SM

アーンの3曲「クロリスに」「リラの木のロシニョル」「春」いずれもふくよかで柔らかい良い中低音の声が際立って、良い演奏でした。
音程感、リズム感共に良く決まっています。
特に「クロリスに」は、中低音の声が恐らく彼女のもっとも良い声になっていたのではないでしょうか。
強いて問題点を挙げれば、「春」のリズムがややあいまいなところあります。この点、本番で外さないように注意しておいて下さい。

ホフマン物語のアントニアのアリア「きじばとは逃げ去った」も、喉が温まり切っていない面はありましたが、それが良い面にも繋がっているように思えました。
悪い面は、2点Fis辺りを通るフレーズで、声のチェンジがあまり効かないため、音程が微妙に♭気味に感じることでした。
しかし、低音の発声には良い傾向が出る面もあり、一概に悪いとも言えないのです。
高音もしっかりしていて、良い声でした。

日本歌曲を歌う頃になると、高音発声の影響が出て、低音が少し薄い響きになって来ましたが、全体としては気になるほどではありません。
従って、今回のプログラムでは、全曲一気に通すわけではないので、中低音発声の問題は起きないだろうと思っています。

日本歌曲、林光の「私が歌う理由」は、歌としては音程も声の響きも良いですが、後半の中高音が続くフレーズで、歌詞の発音が不明瞭になります。声がチェンジするためでしょう。
自然なことですが、チェンジする美しさよりも、喉に来ない範囲で歌詞を明快に語るよう発声を意識して見て下さい。
大きな声は必要ないです、音域が高いですから。
同じく「ながれ」は、淡々と歌えていることと低音域ですが丁寧に歌えて好感が持てました。
武満の「歌うだけ」は、ピアノ歌ともに、雰囲気が良く出せています。歌のリズムはシンコペーションなので、その点だけ気を付けて下さい。

GH

発表会のプログラム、伴奏合わせでした。

冬の旅から「最後の希望」
出だしのメロディラインは安定して来ましたが、まだHie und daのdaの音程が上がりきらない現象が気になりました。
同様に続いて同度で繰り返されるUnd ich bleibeのleiの母音Aも同じです。
Aの母音の発声で、喉が開き切ってない感じで、音程がぶら下がります。
この点に注意でした。

2曲目「 村にて」得意な伴奏形と歌声とが妙に折り合いが悪いので、考え直して見ました。
とはいえ、変わったこともないので、伴奏には改めて楽譜指示を徹底してもらいました。特にダイナミックの変化は良く出すことです。
歌声はこの曲が最もバランスが良く感じられました。

3曲目「あらしの朝」
歌が、微妙なニュアンスの変化を表現していましたので、伴奏もそれに劣らず表現してもらうこと、抑揚を良く付けてもらいました。

どの曲も、低音と高音発声が良い状態です。
ただ、中音域、バリトンの音域の真ん中のA~Cというのは、小さな声の切り替えがあるため、響きが♭になったり、不安定になりがちなのです。
このことを良く感じて、喉を意識して開けて、音程が不安定な声にならないよう発声に注意されて下さい。

EM

今回、シューマンのリーダークライスOP39から1番~3番となります。
どの曲も基本的には良く歌えていますが、伴奏とのアンサンブルや音楽の作り(テンポの設定)が課題が残りました。
発声よりも、譜読みの仕方や発音と発声の関係が課題として浮かび上がりました。
特に、伴奏を付けると譜読みの問題が出て来ます。

譜面を見て譜面から音楽を起こすと、基本テンポがどのくらい、Ritはどの辺でどうかけるか?という作業が記号的に記録されるので、後で修正が効き易いです。
また、リズムに関しては理論的に判るので、これも修正が効き易いです。
なるべく譜面を見て、譜面の情報も頭に入れておくことをお薦めします。

In der Fremdeは、良い歌になって、内容と声が良く一致しました。

2曲目のIntermezzoでは、フレーズ終わりが8分音符で切られている音形の場合、その意味を考えても、長く伸ばす必要はないと思います。適度に切るべきでしょう。
3曲目、Waldesgesprachでは、中間部のRitが問題になりました。ピアノと歌とがちぐはぐで表現意図が良く判らないフレーズになりました。
いずれも、歌詞の意味とそこから来る音楽が、Ritやフォルテの指示になるわけですから、歌詞の意味を良く出す意味で、これらの指示記号を
考えて表現してください。

全体に声の扱いは良い傾向です。
あとは、歌詞をもっと活かした発声になると、余計なエネルギーも要らないし、テンポ感も滑らかで速く出来るでしょう。
フォルテになるとテンポが重くなるのは、母音発声にエネルギーをかけて発音、特に子音発声が弱いからと思います。
子音発音から母音、という部分を良く理解することです。

それから、母音のUがウムラウト化するのも癖になっています。これも鼻腔共鳴を意識し過ぎる弊害と思います。
もう少し喉を開ける発音を意識することで改善されるので気を付けてください。
逆にウムラウトがほとんどIに近い発音になるのも、同様な理由でしょう。
鼻腔の響きは大切ですが、喉も開ける意識を持つことで、Uなどある種の母音発音の形が出来ること、再認識してください。

ON

今回の2曲「帰れソレントへ」「誰も寝てはならぬ」いずれも、とても良く歌えています。
声のフォームはほとんど決まっているので、云うべきことは少ないですが、彼の発声の特徴が良く判るようになりました。

中声区といって、胸声区ではないが、頭声区とも言えない中音域の発声がありますが、この声を基本に全体の発声を統一している感じです。
そのため、やや太い当りが1点C~F辺りの、いわゆるチェンジ前辺りで感じられます。
取りあえず、高音発声云々のことはないので、表現上、5線の中のこの辺りで、もう少し開いた発声を覚えると、
メッザヴォーチェの表現が覚えられるのではないか?ということを指摘しました。
そのことで、表現の幅も広がりますし、喉の負担も減ると思います。

「誰も寝てはならぬ」の最高音は、ブレスも声も充分伸びているのが素晴らしいです。
イタリア語のアクセントを覚えて、朗唱を学ぶと、歌が更に活き活きとすると思います。
高音発声の安定と共に、5線内で語る部分が上手くなると、歌全体のレベルが高く感じられるようになるでしょう。