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フォーレのNotre amourから。
中声用と高声用、両方で歌ってもらいました。
結果的にはどちらでも行ける喉を持っていますが、高声用がオリジナルなので、ソプラノの響きで明るく華やかに歌うのがコンセプトなのだ、と思います。
ただ、彼女の声なら、中声用でもしっとりした情感が出て、これはこれで一つの表現になると思いました。
それであれば、楽譜指示の4分音符=126より遅くして歌うと良いと思います。
高音は、2点bも確実ですから、なるべく高音発声もトライして下さい。

プーランクの「愛の小径」は、ベルカント的な声の扱い(歌い回し)が、この曲には相応しくないです。
具体的には声の響きに集中するための、テンポの恣意的な動き(重くなる)と、歌詞発音全般にわたる狭母音化傾向です。
その点を修正してもらいました。

考え方として、声の響きのために全てを集中させるのではなく、歌詞の語感に歌う集中力の配分を与えてほしいのです。
それでも十分に声は聞こえるのです。
本来このような曲はオーケストラでノーマイクで1000人のホールで歌う曲ではないですから。

基本的には狭母音と開母音の違いをはっきり出してください。
特にAとE、そして明るいOは開母音。狭母音は、UやI、狭いO、などです。

彼女の傾向は、Aと広いEが狭くなる傾向が強く、逆にUが広い傾向です。
例えば、Amourという単語の母音イメージは、広いAと狭いUの違いが明快になることが、この言葉の意味の語感が出るわけです。
彼女の場合、母音を全般に狭母音化することで、声の響きを密にして、声帯の響きを弦楽器の弦を弓で綺麗にトレース出来るわけです。
口の扱いに力みがない良い発声ですが、もう少し唇を積極的に歌詞発音に参与させることも、語感をアップさせる大きな要素です。
特に、狭母音のUやIなどは、唇を突き出すようにされると効果的です。

語尾のE muetは、あまり狭くしない方が綺麗です。ただしアクセントが付かないように消えるように処理してください。

また、全体に母音の響きをみっちり出す基本に忠実な発声ですが、語感ということになると、
語尾のディミニュエンドで響きを薄くするために、声帯を開く傾向が少しあっても良いでしょう。

これらのことは、シャンソンに限らずフランス歌曲全般でも有用ですので、これからなるべくトライしてください。
イタリアの古典的なベルカント唱法を正しく保持しつつ、そこから枝分かれしたフランス語の語感を活かした唱法を、
発声上の問題としてアナライズ出来るようになると思います。