今回の代々木上原のムジカーザは、改めて良い会場だと思いました。お高い、、なんて失礼なことを言ってしまいましたが、それだけのことがある会場なのです。それは、今日の出演者の結果を見て思いました。全員が、それぞれの持てる力を九分通り出した、素晴らしい発表会でした。

自画自賛ではなく、客観的にそう思います。
今日の出演者は、全員がいわゆるキャリアの長いハイアマチュアではないのですが
教えただけのことを素直に聞いてくれて、教えたこと以上に力を出してくれたのがこちらとしては
本当に嬉しかった。

今日も写真撮影と録音その他で、中二階の席から拝見しましたが、どの人をとっても残念!!
という結果がまったくなかったです。こういうことは、今までなかったことだな。
時間がなくて暗譜が間に合わなかったさわださん、暗譜の苦手ないそがいさんともに
譜面を見ることで非常に良い集中力が出ました。
とてもよい声、気持ちの良い声が聴けました。
こういうことも、実は今回の発見です。

これに関してはステージングとしてどうか?という面、例えば奏者が譜面と首っぴきになってしまうのは如何なものか?
という批判を甘んじて受けたとしても、その代償を払って余りある結果が得られるな、と思いました。
これはもっとやった方が良いですね、人によってはですが。。。

最後ですが、ちょっとだけ苦言を。
一部の方をのぞいて、ほとんどの皆さん、歌い終わったあとのお辞儀はきちんとしましょう!
どんなに恥ずかしくても、結果が自分の思ったとおりに行かなくても、特に終わったあとの礼だけは大切にしてください。
お辞儀をするとき、頭を下げている間に、心の中でゆっくりと「ありがとうございました」とつぶやいてください。
今日のコンサートで気になったことはそれだけです。

さわださんとあめくさんの二重唱。

オーソドックスなメンデルスゾーンの二重唱。
綺麗に落ち着いて歌えました。
女性二重唱は、やはり音楽的に華やかで良いですね。
少し練習不足の面が否めなくて、もう少し声のバランスや旋律の歌いまわしに
滑らかさが欲しかったです。
低音は良く響いてましたが、ソプラノが少し声が温まっていなかったのでしょう。

ただ、この二人は声質が合っていて、良いアンサンブルの可能性があります。
これからもプログラムに一つはアンサンブルがあると良いですね。
また、お二人で何かアンサンブルをやってみてください。
フォーレなども良い二重唱がありますよ。

まずは、おめでとう。

ふかやさん

しかし、気合が入っていましたね!特にアリア。
トスティは無難に綺麗に歌えました。
声も良く出ていました。

彼の良いところは、ストレートに音楽に反応して出てくる声と音楽です。
要するにカッコつけてないのです。
だから、すごくあったかくてにじみ出るものがある。
原点、というものが見えるし、それがあるから、好ましいのです。

声の技術として言えば、まだまだ喉に頼っているので、少しガサガサしてしまう点です。
たとえ喉で歌ったとしても、がさがさ感がなければ、気になりません。
ただ、やはり喉への負担が大きいから、曲数が多くなってくると、恐らく喉が持たなくなると思います。
そういう意味でも、これから発声をきちんと覚えてください。

ハートは大切に、発声も大切にです。
いわゆる、Cool head and walm heartですね。
おめでとうございました。

すぎたさん

彼女も、本当にいつのまにか声が良く出るようになりましたね。
見違えるほどで、以前の彼女は何処に行ってしまったのだろう?と思うくらいです。
それに、落ち着いて愉しそうに歌えるのが、良いところです。

ヘンデルは、リズムも落ち着いてたし、綺麗に安定した歌唱になりました。
ドナウディも情熱が出て、聴いていて気持ちの良い歌になりました。
モーツアルトも、予想以上に気持ちの入った歌で、最後まで気の抜けない歌になりました。
オペラのアリアも実際のオペラで出来そうなくらいでしたね。

課題は、高音の発声です。頭声との混ざりを少しずつ覚えて行きましょう。
彼女の場合、高音域に限らず、胸声と頭声の境目がはっきりしてしまうので
中間の響きを出すための、ハミングや鼻腔の開きをもっと覚えたいところです。

