OM

ベッリーニ「夢遊病の女」より「気も晴々と」
大変良く歌えていた。指摘した点はブレスの位置によってフレーズのリズム感が変わるので、譜面に表記されているリズム感を出すためのブレス位置を尊重すべきこと。
あとは全体に中高音域の声が強いため、ピッチ幅が太いことは声の響き自体の通りに寄与するが、レッジェロに動かす細かい音符のフレーズでは滑ってしまう傾向が見られる。
今後の歌声の課題として残してほしい。
これは、次に歌ったドビュッシーの歌曲でも、歌声のニュアンスに関係することである。
ネットが切れてしまい録画できなかったが、ドビュッシー歌曲の場合はピアノ伴奏であることと、独自の旋法とそれに見合う和声が重要であるため、単に声の響きのピッチの正しさという以上に、その和声感の中での声のピッチの位置感が重要になる。
これは端的に言えば、通る響きだけを追ってしまうとピッチ幅が大きくなりあいまいになってしまう。

ST

魔笛より夜の女王のアリア「ああ、恐れ慄かなくても良い 我が息子よ」「復習の炎は地獄のように我が心に燃え」
全体的にはかなり安定した歌唱になったという印象で、心配は感じなかった。
更に中高音域、特に換声点の喉の上ずりを気を付けること。
特に難しい高音のフレーズを歌い終わった後の短いブレスで次の中音域のフレーズに入るときに、息を強く出さないで我慢が出来るとその後の高音への跳躍を上手くコントロール出来るだろう。
ブレスの短さと息のコントロールは覚えるのに年季が要るので、今回の本番で望むべきではない。
今後の課題として覚えてほしい。
全体には思い切りよく歌えているから、気を付けるべきポイントには十分注意をしながらも思い切って歌うことを忘れないように。

TNT

プーランク「モンパルナス」ドビュッシー「木馬」ペレアスとメリザンドよりアルケルのアリア「ペレアスの父、今命をつなぐ」
「モンパルナス」は何度かレッスンで細かく診たこともあり、ニュアンスのある歌声になった点が評価できた。
それは曲調の雰囲気と声との一致という点である。
本人が気づいていない弱声が上手く出ているのを、更に自覚してコントロール出来るようになると、このような歌曲を歌うのにぴったりだと思う。
Il fait un peu lourdの入りの声が上手いのは、母音Iのせいだろう。
Iの母音発声時の喉の状態をAやE母音に応用できると、声帯が良い意味で開いた柔らかい発声につながるだろう。
「木馬」は一発芸とでも言おうか!詩の内容と音楽と本人の歌声のキャラクターが上手にはまっていると感じられた。
余計な技巧を凝らさずに、思い切って歌うのが良い印象に終始した。
アルケルのアリアはドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」らしい音調を大切に歌うため、少ない音程跳躍における音程感を大事に歌ってもらった。
それは、決して小さくなるという意味ではなく、声の重心のかけ方や声量のかけ方によるので、ピンスポット的に音程を気にするという理解ではないのである。
役柄が80歳だから、といって声をしょぼくするようなリアリズムはオペラの世界では不要であろう。