2008年2月17日アトリエムジカC発表会講評

発表会直前に風邪を引いてしまい、終わってみれば疲れてバテバテで、講評を仕上げるのが遅くなってしまいました。さて、今回の発表会は、大田区大森にあります「大田文化の森ホール」を1日借り切って、2部に分けて行いました。
1ヶ月前の打ち合わせでホールを見学した際には、音響板がセットされていませんでしたが、それにしても、響かないかな、どうかな?
という危惧がありました。しかし、終わってみればとても良いホールだ、という印象が大きく残りました。
いわゆる残響がたっぷりあるというタイプではないですが、声量がなくても、良い発声で歌えば、歌詞が明瞭に聞こえて効果的な歌唱演奏が出来る、と思いました。
ちょっとスケールは違いますが、パリのパレ・ギャルニエ(旧オペラ座)みたいな響き方でしょうか?(笑)
歌手の力量がはっきりして良い、という意味でも発表会には良いホールではないでしょうか。

発声面からいえば、声に芯がなかったり、上がって声がしっかり出せないと、たちどころに隅々まで行き届かない声になってしまいますね。
しかし、ほとんどの皆さんがこれらの条件をクリアしていたことが良く判り、指導者としても安心しました。
今回、特に3年以上通ってくれた人たちの上達が著しく、教えてきた者しては本当に嬉しかったです。
何より皆さん、良く練習したし、発表会も良く出てくれました。本番を積み重ねることくらい、強みになることはありません。
声楽という趣味は、上達に時間はかかりますが、練習を積み重ねればそれなりの成果を得ることが出来ます。
そしてそのことによる喜びも、またひとしおなんです。何しろ扱う作品は、大変な芸術作品ですから。
一生物の趣味ですから、皆さん、何があっても!?続けていただきたいと願っております。

2008年2月21日


 

 

磯貝みちる ピアノ 福間知子
プッチーニ 「ジャンニスキッキ」より
ラウレッタのアリエッタ「私のお父様」
中田喜直 「さくら横丁」

彼女の声の美点、声がはっきりして好く通る声、であることが良く出ていました。
出来れば、もう少し中高音の声に抑制が効いてくると、更に美しくなると思いました。
また、もう少し意識してブレスが伸びると良いですね。
中田喜直の作品は、この曲の美しさがイメージされ、楽しめました。
おめでとうございました。


 

大野徳雄  ピアノ 大野多惠子
カプア「オ・ソレ・ミオ(私の太陽)」
ヴェルディ「リゴレット」より
マントヴァ公爵のアリア「女心の歌」
プッチーニ「トゥーランドット」より
カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」

天性のテノールの声の素質を持っていますね。
特に「誰も寝てはならぬ」の最高音などを軽々と安定して出せるだけでも大したものだ、と感嘆いたしました。
無駄な力みや不自然なことの無い発声は、彼の美点だと思います。それに付け加えて、今後は、高音の声の共鳴などを覚えると更に素晴らしいだろう、と想像されました。
おめでとうございました。


 

中嶋加容子 ピアノ 境田直美
モーツアルトの歌曲より
「クローエに」「すみれ」「顔では静かに微笑みつつも」

モーツアルトのどの曲も、彼女の声質に合っているな、と今回の本番を通しても確信できる結果でした。
このような発表会形式でのソロは、初めてということにもかかわらず、古典的な作品を見事に安定して歌えたのは、羨ましい資質です。本番のステージに強い資質なのでしょう。
声はまだまだ磨けますし、声量もこれから更に出てくると思いますので、無理なく、しかし長く続けられてください。
おめでとうございました。


 

コンシニ理子 ピアノ境田直美
フォーレの歌曲より
「蝶と花」
ビゼー「カルメン」より
ミカエラのアリア「何を恐れる事がありましょう」

彼女の持ち味のフランス語の語感が充分に活かされた結果でした。アリアは、歌詞の意味やドラマが良く理解された歌になっており、ドラマティック(演劇的)で、聞いていてこちらに訴えかけてくる、訴求力と迫真力が感じられました。
フォーレの歌曲は、テンポ設定が指示通りに演奏できました。
それが絶妙で、前半の少しアンニュイと最後のアップテンポとの対照による小粋な感じが、良く出せていました。
おめでとうございました。


 

松本悦子 ピアノ 佐藤純子
フォーレの歌曲より
「あけぼの」「リディア」「この世」「ばら」

今までの発表会は、良い声と得意のフランス語を活かした歌曲がレパートリーでした。
少し緊張気味になって、実力が発揮出来ない印象がありましたが、今回はそれを乗り越えて、素晴らしい演奏となりました。歌詞や声を、余すところなく伝えようとすることに、とても集中していたことが、良い結果を招いたのではないでしょうか?発声には無理な力みがなく、しかしながら発音が明瞭なために、フォーレの歌曲が持つ小さくて可愛いらしい音楽であればこそのエレガントな世界、を充分に表現出来ていました。
おめでとうございました。


