NS

伴奏合わせでした。
今回のフォーレ3曲は、譜読みも声も、この音楽の姿を理解するために必要十分なレベルに達していますが、
更にこれらの曲が持つ音楽の表現に似つかわしい発声や、ピアノとのアンサンブルを目指しました。

まずSoirですが、音楽として不用意なフレーズ感を出さないで、徹底したIn tempoで、最後まで行くことです。

特に出だしから、中間部に入る前までの、静かで落ち着いた音楽は、その中で恣意的なフレージングや
歌手の個性とか、ピアノの余計な強弱が強調されると、この音楽の持っている神秘性が消えてしまいます。
非常にデリケートな音楽だと思います。

良い意味での「ニュアンスのない音楽」を目指してください。

その上での声質です。
伴奏のゆったりした8分音符のアルペジョによるハーモニーが醸し出す微妙な低音の倍音の混ざり具合が、
ふわふわとした柔らかいの質感を感じさせてくれます。
声は、その伴奏の質感に似つかわしい、柔らかいが、美しい低音の声、を目指してほしいのです。

そのためには、鼻腔共鳴のきつい前に響く高次倍音の効いた声ではなく、柔らかい喉の開いた声が求められます。
そのためには、出だしのFの声は、同じ和音内の下の音程を出して、その延長線上にある響き、をイメージしてください。

中間部のMetsという言葉のEの母音には注意してください。
これは狭いEではなく、広いEです。思ったよりも広く、Aに近い響きで柔らかく出すのです。
Fraicheは、決して日本語のフレッシュではありません。あくまでFraicheであって、フランス語には存在しない促音は絶対に入れないように発音してください。

Les berceauxでは、出だしの声質を決めるのに相当何度もやり直しました。
Le longで始まる、Leの声が狭母音で鼻腔に入る声になるため、表現がきついです。

ここはダイナミックの指示としても、弱い訳で、ピアノ伴奏も少ないですから、そんなに声を響かせることに
躍起になる場所ではありません。
むしろ、柔らかく声をあつかうことで、詩的なイマジネーションが引き起こされるでしょう。

発声的にいえば、どの単語でもあいまい母音の処理が狭すぎますし、どの母音も狭母音化した響きになる傾向が強いです。

上あごや、軟口蓋、鼻腔への響きを大切にするのは判りますが、それがあまりに、喉側のリラックスや喉の開きが少なくなることが
しばしばです。

その点をこれからもう少し開発することで、今までと違う声の表現が付加されるのではないでしょうか?

ピアノ伴奏は、前半の終わりから再現部に戻るところは、あまりRitしない方が良いです。
再現部始まりの前に、ほんの少しだけブレーキをかければ充分でしょう。

また、後半の最後のPar l’ame des lointain berceauxのフレーズは一息で歌うこともあり、
無駄なRitや、テンポの緩みを出さない方が良いです。
また、その方がこの曲の淡々とした、内にこもった情熱らしさが出ると思います。

Dans les ruines d’une abbayeは、それまで散々練習しただけあり、非常に良い声質で始まりました。
ただ、3番まである有節歌曲、全部がべったり同じ声質、同じレガートで、ダイナミックの変化もないために、
音楽的には表現が感じられません。
歌詞を語る部分、歌う部分、歌詞の意味に応じた抑揚、をもっと研究して出してください。