しかし、これからが本当に楽しみになりました。
どんな曲を選んだら良いでしょう、それも楽しみです。
おめでとうございました。

いそがいさん

上述のように、譜面台を立てて良い集中が取れた好例ですね。
シューマンの歌曲は、シンプルだけど難しいのですが、音楽の形、意味を良く
出した素晴らしい演奏になりました。
歌詞の朗読も良かったです。雰囲気を壊さずに、音楽の内容を伝えるのに役立ちました。

課題はブレスでしょうか。
後もう少しブレスが伸びると更に音楽的な演奏になると思います。
無理をしなくても良いけど、もう少し冒険して長くしてみましょう。
それから、暗譜への挑戦はいつまでもしてほしいです。

でも、今回の何回かに分けたシューマンの歌曲の勉強で、懸案のリズム感や
声のことが、大分進歩したのではないでしょうか。
元々良い声質なので、これから課題を克服してもっともっとたくさんの名曲を
ものにしてほしいです。
おめでとうございました。

わきくろまるさん

今回のコンサートでも一二を争う、進歩を見せてくれました。
教える立場としては本当に嬉しかったな。
リハーサルも良かったし、本番は更に良かったです。

彼女は何が良いといってやはり声の「気持ち良さ」でしょう。
声を聴かせる気持ち良さのつぼを持っている。
例えば余計なことをしないで、声に集中するために身体が動かない。
視線もまばたきもせず、ばっちり決まっている。

基礎的なことを、こちらの言ったとおりに素直に押さえてやってくれたから伸びたわけだし、
雑念なく、音楽を純粋に声で気持ちよく聞かせることが出来たという典型だと思います。
確かに緊張して上がっていましたが「上がり方」が良いのですね。。。
ブレスの処理がうまくなり、歌うリズム感が数段安定しました。
そのことと声の良さがつながって、非常に安定して聴ける歌になりました。

緊張感のために喉の力が強くなり、一部、音程が♭になりましたがそういう欠点を補ってあまりあることがあるわけです。
これが、逆にその欠点だけを気にしていると、結果的に声の気持ち良さを減じてしまこともあるわけです。
これが歌声の持つ難しさでもあり、魅力でもあります。

これからが非常に楽しみな逸材です。おめでとうございました。

はやしださん

はやしださんも、今回で3回目になりますが、最高の出来でした。努力賞でしょう。
非常にナイーブな歌曲を、自然に自然に実直に表現できたのは、大きな進歩でしょう。
前回までの、目がきょろきょろしてしまう不安定さが陰を潜めて
声に集中して、結果的に音楽を自然に顕すことが出来るまでになりました。

歌うこと、声を出すことが非常に単純に出来るようになりました。
また、口の使い方が上手くなって、響きの無駄がなくなったし低音の
力みによる、すっぽ抜けもほとんどなくなりました。

シューベルトは非常にシンプルで難しい面がありますが、彼の今回の歌は良い面ばかりが出ました。
「おやすみ」の独特のナイーブな男性的な心情告白や、水車小屋の素朴な味わいも、良く表現できていました。
声を張りすぎないで、ぎりぎり響くポイントでこのような歌曲を歌えたのは見事です。

最後の「君こそ憩い」の高音などは、感心するくらい良く出て印象を残しましたね。
良く練習してくれて良い結果が出たのでこちらも大変嬉しいです。
おめでとうございました。

かさいさん

これは2回目のプーランクなので、危なげなく歌えました。
彼女も細かい発声がどうこうよりも、気持ち良さのつぼを押さえて雰囲気で
歌を聞かせることが出来る、稀有のタレントの持ち主です。

そう書くと彼女は不満かもしれません。
彼女は発声のこともきちんと意識してやっているのです。
ただ、悪い意味で「片輪的な歌」にならないところが非凡なのです。

彼女にプーランクを何曲かやってもらったのは、プーランクの
アカデミックではないのだけど、音楽の純粋な気持ちよさを、けれん味なく
作り出したセンスと一致するもの、を彼女の歌声に感じたからに他なりません。

アンドレのご夫人は、少し緊張してしまったか、固くなりました。
ヴィオロンはブレスが少し足りなくなってしまいました。
花は、綺麗に歌えました。
全体にちょっと練習不足だったかもしれません。
色々と忙しかったようだし、これは仕方ないですね。

