これを聞いて改めてモラーヌ先生の偉大さに頭が下がるばかりです。
それは、明快なフランス語の発音と楽器のように完璧な歌声が、ドビュッシー渾身のオペラの実演を完璧なものにしていたことにです。
歌曲のレコードで親しんだ先生の声は、本当に軽く明るくて、どこからどう聞いてもテノールのそれでした。
しかし、実際に留学してレッスンで聞かせていただいた歌声は、このペレアスの声と同じでした。
軽いが深みのある中低音の響きが、決して耳障りな強い声ではないのですがよく響く声なのです。
非常によく開いた共鳴腔を思わせる歌声に、感嘆したことを昨日のことのように思い出します。
しかし、35年も経ってしまいました・・・
彼の発声の特徴は、しっかりした腹筋と背筋による横隔膜の収縮力にあります。
これがあるから、声帯閉鎖がしっかり行われていることと、軟口蓋や舌の完璧なまでのコントロールによる共鳴腔の利用です。
つまり楽器です。
彼の歌声からは、楽器として確立された発声と発音の完璧さでした。
不肖、私のようなものが今でも声楽に精進を続けられるのは、モラーヌ先生の存在抜きにはありえないです。
彼が教えてくれた「声楽は芸術である」に死ぬまでに一歩でも近づければ、と願っています。