アトリエムジカC声楽発表会 昼の部
昼の部に出演した皆さん、お疲れ様でした。ホール専属の調律師による調律周波数の間違えなどがあり、私もかなり頭に血が上ったりしましたが(笑)まあ無事に終わり、良かったです。
皆さんもそれぞれ個性的に、歌い演じてくれて、退屈する暇の無い、楽しい発表会になりました。
しかし、一点だけ小言を言わせてください。昼の2時~という始まりのせいなのか、始まりの頃はお客様が極端に少なく、少し残念でした。
お客様を呼ぶのも発表のひとつと心得て、今回お客様を呼ばなかった方、呼べなかった方、次回がんばってください。呼ぶことで、練習にも身が入りますから、くれぐれもよろしくお願いします。
今回は、録音を聞きなおしてみました。皆さんの精一杯の歌声の魂が、とても大切なものとして耳に残りました。本番の記憶と合わせ、書きました。もとより、皆さんの努力や苦労は十分評価の上、書きましたので、結果のみにこだわらないで、将来の糧にして頂きたいと願って書きました。それから、そんなこと判ってるよ、ということですが、本番直前の袖でも楽屋でも、守るべきテクニックのポイントを押さえて確認しておく、という行為がありますね。その点を思い返してみてください。特に覚えたての発声のテクニックや、あがり症の人のブレスの身体使い等々です。
最後の最後まで悪あがきをしましょう!笑
後藤 英生 イタリア古典歌曲集より「勝利だ!私の心よ」 シューベルト「冬の旅」より「あふるる涙」「休息」
彼の歌を聞いて思うことは品格でしょうか。はったりで押すのではなく、率直に丁寧に音楽を表現するところに好感を持ちました。
発声では本番の緊張のせいでしょうか。全体に喉がすこし高めでした。でも、それも彼の一つのキャラクターなのだと思える、歌の育ちの良さのようなものが感じられました。
発声のこつは判ってきていると思いますので、更にブレスから声出しに至るところで喉が上がらないように、注意してみると良いでしょう。
イタリア古典の男らしさ、雄雄しさ、輝かしさは、これからも研究課題にされてください。
そして「冬の旅」の孤独感、枯れたような味わいは良く出せていました。
特に「あふるる涙」は、なんとも言えない孤独感が身にしみて感じられる素晴らしいものでした。「休息」もレッスンで勉強したとおりの表現が出せていました。
総じて安定した演奏が出来る印象であり、安心して聞いていられました。
達富 富士子 モーツアルト 「すみれ」 メンデルスゾーン 「歌の翼」 モーツアルト 「魔笛」より
パミーナのアリア「ああ、愛の喜びは消え失せて」
彼女自身が、寸前まで、どうしよう!と悩みに悩んでいましたが、思い切ってやって良かった!と心から思えました。
発声の難しさ、人によって伝え方や考え方が大きく違うことで、こちらとしても指導の難しさを痛感しました。
でも、今回の本番で、本人も、そして私も考え方が統一出来るようになる、と確信出来たと思っています。
今回ぶつかった壁や、問題を忘れないで、次回につなげてほしいです。
「すみれ」が実は一番心配でしたが、どうやら元通りで歌えたと思います。「歌の翼」は、自然な歌い方でまったく問題なく歌いとおせました。
アリアは、もとより難しい面があることは判っていましたが、挑戦すること、その難しさにぶつかることで、自身の発声に考えが及んだ効果は大きかったと思います。
発声はあまり細かいことに拘泥せず、的を絞って勉強されてください。多少の瑕疵よりも、何が大切か?を見極めることなのでしょう。
これは、私自身に課さなければならないこととも思います。
安藤 陽子 モーツアルト 「ドン・ジョヴァンニ」より ツェルリーナのアリア「薬屋の唄」
エルヴィラのアリア「不実なる男、我を裏切り」
寸前によく練習していましたし、練習での歌声も安定していたので心配がありませんでした。
「薬屋の歌」の可愛さ、甘さとエルヴィラのテンションの強さは良く歌い分けられていたと思います。
強いて言えば、緊張のせいで喉のポジションが高く、息が浅い傾向がありました。
1曲目で高いな~このままで2曲目は大丈夫かな?と感じましたが、そのまま2曲目を上手く歌いとおせましたね。
これも経験によるもので対処出来たと思いますが、やはり課題はブレスの深さと喉のポジションの取り方に課題が残ります。
ただ、大分判って来たのだろう、と思います。。
自分で勉強したら必ず、こちらで確認をしてください。間違ってしまうと、せっかくここまで来られた努力が水の泡になりますので。
ということで、 これからが更に楽しみになった本番でした。
深谷 智広 トスティ 「虚しく」 タリアフェッリ 「起こさないで」 「愛の妙薬」より「人知れぬ涙」
彼も寸前まで苦労しましたが、本当に寸前でよいコツを身につけて、安定した良い声で歌い通せました。
1曲目から2曲目、そして最後の「人知れぬ涙」が最高の演奏になったと思いました。これは素晴らしかった!
