、かなり効果がありました。5点A以上の高音域は、現状のままでは難しく、少し換声する方法が必要ですが、今回は出来なくてもよい、と思っていました。今回の低く構えるポジションをしっかり覚えておけば、結果的に高音は必ず楽になると思います。あきらめずに継続してください。
中田喜直「お母さん」「小さい秋みつけた」「霧と話した」「タンポポ」
本番が一番良い結果になりました。良い声を持っているし、音楽性もありますが、いざ本番という時の集中力に不安定性があるのが心配でした。本番のステージングが課題と思います。
それは暗譜をするか?譜面を読むか?また、譜面を読むほうが良いか、歌詞カードを見るのが良いのか?結論としては、どちらが音楽的に良い演奏につながるか?
この点を、今後の大きな課題にしてください。
パーセル「しばし楽の音に」モーツアルト オペラ「ドン・ジョヴァンニ」から「いいえ違います、私はあなたのもの」
とても安定して綺麗にまとまった演奏でした。歌っている顔の表情が素晴らしいので、歌心も純粋な気持ちを持って歌っているのだと思います。
聞いていて惜しいな、と思ったのは、高音の声です。後ろに引っこんでしまいました。換声点から明確に換声する声ですが、なるべく換声しないように歌う発声も訓練してみてください。発声法の違いがありますが、これも慣れですから、新しいことにも挑戦してください。必ず表現の幅が拡がると思います。今後の進展を期待しています。
山田耕作「からたちの花」モーツアルト オペラ「フィガロの結婚」より「もうt飛ぶまいぞ、この蝶々」
2曲に集中して、大変に良い演奏が出来たと思います。「からたちの花」は明るい声質で音程感と安定度が抜群でした。そのことで、結果的にこの曲の表現が伝わりました。
モーツアルトの「もう飛ぶまいぞ!この蝶々」は、モーツアルトらしい軽やかさが、とてもよく出せた名演でした。聞きながら思わず、にんまりとしてしまったくらいです。というのも、レッスンで、声だけで勝負しようとせずに、軽やかさを出す方針で指導したこともあります。音楽に忠実に、声を張るだけでなく、軽く歌う部分も、歌詞の内容とそこについている音楽で判断できるからです。歌うところと語るところの差が出たというべきでしょう。一つのスタイルになったと思いますので、今後もこのスタイルを踏襲して行ってください。
バッハ「あなたがそばにいれば」ドリーブ オペラ「ラクメ」から「鐘の歌」
彼女らしい歌声の純粋さによって、リラックスして聞く事が出来ました。バッハのBist du bei mir は、テンポ感が良く、静かで瞑想的な表現に適った演奏でした。
ラクメの「鐘の歌」は、冒頭のメリスマも、レッスンで訓練した成果が十分出せていました。鐘の歌の部分もテンポ感の軽快な演奏でした。彼女の歌声は、細く高音に伸びるのですが、低音の響きが厳しいのですが、長年続けてきたせいか、現在ではほとんど気にならないレベルになったと思います。最高音域がまだ安定しないですが、最高音の発声そのものではなく、フレーズで捉えていくことを覚えれば、より安定した発声になるでしょう。