TC
プーランク「海へ続く道」
モーツアルト「暗くさびしい森で」2曲をレッスンしました。
声の扱いが上手いです。
楽器としてどう扱うと声の良さが発揮できるか?良く知りつくしていると思います。
強いて言えば、そのためににやや♭気味になる傾向もあるにはありますが、それは声質とレガートに歌うという
ことの副産物と思う程度のことで、それほど気にはなりません。
レッスンで指摘したことは、例えばAという母音があると、それがAを歌っている、と感じられないことです。
むしろ狭母音に感じられることが多々あります。
確かに密度のある声質、レガートな歌唱は基本中の基本ですが、それはほどほどにして、むしろフランス語の自然な語感を優先しても良いのではないでしょうか?
フランス語としては他にはあいまい母音のeです。これも全体にUに近い感じで暗いです。
eのあいまい母音は、もともとは広い発音のEが変性したものなので、あまり狭母音を強調しないこと。
そして語尾のe muetの場合は、一瞬のディミニュエンドをかければ良い程度です。
俗に言われる「ベルカント唱法」というものは、歌声を美しく良く響かせて聞かせる発声法として、理に適った発声法、歌唱法だと思います。
しかし、日本人がいろいろな国の歌をその国の言語で歌う場合、ベルカント唱法がオールマイティなのではなく、狭い一時代の音楽スタイルとイタリア語という言語で作り上げた歌唱スタイルなのだ、ということを良く理解した上で、それぞれの言語の持つ語感によって、このベルカント唱法が持つ発声のディテールを更にカスタマイズする必要があるのではないでしょうか?
たとえば、ベッリーニのアリアの歌唱法で覚えた旋律を歌い上げるテクニックを、そのままフランス歌曲に応用すると少しおかしなことになります。その選別方法は、あくまでもフランス語と言う言語が持つ語感の美点や音楽性、特徴を良く理解することに他なりません。
同じことを日本歌曲にあてはめてみれば、理解し易いと思います。
母音発声に貢献することによって、響きの声量の面で後退するかもしれません。しかし、この後退を悪く捉えるのではなく、
良い方向に捉えられないでしょうか?
何でもかでも声量と朗々とした響きだけで歌うことによって、逆にニュアンスが伝わらないこともあるでしょう。
そのことを、母音発声を明快にすることによって、音楽の陰影を浮き彫りにする、と考えてみる価値は大いにあるのではないでしょうか?
ベルカントの基礎がしっかり出来ていますから、後は歌詞の言語が発声に影響を及ぼし音楽そのものを左右すること
を良く考えて、そのために発声を少し母音の違いによってカスタマイズすることを研究してみてください。
YC
発声練習を10分ほどやってから、ロッシーニ「約束」を練習しました。声が温まるに連れ良い声が出てきました。
この曲で練習したことは、譜面に書いてある指示を徹底して守ること、でした。
スタッカート、マルカート、スラー記号、P~Fに至るダイナミックの指示等々です。
そして現在の彼女にもっとも大切で必要なことは、Pの声だと思います。
何となく声を抜いて出すのではなく、綺麗に響くPの声を追い求めて下さい。
今回指示したことは、口を開けすぎないで顔の前の小さな円の範囲で出すイメージを持つことでした。
これが出来るようになると、Fの声が生きて、表現幅が飛躍的に増えるでしょう。
それから全般に中低音の声が潜ってしまうようになったので、中低音の響きは明るい声を常に意識して下さい。
喉で深くしないで、声の出し始めの重心をみぞおち辺りに感じて出だすことが基本です。
喉を合わせる意識を開発するために、もう少しあくび、の状態を意識することも良いことだと思います。
ロッシーニの歌は、歌曲もアリアも、ある程度の声の基礎があれば、譜面の指示を守ることで、女声が持つ明るい色気が
自然に良く出るように書かれていると思います。
TJ
体験レッスンでした。
発声練習の声は、良く響く声でしたが、少し喉に依存した発声ではないか?と思いました。
そして、声帯の使い方が、口の使い方に顕れています。
口をあまり開けないで、少しどちらかに口の緊張を寄せているような開け方でした。
恐らく、これが彼女の発声の何か声帯の使い方の鍵になるのではないか?と思いました。
それで、声の響きを変えるというのではなく、単純にもっと口を開ける発声を指示してみました。
そうすると、それだけで自然な響きになります。
喉に強く寄りかかるような声質が、少し柔らかくなることで、声の響きが四方に拡がり、そのことが
声の響きを豊かにする、という感じでした。
ドニゼッティのドン・パスクワーレを歌ってくれました。
良く歌えています。声はやはり発声の声になりますので、発声と同じく、口の開け方を指示しました。
特に口を横に開かないこと。口の端を拡げないで、縦に開けること。もっと下顎を縦に降ろすことを指示したと思います。
しかしいずれにしても、今の喉に依存した発声であっても、3点Cを軽々と出す喉は立派なものです。
その美点を保ちつつ、喉の開いた発声を覚えて、更に美しく良く響く声を目指してほしいと願っています。
MM
ベッリーニVaga luna Malinconia
モーツアルト、イドメネオのアリア。
風邪の休み明けで、喉の調子が最初は今一歩でした。
喉が浮いて上半身も硬いです。
発声練習では、まずは胸声の基本をしっかりさせることを旨として下さい。
この場合の胸声とは、強く太い声、という意味ではなく、俗に言うお腹から声を出す作法です。
緊張を上に集めないで、上半身を脱力し、音程をあまり気にしないで、お腹から声を出し始めるようにして
発声することを、まず発声練習の最初に実行することです。
このことが、中音域における息漏れのない声帯の良く合わさった声を実現してくれます。
そしてその発声で、高いチェンジまで行かない1オクターブ位を落ち着いてリラックスして
発声することで、喉が落ち着いて来るでしょう。
ベッリーニの歌曲は、レガートを徹底して下さい。レガートは一定の声質によって、フレーズを歌うことです。
特に2点Cから上で、簡単に声帯を開かないように注意して下さい。
しかし、喉を締めないように。また音程の跳躍で音程を追わないように。
この意味は、喉を動かさないでなるべく高音まで音程を出す、という意味です。
必然的に、お腹の支えと下顎の支えと同時に、軟口蓋を上げる上あごの動きが大切です。
それから、あくびの状態を保ったまま発音出来ることが、彼女の課題です。
まだ言葉を口先で発音してしまうために、喉の開かない声で歌ってしまいます。
これが、結果的に喉を締め喉に負担を与えてしまうのです。
今までも何度もやりましたが、下顎の動きで発音することをなるべく抑制し、その代りに上あごをもっと使うのです。
或いは唇や舌も関係があります。この点が現在もっとも足りていないことだと思います。
喉を開けると同時に軟口蓋も開けること、その訓練のための発音時の下顎の抑制を良く考えて練習されて下さい。