教えたことがすべて確実に実行出来ていた。
やはり素朴に本番に強い、というか、お客様との交感を支えに歌をうたる歌える人なのでしょう。そういうセンスがあると思いました。
後は、覚えた発声のコツを大切にして、もっと自由にフレーズも長く伸ばして朗々と歌えれば、素晴らしいと思います。
今回覚えた発声は新しいことではなく、今までの積み重ねがあって、このコツを初めて使えるようになったのだと思います。
しかし、未だ今まで同様の課題も残っていますから、気を緩めないでこの良い感触を磨いて、磐石なものにしてください。
松本 悦子 フォーレ 「9月の森の中で」 「蝶と花」 グノー オペラ「ファウスト」より
マルグリート「宝石の歌」
すばらしいステージになりました。
おそらく今までの彼女の中ではベストでしょう。 テンションがとても高く、積極的な演奏でした。
プログラムを通して良い集中が続きました。 フォーレの静かさや森の匂いまで感じるようでしたし、「蝶と花」の洒脱な味わいが出せていた。
歌曲としては、もう少し狭母音の発声に深みが出ると良かったです。
そのことで、狭母音と開母音との間の立体感が出せたと思います。やや平板な声の印象が出てしまいました。
「宝石の唄」の演技力、声のバランスがとても良かったです。何より、積極的に歌おうというテンションの高さと発声とのバランスが良く、アリアとしてとても楽しめる演奏になりました。ブラボー!でした。
総合的に、伴奏者の力量が高く、そのことに負うことも大きかったと思います。
これからも、歌曲とオペラ並行して勉強されてください。
柘植加奈子 天久千絵子 バッハ カンタータBWV78より二重唱 「われらは急ぐ、弱けれど弛みなき足どりもて」
この曲は本当に素敵な曲ですね。オリジナルなバッハのカンタータの味わいが出せたかな、と思います。
歌と器楽伴奏との合わせは意外と難しく、寸前の合わせで大丈夫かな?と心配がありましたが
まずは、安心できるレベルで演奏してくれて、良かったです。
テンポは少し早めでした。もう少し落ち着けばベストだと思いました。
歌声はソプラノがビンビン響いていた分、アルトの低音の響きが厳しいところがありました。
その意味ではアルトの発声の良い勉強になったと思います。
ということで、器楽伴奏との練習を含めて、あともう少し練習したかった!
