GH
「冬の旅」から
16番~18番
16番「最後の望み」は、旋律の音程に難しさのある曲ですが、ピアノ伴奏の和音内の音ですから、伴奏和音と声との関連、和音感を
感じるように譜読みされてください。それがつかめれば、必然的に良い音程感で歌えると思います。
単音の音程を探っていると、上手く行きません。必ず伴奏と歌う旋律の関係が、綺麗に見える感じがあると思います。
あとは、言葉の朗読の単位をつかんでおいて、譜面を見れば、ドイツ語のアクセントの場所が判ると思います。
アクセントさえ自然に強調出来れば、後は律義に歌い過ぎないよう、全体のテンポ感とフレーズの歌い進め方を
確立出来れば、良いでしょう。
例えば、冒頭のHie und daという単語の最後のdaが長い附点四分音符が当たっていますが、だからといって、この音符を律義に伸ばしすぎないように、
あくまで文章の中の一単語である、というくらいがちょうどよいのです。
あまりに音符に寄り添い過ぎることが、逆効果になるのです。
17番は、中音域の歌ですが、繊細な旋律感があり、音程が♭にならないように、注意されてください。
かなり高い音程感で歌ってちょうど良いです。この曲は音程が綺麗にはまって、語り進む感じが出せれば、とても美しい歌曲の印象が残ります。
その意味で、言葉の子音や発語の滑らかさ、爽やかさなども、大切な要素になります。
18番「嵐の朝」は、勇壮で速いテンポの曲ですが、これも、いわゆる歌い過ぎのために歌詞が良く判らない歌になっていました。
歌詞発音が判るか判らないか?と言う点の、歌の大きな要素ですので、発音を明瞭にすることと、一番大きな要素は、
母音を長く伸ばしすぎないで、適度に切って歌うと、言葉が判る歌になります。
最後にイタリア古典のVittoria mio core
テンポが速すぎると思います。
テンポの設定以前に、良い声で歌えるかどうか?自分の持っている現在の発声を最大限活かせるかどうか?
という視点をまず大切にして歌ってください。
テンポの緩急の設定はその後になると思います。
NS
発声練習は、声が奥にこもる傾向が顕著でした。
舌の位置、脱力、あるいは舌先を少し意識することで奥に引っ込み過ぎないように、注意して発声を進めてもらいました。
発声に関しては中低音で、響きを喉に落とさないようにすることは、気を付けるべきですが、それ以上考えすぎないようにしてください。
大体が発声はいじりすぎると、中にこもった響きになり勝ちなのです。
フォーレの「ヴェニスの5つの歌曲」を1番から全曲歌いました。
全体に、声の発声そのものについて、特に問題は感じませんでした。
それよりも声の表現としてのピッチについては、彼女はもともとピッチが良いので、その巾の変化を使い分けることが出来る、と
感じています。
1番「マンドリン」は、とても良く歌えていましたが、意味が良く判らないスタッカートがあったので、指摘しました。
確かに、必要以上にレガートに歌うよりも、リズミカルな伴奏のマンドリンを意識した歌い方の方が良いですが、
あくまで、フランス語の朗誦のスタイルは保ってください。
スタッカートやマルカートが付くと、そこに何か意味があるかのように聞こえてしまうものです。
2番の「ひそやかに」も、とても綺麗に歌えていますが、私の伴奏テンポのせいもあって、小作りな音楽になりました。
この曲は、彼女の声であれば、ゆったりと聴きたいように感じる雄大な要素がある音楽と思います。
出だしの1点gの声のピッチですが、和音内、下側の1点Esを感じて出す声の音程感が、この曲の和音感に合っていると思います。
この音程感の使い方は、最後まで維持するようにされてください。最後の節で特に必要になります。
3曲目「グリーン」は、テンポは速めで良いと思いますが、後半の再現部から、ゆったりして、一端大きく盛り上がって、最後に静かにゆっくり
終わる、という、曲全体にわたるテンポ設定の変化が、この曲の面白さを出す要だと思います。
ただ、決まったことをやるのではなく、そういうテンポの変化の意味を自身が感じていることと、ピアニストもそれを敏感に感じて、
両者の共同作業で、自然に出来あるのが理想であり、それこそが本当のアンサンブルです。
あらかじめ、決められたことを決められた通りにするのは、アンサンブルではないと思います。
4曲目「クリメーヌに」は、これも現状の声ではなく、伴奏とのアンサンブルがとても重要です。
全体の雄大な音楽を作るために、それを際立たせるための導入部のゆったりから速く変化するテンポ感のメリハリを大切に作って下さい。
そして、声のダイナミックの変化も充分に感じて演奏して下さい。
5曲目「それはやるせない心地」も、4曲目から引き続いた感情で、より一層その感情は現実味を以て迫って来ます。
4曲目では、願望でしかなかった欲望が、5曲めでは現実に存在するものになっています。
かなりゆったり始まって、徐々に流れて、再び川の流れは雄大になり、海に注いで行くような、雄大な自然を感じさせてくれるように、
アンサンブルを作り上げて下さい。
この曲の冒頭でも、声のピッチは和音内の下側から取る方が、しっくり来ます。