総評とおわび
皆さん、今回もすばらしい歌を披露していただきありがとうございました。
全体に、歌声の技術と作品としての表現力のバランスが良かったと思います。
表現力は歌詞理解の深度によるイメージの構築です。
なるべく日本語歌詞を歌ってもらう理由はここにあります。
一方、2名の方の録画ができなかったことが心残りです。
メモリーカードのエラーが発生したことが原因でした。
今後はビデオカメラを2台体制かICレコーダーを併用して録音するようにします。
改めて録画ができなかったお二人と一部欠落した方には心よりおわび申し上げます。
そのような理由もあり、動画はウエブ上には出さないことにいたしました。
出演者の方には限定動画のURLをお知らせします。
なお、録画できなかったお二人の写真は以前の同じホールの画像を使いました。
あらかじめご了承願します。
TNT
フォーレ「5月」「漁夫の歌」木下牧子「海と涙と私と」
これまで教えて来た声を張る方法を駆使し、現状の彼の持ち声で精一杯の響く良い声で歌い通せたことは大成功でした。
歌声は、ふだんは隠れているキャラクターが感じられる点に、人の声と歌声の妙味を想う歌唱でした。
「5月」明るい五月を迎える気持ちが良く感じられました。
「漁夫の歌」冒頭のレシタティフ相応の低音のピッチが綺麗に決まり、最後まで気の抜けない良いテンションでした。
「海と涙と私と」テンポをゆったりにした効果が良く出て、歌詞の分かる男らしい歌声に好感が持てました。
MMH
ベッリーニ「もし私ができないなら」ドビュッシー「ビリティスの3つの歌」より「パンの笛」中田喜直「木の匙」より「やがて生まれてくる子のための子守歌」
リハでは声に緊張が見られましたが、歌い方のコツを指摘したことで本番は充実した良く響く声になりました。
日本語の歌では、本人のイメージが歌声に良く反映されて聴く者に刺さる歌唱になったと思います。
「もし私に出来ないなら」イタリア物らしく歌声の声質の良さが際立つ歌唱になりました。
「パンの笛」ピアノ伴奏とあいまって、この作品の美しさが良く描出されました。
「やがて生まれてくる子のための子守歌」本人が持っているイメージが歌声に寄り添った歌唱となりました。
MO
イタリア古典歌曲集より「ああ、私の優しい熱情が」
トスティ「魅惑」
滝廉太郎「秋の月」
丁寧に力まずに歌うことに撤したせいでしょうか?素直で純な歌声の良さに彼のキャラクターが反映されていました。
少年のように純な歌声でした。
「ああ、私の優しい熱情が」高音を課題にしていただけあって、高音発声が音程感良く無理なく歌えました。
「魅惑」この曲らしい熱い地中海的、ラテン的な歌が楽しめる好演でした。
「秋の月」今回、この曲は彼の中低音の良さが発揮できる音域の曲でした、これも彼の歌声の魅力でした。
最後のPPの声は効果的な表現に落とし込めていました。
SKM
アーン「恍惚のとき」
サン・サーンス「サムソンとデリラ」より「あなたの声に私の心は花開く」
久石譲「もののけ姫」
当初から歌心のある方という評価を持っていましたが、今回は歌声の進化と併せてその点が良く発揮できた演奏になりました。
歌声については表現に適ったコントロールが良く表現出来ていたことを評価します。
「恍惚のとき」ブレスコントロールに苦労した高音のロングトーンが良く伸びました。
「あなたの声に私の心は花開く」好きな歌を心からいつくしんで歌っている様子が良く判りました。
「もののけ姫」何か乗り移ったような迫真力のある歌唱でした。
KNT
ヘンデル「アリオダンテ」より「可愛らしさ、お色気、それに艶やかさが」
フォーレ「イスパーンのバラ」
平井康三郎「平城山」
柔らかいソプラノ歌唱が持ち味であることが明快な演奏となりました。
力みもなくリラックスした演奏が心地よい3曲でした。
「可愛らしさ、お色気、それに艶やかさが」レッジェロなソプラノらしさに好感が持てました。
「イスパーンのバラ」フランス語の発音とフォーレの滑らかなメロディラインが良く表現されました。
「平城山」この音楽の美点が良く歌声に顕れていたと思いました。
ST
フォーレ「夢のあとに」
フォーレ「リディア」
山田耕作「野薔薇」
前回の試演会以降、喉の高い発声に代わって調子を出しているようで、今回も本番の緊張に負けずに積極的に歌う根拠になったようでした。
更に高音域の作品でどうなるか?挑戦してください。
「夢のあとに」この作品の孤独感が良く感じられる歌声になっており、音楽に集中出来ました。
「リディア」可愛らしい女性像を女性が歌うとこうなる、という雰囲気に好感が持てる演奏でした。
「野薔薇」レッスンで練習したリズムの問題もクリア出来ており、明るく軽やかな歌になったと思います。
SM
フォーレ「ある一日の詩」
「出会い」
「いつも」
「別れ」
中田喜直「木の匙」より「悲しくなったときは」
どの曲もテンションの高い集中を見せながらで歌い通せていました。
フランス語も日本語も発音を丁寧に処理しようとする意識が良く判りました。
「出会い」歌詞が良く判る歌で抒情的なこの音楽が表現されていました。
「いつも」激しい音楽ですが、激しさに酔わないで丁寧に歌えていました。
「別れ」曲の持つ悲哀が感じられる歌になりました。
「悲しくなったときは」悲しさと悲しさを跳ねのける情熱の対比が良く表現されていました。
HA
トスティ「私に安らぎを」
さだまさし「雨やどり」
彼女の歌声に改めて感じたのは優しく温かいものでした。
またステージの歌う姿も気持ち良いものでした。
レッスン後半で指摘した歌声の持ち方も意識できていたようです。
「私に安らぎを」宗教的な内容ですが高邁な姿勢を見せずに温かい眼差しを感じさせる歌でした。
「雨やどり」日本語歌詞が明快に理解できる歌になり、歌の持つ庶民的なユーモア感が良く表れていました。
AC
フォーレ「尼院の廃墟にて」
フォーレ「ネル」
團伊久磨「藤の花」
信長貴富「夕焼け」
リハではかなり緊張していましたが、ちょっとした指摘で落ち着いて歌えるようになりました。
本番はむしろそれ以上にリラックスできたようです。
「尼院の廃墟にて」作品固有のリズムを歌う時に陥りがちな癖がなく、滑らかな歌い方が出来ていました。
「ネル」高声用で練習に苦労しましたが、力まない高音の歌い方が良かった。
「藤の花」声がリラックスして歌えていたため、この作品らしさを表わせた。
「夕焼け」高音を力まないで歌えたことが音楽的な歌唱につながった。