それでも、雰囲気を良く出せて、この曲の概要が良く伝わりました。
おめでとうございました。

あめくさん

この数回前のレッスンから中低音を一段低いチェンジ領域の使い方にして
初めての本番だったので、少し緊張のせいで喉で力んでしまいました。
そのせいで、頭声区との声のチェンジに段差がついて、余計に神経を使ったかもしれません。

最後のレッスンでやっと見つけたけども、これはハミングの練習を良くして
喉ではなく、鼻腔に上げる意識が無いと、単に喉先だけでチェンジだけしてしまうと喉で
歌ってしまうわけで、そうなるとチェンジがとても難しくなるのです。

それでも、良くしのいで歌いきりました。
また、実際に下の声で歌ってもらうと、独特の彼女の表現になり、素晴らしい時がしばしば見えました。
アーンの歌曲なども、ブレスが持たないか、と思うとどっこい持って、音楽がとても落ち着いて
ゆったりして、気持ちよかったです。中高音も決まっていてとても綺麗だった。心の中で喝采を叫びました。
せかせかしない、ノーブルなたゆたう音楽ですね。

有名な「私の愛しいお父様」もちょっとチェンジで苦労しましたが、理屈抜きで気持ちの良い歌になりました。
これから、この発声で高音域も変えて行くことで、さらにスケールの大きな歌になっていくと、期待しています。
レッスンを続けていくのは色々大変だと思うけど、どうぞ無理なく続けてください。
必ず良い結果を手に入れる日が来ますよ。
おめでとうございました。

さわださん

今回、出演順を間違えて出てきたので、あれあれ!と思ったけど、ご愛嬌でとても良かった。
なごみました。笑

それくらい、今回の彼女は気合が入っていました。
彼女は、今までどことはなく冷めたところがあって、あるいは冷めていないのだけど冷めた風を装っていたのか?
何か、そういうところが、結果的に物足りなさにつながっていたのだけど、このところ、彼女が
変わって来たのが見て取れて、期待していました。

彼女は暗譜に非常に気を使うタイプで、今回も間に合わないわけでもなかったけど、
神経質になってしまうと、声に集中できないので敢えて譜面を立てて歌ってもらいました。
こちらの予想を越えて暗譜の労力と、本番時の心配が、歌に影響を与えていたのだと思います。
譜面台を立てたのが良かったのか、今までに無くびんびんと響く声が出て、美声だからなお良いのです。
彼女の歌声の良さが発揮できて本当に良かった。

フランス語もいよいよ慣れてきたので、暗譜もきっと良くなっていくと思います。
後は、良い声なのだから、もっともっと自信を持つことだけです。

おめでとうございました。

かさいさん

今回、彼女のお別れコンサートの意味もあったので、最後にプレヴェール=コスマのシャンソンを2曲歌ってもらいました。
この曲は私も思い入れがあるので、感慨深いものがありました。
今回気をつけてもらったことは、音楽的な気持ちよさよりも歌詞を100%伝えることでした。

その意味では、成功だったでしょう。
この段階についで、今度はメロディの気持ちよさをプラスできれば言う事が無いのです。

それにしても、少ないレッスン回数で、良くここまで歌えるようになるものだ、と感心しました。
歌というのは、この場合声楽としたら声の洗練ということがあるけども、シャンソンという
ことになると、声の洗練よりも歌う人の持っているキャラクター、それは単に演技が上手いとか
表現が上手い、とかいう小手先の技術ではなくて、歌に参加してくれるものを持っているかどうか?

ちょっと難しくなったけど、キャラクターかな。
彼女はそのキャラクターを持っているわけですね。
それが分かっていたので、この曲をやってもらいました。
思いつきだけど、私はこの思い付きが彼女の場合、5年間ことごとく当たったし裏切られなかった。

プーランクの歌も然り、このシャンソンも然りです。
彼女は目に見えないところで、練習を重ねていたし努力していたと思います。
それが、いかにもやってます!という風に見えないところがまた彼女の徳でしょう。

また、将来その明るい歌声を聞かせてください。
その頃には第二世代もきっといることでしょう。
おめでとう、そしてお幸せに。