アトリエムジカC声楽発表会 夜の部
夜の部は、本当に時間ぎりぎりで危ないところでしたが、皆さんプログラムの進行を淡々とこなしてくれて、無事、時間内に終了出来たことを感謝しています。
お客様の集中力が素晴らしく、マナーも良かったので、演奏者も良い集中で歌えた方が多かったように思いました。
さて、講評ですが今回は、録音を再度聞いて書いてみました。それぞれが努力して精一杯生きている、その魂の歌声が貴重なものとして耳に残りました。本番の印象と合わせて考えて書いてみました。それぞれの努力や苦労は十分評価の上、書かせてもらっていますので、今回の結果のみに拘泥せず将来の糧にして頂きたいと願ってます。そんなことやってるよ、判ってるよと思いますが、本番直前の袖でも楽屋でも、自分が命がけで守るべきテクニックのポイントを押さえておく、確認しておく、という行為がありますね。その点を思い返してみてください。特に覚えたての発声のテクニックや、あがり症の人のブレスの身体使い等々です。< /br>
最後の最後まで悪あがきをしましょう!笑
中野 雄介 シューベルト「鱒」「美しき水車小屋の娘」より 「旅」「焦燥」
ピアノ 海津 俊介
第一声から、とても爽快な声に魅了されました。声質として完璧ではないのですが、思い切りの良さが、良い意味で声に現れたのだと思います。
全曲シューベルトでしたが、曲の持つ若々しさがそのまま声と歌になって感じられ、けれんみのない彼の持つ歌声の良さが出せたと思います。
本番としてはとても良い出来だったのではないでしょうか?
出来ればフランス語も同じことですが、カタカナ読みにならないで、それぞれの母音の特徴を良く把握して、これからは母音の響きを丁寧に探してほしいと思いました。
特に歌曲を歌う場合は、大切にしてください。
また、中低音で喉に任せて太い力んだ声を出さないこと、が自然に守られていましたので、この調子で次回はテノールのアリアなど挑戦してほしいと思いました。
それから、ドイツリートはドイツ語で有節歌曲であれば、暗譜は大変ですが、これもなるべく今後は挑戦してみてください。
藤井亜紀 林光 ソプラノとフルートのための 「子供と線路」「空」
フルート 井関るみ
一聴衆として、最後まで集中力を切らさずに聞き通せる演奏になっていました。声量も十分出せましたね。
これは、日本語が明解に判る歌になっていたせいもあるでしょう。
1曲目は、ほとんど教えた通りに歌ってくれて、言葉も音楽も必要十分な演奏になりました。
ただ、出だしのフルートのピッチと歌のピッチが微妙に違っていたのが惜しかった~!
これも本番前に確認が出来ていると良いと思いました。していたのかもしれませんが。
2曲目は、1回目の演奏としては満点だと思います。強いて言うなら、歌詞の意味と流れのある演奏に更に近づけられれば、最高だったでしょう。
フルートの切れ味鋭い響きが今も耳に残っています。
現代声楽曲の紹介、という必要性、意味を強く感じることが出来ました。これからもぜひ現代作品の演奏に挑戦してほしいです。
杉田 真澄 ドビュッシー「出現」 ビゼー オペラ「真珠とり」より 「昔のように暗がりの中」
ピアノ 境田 直美
今回は、何か普段に比べて緊張が強くあるように思えました。それでも、リズムや発音など、勉強したことを出来うる限り再現しようととしている努力が良く判る、誠実で丁寧な演奏だったと思います。声も若さのある美しい声が随所で聞かれました。惜しいのは、低音発声が普段のように出来なかったこと。
覚えたてなので、本番で使えるようになるまでは時間がかかるのでしょう。
その面で上がっていたのでしょうか?。本番直前に楽屋でハミングなど、少し練習しておくと良いですね。
ビゼーのアリアも同様ですが、高音域は一所懸命、丁寧に美しく歌おうと努力していましたし、実際奇麗な声が出ていました。
