SM
発声練習から始めましたが、風邪引き後で調子があまり良くないし、練習が出来ていないという予想から外れて、
まったく問題ない、いつも通りの声が出せていました。母音発声はIで始め、最終的にAにしましたが、低音も上手く載せていました。
プーランクの「あたりくじ」をひとまず通しましたが、これも予想に反して、と言っては語弊がありますが、予想外に良い結果に驚きました。
というのも、声の調子が良い、という時に比べても、良い結果が出たからです。
それは、まず声の揺れが少ないこと、歌詞発音が明瞭で、どの曲も、ほとんど
歌詞が判る歌になっていたことの2つの点です。
また、音程も良かったですし、歌のテンションがまた良かった。
懸案事項はいくつか既にチェックポイントがあって、聞き耳を立てました。
1曲目「おねむ」はほとんど心配はなかったです。発音も音程、響きとも彼女の最高の出来でした。
2曲目「なんてすごい!」テンポの速いこの曲。一番心配なのが、歌詞が不明瞭になることと、高音入口で
喉を押して、次の3曲目の低音が出にくくなるきっかけにならないかどうかでした。
しかし、歌詞は今までになく明瞭に発音・発声出来ていました。
3曲目「心の女王」の入りの声が低音であり、これが上手く出ないと、印象が悪いのですが、
とても上手く対処していて、まったく問題ありませんでした。
また、声のダイナミックスに対する気遣いもありました。
4曲目「バベビボビュ」は、テンションの高さ、勢いが素晴らしかった。
実は発声的には、下にドスンドスンと落とし込むようなリズム感とあいまって、
どうかな?とは思いましたが、それを上回る、本人の集中力とテンションに良い意味で圧倒されました。
声の調子さえ崩さなければ、このことは悪いことではないと思いました。
5曲目の「音楽家の天使」は、声を押さないPで歌う表現が、今までにない優しさが感じられました。
また、Fで歌う箇所の声の表現が活かされています。
6曲目「赤ちゃん水差し」は、これもテンポが速いこともあり、今までになく良いテンションの高さでした。
この曲もやや身体でドスンと落とし込むような力の入れ方が少し気になりますが、やはりテンションの高さが
良いため、気になりません。
大きなホールで見聞きしたらどうなるか?
その点は、本番前のGPで考えれば良いことだと思います。
7曲目「4月の月」
これも声を押さないで丁寧に歌いこめていました。
やや消極的な表現かな、とも思いましたが、丁寧に処理することはとても大事なことなので、敢えて指摘はしていません。
声の調子と勘案して、積極的に声を出すべきところは出してほしいと思いました。
またPPの声は大切ですが、声が抜けてしまわないように気を付けてください。
全体に発音が明瞭に感じられたことと、FやPなどのダイナミックスの変化を良く感じて歌っている点が、好感を持てました。
もちろん課題であった低音発声で息もれがほとんど起きず、また声の扱いに無理がありません。
原因は、多分風邪をひいて調子を崩したことに対する気遣いがあったのだと思います。
ということは、普段でも、同じような気遣いをすれば、違った展開になるということを考えて、
今後の声の課題として考えて行けば良いと思います。
NS
発声練習では、口を開けた大きさを指摘しました。
口の開けた開度が狭いです。
口の開け方の狭いことが一般論として悪い、ということはないですが、開けて上手く行くと息の伸びが違うのです。
声量ある、とか、声が伸びる、という意味はそういうことが多いです。
声が響くときには必ず吐く息が乗っている理くつですが、その乗り方が基本的に口を開けたほうが良いのです。
これは、もちろん、響きがきちっとはまった場合(きれいな声門閉鎖の成立)という条件付きですが、口を開けたから、声門閉鎖が上手く行かないう理くつはないはずで、
軟口蓋の開け方、下顎のバランスなどが相互作用しますので、口を閉じて声の響きがはまる感覚があるとしても、
そのことだけに頼らないで、口を開けたポジションを、もっと探してほしいのです。
いわゆる「あくび」をした状態をブレス時に作りなさい、という意味は、前述の声門閉鎖と息の乗りの良い声の響きを実現することが目的と言い切っても良いです。
このことを逆に、歌う側から見てみると、口を開けない方が、自分の耳には良く響くのではないか?ということも類推出来ないでしょうか?
曲はフォーレの「尼院の廃墟にて」から始めました。
簡潔に書きますが、前述の口を開けたポジションと、ニュアンスを大切に、ということです。
ニュアンスは、楽譜に書いてあるダイナミックの指示通り、ということに尽きます。
気を付けないと、最初から終わりまで、まったく同じ声で歌い通してしまいます。
また、その声は、ほとんどMF以上のダイナミックです。
これでは、演奏の意味が問われてしまうでしょう。
難しい解釈以前に、楽譜に書いてあることは、書いてある通りにやることから、発声の問題も改めて問われるわけで、
彼女のレベルであれば、そろそろ楽譜指示をその通りに歌ってみることで、発声的にも様々な発見があるはずです。
2曲目「ゆりかご」は、出だしの声のあり方でした。声のポジションであり、やはり高くなり過ぎます。
鼻腔とか上顎に声を集めよう、入れよう、という意識が強いために、音響的には確かに通る声ですが、
この曲の表現とは合わないと感じました。
ここでは、前述のようにダイナミック指示はPなわけで、必要以上に声を響かせる理由はないということに加えて、
マイナーなメロディ固有の雰囲気を表わす意味でも、喉の開いた深く柔らかな声質を選択してほしいところです。
それから、さびの部分を含めて、ピアノは余計なルバートは絶対にしないことと、再現部に入るところも
余計なRitはしないほうが、この曲の表現には合っています。
「夕べ」は、ピアノのアルペジョで始まる前奏の和音の響き具合と、声のポジションの取り方でいかようにもなる、
声質の深みで、決まります。
間違いなく言えるのは、決して高いポジションで通る声だけを必要とはしていないということです。
声の深みと柔らかさが必要なのは、そういう意味のことを詩人が語っているからです。
歌と言うのは、単に音を出すことだけが目的なのではなくて、詩の内容に共感した作曲家の意図が
メロディになって表れているわけで、その意図をくむためには、やはり詩の意味の言葉を、どう投げかけるのか?という
感情の基本と、メロディをどう歌うか?という声楽的なスキルとのすり合わせの作業になるわけです。
声楽的なスキルは大切ですが、そこから感情や言葉の語感が抜け落ちしてしまっては、歌う意味がありません。
そのことを、改めて良く考えたうえで、自分の声をどう開発するか?ということ良く考えてください。