発声練習時は喉の力みが少ないが、歌うにつれて力みが出る傾向はある。
ただ、彼女の場合は力んでも音程感の良い声なので目立たない。
しかし、今回のシャルパンティエのオペラ「ルイーズ」のアリア「その日から」を歌うと、その力みが良く解る。
特に高音の換声点である5点Fから上の領域で5点A以上になると、顕著である。
この力みは喉を開ける、喉を下げるという発声のポジションの取り方が原因。
喉そのものに意識を向けるのではなく、特にはブレスと腹筋の問題と、それを成立させる姿勢の問題を大事にすること。
声を出し始める時に喉を下げようとするために、おとがいの部分に力を入れると喉頭が引き上げられなくなり、結果的に締まった声にはならない。
ただし、声帯は太く当たるため、高音になるほど呼気圧で音程を出そうとする力が強く働き、結果的に太い♭気味の声になるという理屈ではないか。
私の考え方は、特にソプラノでは発声の際に喉頭がぶらぶらの状態にならないようなブレスの仕方は最低限確保した上で、歌う際に喉頭引き上げ筋をより使う方向で考えるべきということである。
つまり喉頭は固定したうえで、引き上げ筋をより使ってあげることである。
この方が声帯は太くなり過ぎず、声門に適度な間隙ができやすいため、高音発声は楽になるはず。
特に細かく喉を動かさなければならない、高音域のメリスマ発声には必須の方法だと思う。
デメリットとしては強いドラマティックな高音発声にはならないこと。
これらの考え方で発声を修正しながら、ルイーズとモーツアルトのドン・ジョヴァンニのアリアを練習した。
ドン・ジョヴァンニでは、ブレスの長さにこだわらず、カンニングブレスを入れても良いから安定した息で歌うことを優先すべき、と指導した。