万全とは行かなくても、我慢して踏みとどまって安定した音楽になっていたと思います。最後の高音域はとても綺麗に歌えていました。
今回練習した低音の発声は間違っていませんから、これからも自信を持って使えるようになってください。
峯村真紀子 グスタヴィノ「バラと柳」 リスト「ペトラルカの三つのソネット」より
「平和は見つからず」
ピアノ 藤井 亜紀
練習では、声の心配はなかったですが、本番は緊張が感じられました。それでもこらえて、2曲とも曲の表現、声ともに、音楽性のあるものになっていました。
「バラと柳」は安定して歌えているように聞こえました。リストの「平和は見つからず」は、長丁場の面もあって、声に緊張が出てしまいましたが、見事に歌いとおせました。
緊張に関しては、精神的なことではなく、身体の使い方を徹底して覚えることが、結果的に、緊張の影響を受けない声が出せる一番の方法だと思います。
精神か?技術か?という二元論ではなく、無意識に緊張を乗り越えて働ける身体性の獲得、を目指してほしいのです。
具体的には、発声の細かい方法論ではなく、ブレスの際の身体の使い方と、特に声の出し始めの当て方に絞られるでしょう。
伴奏は、本番で歌手の歌声を聞いて、前に進むか遅く弾くのか?を即座に判断して、テンポや進行を微妙に即応させることが出来ると素晴らしいですね。
澤田 頼子 ドビュッシー「美しい夕べ」「星の夜」 山田耕筰「夕やけ」 岡野貞一「おぼろ月夜」
ピアノ 藤井 亜紀
1曲目の歌の出だしは硬く感じられましたが、徐々に取り戻し、最後の曲まで安定した演奏に徹することが出来ました。
最後まで良い意味での我慢をすることで、音楽が伝わる、という面を彼女は学んだのだと思えました。
その分声の冒険がなかったのですが、これは致し方ないでしょう。彼女のように処理することで、調子の良し悪しにあまり左右されなくなる利点がありますので。
「星の夜」は、今回は高音発声の細かいことは言いませんでしたが、これから少しずつ覚えてもらいたいです。
喉が高くなり過ぎないように注意して歌えるポイントをみつけること。
「赤とんぼ」は、堂々とした歌になって、お客さんも感動していました。「おぼろ月夜」はその反面、軽やかな菜の花畑の印象が残りました。
調子に関わらず、平均点以上の演奏が出来る能力が上がったこと、が今回の進歩だと思いました。
高橋 朋子 山田耕筰「からたちの花」 ベッリーニ「カプレッティ家とモンテッキ家」より
「ああ!幾たびか」 リヒャルト・シュトラウス「献呈」
ピアノ 境田 直美
からたちの花は1曲目ということもあり、声の響きに硬さが微妙にあり、ブレスも少し多かったですが、それよりもフレーズの美しさが良く出て、練習の成果が出たな、と指導者としては嬉しかった。それぞれのフレーズの表現も出せていました。
アリアは、練習の良い成果そのものが出せて、ほぼ言うことはありません。高音が奇麗に出せ、よく歌えていました。声量も出てきましたね。
強いて言えば、最後の3点Cは、さらに共鳴のある響きを求められるでしょう。高音の響きの質を確実に高めて行くことも大切ではないか?と思いました。
「献呈」は、音楽の熱さがもう少し欲しいと思いました。いろいろな演奏があって良いとは思いますが。
具体的には、当初指摘したとおり、テンポがもう少し速めが良いと思いました。
音域的にやや低めなのですが、中低音の声量ももっとほしくなりました。
これは、ホールの大きさもありますので、これからの課題としてみても良いでしょう。
弦楽四重奏の演奏
今回、特別賛助出演で、発表会を彩って下さった、バイオリンの鳥居健次郎さん中谷真理子さん、そしてヴィオラ熊巳まどかさん チェロの樋之口耕さん、
心より御礼申し上げます。
