フォーレのピアノ曲に対する私の印象は、とても日常的な出来事の中にあるロマンです。
ドビュッシーやラヴェルのようなシュールな、古代的異世界を想像したようなものではなく、日常生活を通して考えた思惟なのです。
絵でいうと、ルノワールの絵に通じるものがあります。明るさと日常性です。
テーマはなんということもないが、見れば見るほどその世界が放つ光や影が良く感じられる。
つまり、見た目で驚かさないだけに、細部を見通す眼力が必要なのかもしれません。


即興曲1番
なんとも言えない単純思想の持ち主と思われた男が、実は複雑で深い思想を持っていた、という感じです。
ピアノらしい音が楽しめるが、独特の文学性(ストーリー)を感じます。
コーダの分散和音が、ドビュッシーの練習曲集の確か分散和音のためにのコーダにそっくりですね。
ドビュッシーが影響を受けたのだと思います。
実に瀟洒で素敵な終わり方ではありませんか!


即興曲2番
フォーレのピアノ曲の中では楽しくて明るい曲です。
適度に名人芸的な要素もあり、演奏会映えすると思います。
続くバルカロール3番(4分9秒あたりから)は実に馥郁たる音楽表現のある作品です。
バルカロールはイタリアの舟歌が伝統ですが、その雰囲気をそのままフランスに持っていくとこうなる、的な独特のぬめり感が気持ちよくてたまらない曲です(笑)
まったくフォーレはピアノという楽器でしかできない表現を作品にした稀有の作曲家だと思います。
それにしても、アムラン氏のピアノは実に繊細です。人柄もにじみ出ているように思います。


即興曲3番
実にフランス的だと思う作品です。どこをどうとってもフランスの音がします。
甘さとほろ苦さのバランスが良い。
華美に淫せず質素でありながら豪華さを身にまとっている、というところでしょうか。

このImpromptu(即興曲)は、フォーレが若いころから円熟期に至るまで、継続して作曲されています。
正に彼の人生の歩みを、長編小説ではなく数編の短編小説で表した単行本を読む思いがいたします。
写真でいうと、大きなタブローの単片写真ではなく、組写真みたいなものです。