SNT

発声練習の様子では、最初に強く声を出し始めたせいか、途中から中低音の響きが抜け気味で
高音ファルセット傾向が出ていた。
声を温める程度にして、すぐにパノフカ12番を練習した。

ここでもその声の傾向が残っていたので、母音をIにしてLililiで練習。
そこから母音Aに替えて練習をした。

中音域は息漏れ傾向は軽減したが、跳躍で早くからファルセット性が濃くなるようであった。

お腹を押して呼気圧を高めるのではなく、喉周辺の筋肉の使い方が重要であること。
つまり開きやすい声帯を開かないようにするにはどうすれ良いか?という感覚の開発である。

イメージの一つの考え方だが、管楽器のように呼気が通り抜けるイメージではなく、撥弦楽器のように弦を擦るイメージの方が近いだろう。
つまり高音になっても弦を擦るためには、声帯の感覚、喉の感覚はどうか?ということを怖がらずにやってみることである。

しかしながら、次に歌ったベッリーニのアリアOh quant volteなどは、歌い込みが進み気力の充実した歌になって大変良かったのだが、
前述の換声点直前への跳躍などは、言わなくても上手く出来ているわけである。

発声法という見方もあるが、歌をどのように捉えて歌うか?という表現の力も発声の裏表として大事な要素なのである。

フォーレのNellは、テンポ感と歌声は良かった。
弱声を意識したチープな表現が似つかわしい曲である。
ピアノ伴奏の16分音符は拍節で弾かないで、フレーズで波を出すように弾くべきである。

Notre amour
こちらは弱声で歌い始めるのだが、声は弱声でも心は踊っているわけである。
その違いを良く考えて歌うことを勧めた。
フィナーレ直前の1回目のNotre amour est chose eternelleは一息で歌ってほしい。
そのためにはピアノ伴奏ももっともっと先に進んでいくように弾くべきである。

TNT

発表会の曲目3曲を練習した。

まず去年何度かレッスンをしたプーランクのモンパルナスから。
声の抑制とリラックスした感じになり、全体に印象は良くなった。
Rの口蓋音発音を使うことは良いと思うが、その発音にこだわるあまりフレーズの中でひっかかるように感じられる点は善処すべきだろう。
つまり巻き舌にならないで、口蓋に舌が付くだけで良い場合には、それ以上口蓋を強くこすらない方が綺麗だと思う。
更に歌詞の世界をイメージして歌って言う雰囲気が歌声に表現できると良いと感じた。

ドビュッシーのペレアスとメリザンドのアルケルのアリア。
ピアノ伴奏が初見で対応できないため中途半端だったが、全体的な印象としてはフランス語の語り口の抑揚、リズム節がもっと表現されるべきと感じた。
つまりフランス語で朗読する朗誦法がこの音符を歌う中に反映されることをもっと出してほしいこと。
またフレーズとしての波の強弱なども、楽譜指示の強弱とは別に意識して歌うべきであろう。

それから音楽の変化に応じた声のピッチのありかたにもっと敏感になるべきだろう。
高く取るのか?低い方から持ち上げるように取るのか?伴奏の和音との兼ね合いがあるだろう。
元々ドビュッシーのこのオペラのアリアや朗誦的な平坦な旋律線であり、伴奏音楽と共存して感情表現を出しているため古典的な音楽のよりもピッチの変化には厳しいはずである。

ドビュッシー「忘れられし小唄」から「木馬」
これもバスが歌うのは珍しいと思ったが、実際に聴いてもらうとちゃんと表現に適うのである。

譜読みは良く出来ているので、あとはフランス語の語りの表現をドビュッシーが楽譜に指示しているので、その点をより積極的に表現して歌うことである。
スタッカートやスラーなどのアゴーギグの表現と強弱のダイナミズムの表現をもっともっと縦横に駆使して自由に歌うべき、と話した。
特に男性が歌うのであるから、極論すればお綺麗なクラシック然とした演奏よりも、もっと語りの強い面白い演奏が出来るはずである。