古臭い表現でしょうが、まさに!松脂飛び散る!演奏で、感激いたしました。
あのルーテルの広い空間を弦の響きが切り裂くような、ダイナミックな質感、立体感のある音楽を楽しむことが出来ました。
久しぶりの弦楽四重奏の演奏、その響きを堪能いたしました。時間があれば4楽章、全部聞きたかったところでした。
また、機会がありましたらぜひともお願いしたいと思います。
皆さんにはこちらから、録音を聞いて頂ければと思います。
天久千絵子 ドビュッシー「ボードレールの5つの詩」より 「噴水」「静思」「恋人たちの死」
ピアノ 藤井 亜紀
1曲目の「噴水」の出だしで、一瞬の気の迷いが感じられましたが、見事に覆して、そのまま最後まで走りきった!という印象。声も良く出ていました。
おそらく緊張でブレスが入りにくかったのでしょうか?特に「噴水」です。発声の細かいことは、まだありますが、こらえて乗り切ったステージに拍手を送りたい。
「静思」はピアノ歌共に良く、今回のベスト演奏。フランス語が良く判るものだったし、それが彼女の持つ声の美点と共に堪能出来たからです。
惜しむらくは最後のページのブレス不足だけでしたね~!
「恋人たちの死」も、ほとんど勉強したとおりに忠実に歌ってくれた点も大いに評価したいです。難しい発音の連続も、良いテンションで歌えていました。
ただこの曲に関してはピアノが歌に負けていたかな。惜しむらくは、合わせにもっと時間をかけたかった。それだけの内容のあるピアノ伴奏部でもあったのです。
天久さんはこれからも、発声を更に磨いてください。
低音の鼻腔共鳴の出し方、高音の喉の開き、など課題は残ります。
真鍋 匡、オペラ「ペレアスとメリザンド」第3幕 城の中にある塔の場面
ペレアス「あなたの髪が!」
ピアノ 境田 直美
私もこの場面は、ペレアスのアリアしか勉強したことはなく、全体をどう音楽していくか?難しさを感じましたが、ほぼ練習通りの成果が出せたという意味で成功でしょう。
改めてホールでの本番を聞いた感想は、語りの部分は、もう少しスピード感がある方が良かったな、と思いました。
ただこれは練習時に私が決めたことなので、問題ということはないです。今後の課題としておきたい。
真鍋さんの声は、中低音に深みが出た面は良かったのですが、このようなオペラものは、中高音域でもう少し強く張った声帯をしっかりはじくような声質、前に出る声をを求めたくなりました。
ピアノは、厚みのあるフォルテの音と熱のこもったフレージング、この辺りドビュッシーの解釈は難しいですが、更に研究してほしいです。
あるいはこの曲はピアノの蓋を全開にしても良かったのかもしれません。
短い練習だったにも関わらず、難曲を美しく演奏した力量に拍手を送りたいと思います。
真鍋 匡 ドビュッシー ヴェルレーヌの詩による歌曲 「うすら明かりに」「月あかり」「グリーン」「マンドリン」
ピアノ 境田 直美
彼が持っている声の美点が十分出せたプログラムでした。
若さ、素直さ、まじめさ、爽やかさ、など、彼の歌声の美点が十分発揮出来ました。その点で、最初の2曲がとても良かったです。
「グリーン」は、もう少し落着きと情熱との対比感がほしかったですが、合わせの数にもよるでしょう。
マンドリンは、見事に歌えていましたが、これもピアノが微妙に先行したかな?という印象。
一方、声そのものが持つ魅力という点で、もうイタリア的に張った声の美しさ、を考えてみることも必要ではないかと、聞きながら思いました。
具体的には、1点F以上の発声において、喉の開きが強いということでしょうか。もう少し声帯の閉じた、いわゆる当たった声を出せるのではないかと思います。
もう少し前に当てて出すことも、これから覚えてみてはどうでしょうか?それが出来る身体と喉を持っていますから。
これからも更なる飛躍を期待しています。