しかし、このようなバロックアンサンブルも良いものですね。これからも機会をなるべく作りたいと思いました。
葛西 裕子 フランス18世紀のシャンソン集より 「エグゾデのメヌエット」「もし私がシダになれたら」「若い娘たち」
「ママ教えて!」
この曲は、やはりチェンバロでやって良かった!と思えました。
ピアノ伴奏譜だったので、論理的にはチェンバロには合わない面もあったようでしたが、硬いことを言わずに、雰囲気で、ということで成功だったのだ、と思いました。
フランスロココ風な少し崩したような洒脱な感じが出て、なかなか色っぽかった。
そして彼女の声が、その雰囲気にぴったりでしたね。上手く歌えました。 レッスンで2年くらい間合いが空いたので、戻るのに少し苦労しましたが、今回の声を聞いて声は戻って来たし、以前よりもふっくらとした響きになったと思います。
また、彼女も笑顔で落ち着いて歌えていたので感心しました。
これから高音ももう少し練習すれば、レパートリーが拡がるでしょう。
これからのムジカCでの活躍を期待しています。
齊藤 敦子 信時潔 歌曲集「沙羅」より「丹沢」「あずまやの」「北秋の」「沙羅」」
フォーレ 「秘密」「愛の唄」
信時潔の歌曲は、声が良く出ていましたね。伴奏がしっかりした響きで、練習ではバランスに心配しましたが、ホールのせいもあるのか
彼女ががんばっていたと思いました。 歌えば歌うほど、緊張が集中に変わり良くなっていました。
特に「沙羅」の雰囲気、集中力は素晴らしかった。
フォーレの歌曲は、不思議なことに日本歌曲より歌詞が明快に聞こえました。
まあ、文語体という違いがあるので、一概に言えませんが。
「愛の唄」は伴奏と歌のアンサンブルにもう一歩の印象が残りましたが、総じて清純で美しい歌になりました。
今後の課題としては、柘植さんに似ていますが、鼻腔共鳴より、もう少し胸側の自然な響きが声に加わると良いですね。単純にもう少し発音で口が開くと良いと思いました。
花村 明美 モーツアルト オペラ 「劇場支配人」より ジルヴァークラング「若き君よ、喜んで貴方の愛をお受けします」
越谷達之助 「初恋」 ドニゼッティ「シャモニーのリンダ」より リンダ「この心の光」
いつもながらの彼女らしい素敵なステージを見せてくれました。ソプラノらしい声で美しい3曲を楽しめる演奏でしたよ。
モーツアルトのアリアは、軽やかで洒脱な雰囲気がモーツアルトらしさを表現していて、リラックスして聞けました。声も軽やかでしたね。
強いて言えば最後のメリスマ、ブレスが微妙に足りずに回りきらないところが惜しかったです。
「初恋」は、声の響きが良く伸びて、声量も感じました。上手く歌えましたね。
低音がやや不安定でしたが、緊張もあったのでしょう。それほど目立っていません。
シャモニーのリンダは、まずは楽しそうな雰囲気が出て好感の持てる演奏になりました。
高音の響きは軽やかでレッジェロでしたが、細かい音符の回り難さを感じました。
この辺りを、更に発声を研究して、高音の共鳴のある良い響きと回りやすさを求めてほしいです。
そうなれば鬼に金棒でしょう!
柘植 加奈子 バッハ カンタータBWV72より アリア「私のイエスはなそうとされる」
ベッリーニ「清教徒」より「あなたの優しい声が」
バッハのカンタータは、彼女らしい素直で真っ直ぐに響く声が、この曲の持つ宗教的な喜びを伝えているように感じられました。
声は、いつもよりは少しポジションの高い感じでしたが、多少上がっていたのでしょうか。
途中でブレスが少し余計に入ったのが残念でしたが、無理なく対応出来たのだと思います。
そして今回のような本格的なオペラアリアは初めての挑戦でしたが、これも声が良く響いていましたが、やや喉が高く細くなってしまった。
最高音は、良く出せたと思います。これから更に最高音の声の響きを探求してください。
これが始り、と思ってです。
オペラのアリアは、役柄性が要求されるのですが、この曲の場合は、もう少し喉の開いたふっくらした声の響きを作りたいですね。
鼻腔の響きはよく出せているので、後もう少し喉が開くと良いです。課題とされてください。
西村 佐和子 フォーレ 「ある日の詩」より「出会い」 ドリーブ 「カディスの娘達」
声の美しさが印象に残る演奏になりました。
今回、結構最後の最後まで、声のことでは悩んだと思いますが、結局本番でその答えが出たのでしょうか。
高音がとてもきれいでした。中低音は無理なく、しかしきちっとした響きが出せて、ノーブルな歌になっていました。
フォーレ「出会い」は、美しい声質とフレーズの歌い方があって、フォーレ中期の歌曲らしい織り目のみっちりとした美しさが出せていました。
音楽的には、ピアノ音楽との微妙に間合いのずれが感じられ、ブレス不足が感じられる部分がありました。
「カディスの娘たち」は、伴奏も歌もよく勉強して、予定通りの演奏でしたが、もう少し遊べると良かったです。
この曲は3番まであって、同じ構成なのでその辺りのあしらいがとても難しい曲だと思います。
発声において進歩がみられましたね。中低音のふくらみのある声と、高音のソプラノの滑らかな高い響きを両立したバランスが良かったと思います。
かなりノーブルな響きになったとおもいますので、この調子を維持して続けられてください。