なぜ胸呼吸が声楽には良くないのでしょうか?

胸呼吸のやり方にもよりますが、一例をあげると、喉仏をコントロールする鎖骨に伸びている筋の働きを阻害するからではないか?
と思っています。
この胸骨甲状筋は喉頭を前方に傾ける働きがあり、声帯伸展に寄与します。
つまり喉頭の引き下げが働きにくくなり、結果的に喉の上がった締まった声になりやすいのです。

もう一点は、胸郭による呼吸は、声楽で必須になる呼気のコントロールがしにくい、ということです。
胸骨を動かすため、オンオフ的になり、フレーズをじわじわと少しずつ使ったり、途中で一気に吐いたり、という音楽的に必要な呼気のコントロールがしにくいと感じます。

理想的には、喉頭に影響を与えない程度の自然な胸郭の開きと、横隔膜の収縮が、呼吸で行われることです。
決してお腹だけということが絶対ではないです。

前回、体験的に指導した方、イタリア歌曲からStar vicinoを歌ってみましたが、やはりお腹の呼吸が出来ないので、前述の喉が高い状態のままで、
締まった喉声になってしまいました。

そこで、今回は分かりやすく口を縦に開けてもらって発声をしてもらいました。
すると、それだけで喉が上がらない発声が出来るようになりました。
これは、下顎を下げることで、喉頭の引き上げに寄与する顎と舌骨をつなぐ筋群が緩む傾向になり、結果的に喉頭の引き下げが働きやすくなると思います。

発声における喉頭は、このようにいつでも引き上げと引き下げという拮抗する動きによって、最適なバランスを保って、良い響きを生み出すのです。