発声の悪い例を諫める言葉で良く言われる「喉を押すな」とか「声を押すな」というのがあります。

私がレッスンで使う場合は、単純です。
ト音記号でいえば上の5点Dから上になってきた場合に、そのまま出そうとして行くと叫び声のような声になるはずです。
これを「喉を押す」とか「声を押す」と使ってます。

もう少し簡単な例で言うと、例えば「フィガロの結婚」スザンナのアリア「とうとう嬉しい時が来た!」
アリア冒頭で、5点C→5点Fという跳躍があります。歌詞で書くとDeh vieniの最後のIの母音への跳躍です。

この跳躍で最後の母音Iを単純に前に声を吐き出すと、喉を押した声になる場合があります。
女性が歌う歌ですから、普通、女声であればここで自然な換声が生じ、男性で言うところ「ファルセット」的な声の表情になるのが普通(自然)なのです。

これを、ベルカント式にパッサジョ~アクート(あえてイタリア語で!)という発声を行おうとして、それが出来ないために、喉を押す人がいるわけです。
確かにチェンジという発想ではなく、あくまでパッサジョの発声であり、アクートに持っていくことはベルカントの発声としてベストかもしれません。
ベストかもしれませんが、上手く行かないものをいつまでも変化もなく続けるのは、芸がないと言わざるを得ません。

トライすることは良いですが、先が見えない状態になったらいったん取り下げて、ファルセットにする発声をもう一度取り戻すべきです。
そのことで、喉頭の硬直した筋肉にリセットをかけます。
正しい音程で楽にチェンジして歌える方法がみつかったら、少しずつ実声を混ぜて行く方法を取り入れましょう。

大人になってしまうと、修行する一年一年が、とても貴重なのです。
人によって出来る人と出来ない人の差は大きい。
貴重な年月を、少しでも無駄にしないためには、一度失敗した方法はいったん捨てるべきなのです。

何事も根気良くとか、正しい方法をとか言ったり書いたり実行したりするのは、良いですが、客観的に正しく指導できる人もなしに、
そういう練習をしてしまうと、後で取り返しのつかないことになるのです。