 

吉村伊織 ピアノ 境田直美
シューベルトの歌曲より
「アベマリア」

今回、まったく初めての発表会経験。それにも増して、声楽自体も、ほとんど初めてに近い状態で、厳しかったですがどうにか歌いきりましたね。最初は心配していましたが、声も思い切って出せたし、ブレスも持ったしで、何とか乗り切れました。今回は、経験を積んで行く始まりだったですから、これからは、選曲を含めたご自身の将来像、モチヴェーションを再点検して再びレッスンに臨まれてください。
おめでとうございました。


 

鬼頭華子 ピアノ 福間知子
ベッリーニの歌曲より
「どうか満たしておくれ」「銀色に染める優雅な月よ」
プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」より
ラウレッタのアリア「私の大好きなお父さん」

今回は暗譜のこともあり、少し心配があったのですが、本番は結果的に最高潮で終われて本当に良かったですね。無意味な力みもなく、安心して歌を聴いていられました。
アリアも、彼女にしては高音域までありましたが、無難にこなしていて、安定していました。
今後の課題は発声だと思います。高音は共鳴がもっと出せますし、中音域ももう少し声量が出ると思います。
今後は、その辺りにもモチヴェーションを持ってください。
おめでとうございました。


 花村明美 ピアノ 福間知子
イタリア古典歌曲集より
「菫(すみれ)」
フランク 天使の糧
ルッツィ アヴェ・マリア

 

風邪気味で鼻の調子が悪かったそうですが、本番はどうして、なかなか堂々とした歌いっぷりで、本番の経験が多いと余裕が出るなと感心しました。発声も大分こつを覚えつつあるようで、そのことも安定した演奏につながっているでしょうが、なんといっても彼女の場合は、演劇的な集中力が抜群に良いことが大きいのでしょう。
今後の課題としては、やはり発声でしょうか。更に磨きをかけてほしいと思います。そうすれば、声量はもっと出てくると思いますし、高音ももっと楽になると思います。
おめでとうございました。


 

達富富士子 ピアノ 境田直美
モーツアルト「ラ・フィンタ・センプリーチェ」より
ニネッタのアリア「親愛なるご婦人方だんなさんを見つけるが」
イタリア古典歌曲集より「君がみそばに」
アルディーティ「くちづけ」

実は声のことを心配していたのですが、それがまったくの杞憂であったため、教える者として嬉しかったのです。
残響で誤魔化せない、本当に声の真価が問われる小屋でしたが、全曲とも私の教えたことが実現出来ました。
今までで、一番の出来上がりだったのではないでしょうか?音程が良く声の響きが良く集まっていました。
勿論、完璧というわけではありませんが、方向は定まったと考えて良いでしょう。
この方向で更に精進されてください。
おめでとうございました。


 

齊藤敦子 ピアノ 齊藤義雄
フォーレの歌曲より
「祈りながら」
「リディア」
「僧院の跡で」

彼女も、緊張で上がる性質だったですが、今回は見事に乗り切りました。
そのため、声量も良く出て、声の響きが小屋中に充分に広がっていました。
課題としてはフランス語の発音と発声の関係でしょうか。大分明瞭になりましたが、後もう少し!
声の響きは良く集まっていますから、特に開口母音の発音が広がれば言うことはありません。
おめでとうございました。


 

横川周子 ピアノ 福間知子
成田為三「浜辺の歌」
ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」より
ルチアのアリア「あたりは沈黙に閉ざされ」

素晴らしい演奏でしたね。特にアリアは、満場を唸らせる見事な出来上がりでした。
日本歌曲が、またとても自然で歌詞のわかる美しい結果になり、大成功だったと思います。
日本語の歌曲と、イタリア語の特にベルカントものの長大なアリアの声とが、まったく自然に使い分けられていました。あるいは言葉のせいで、自然にそうなったのか?あるいは音域のせいなのかもしれません。
課題を強いて挙げれば、アリアでの低音域で、もう少し響きの深い声があれば、言うべきことはありません。
これからも更に精進を重ねてほしいです。
おめでとうございました。


 

真鍋 匡 ピアノ 福間知子
フォーレの歌曲より
「祈りながら」「水のほとりで」「アルページュ」「ネル」

素晴らしかったですね!特に「祈りながら」は、曲が持っているテーマを完璧に表せていたと思います。GPで聞いたときは息を飲むくらいに、よく歌えていましたし、本番も同じ結果が出せていました。
ここでは詳しく書きませんが、彼が本来持っている歌声の美点は、ある程度完成されたと思います。更に表現力を増すためには、少し早いテンポの曲、或は声の強さや輝きを要求される曲も、これから練習されたら良いと思いました。
おめでとうございました。