SY

母音Aは、低音でも声が当っている響きを作りたいが、響きが細く浅いと、メゾソプラノ的な声の響きが出なくなる。
上顎に当てるだけではなく、下顎も響きが抜けない程度に降ろすことで、響きに厚みが付くと思う。
この辺りの加減は、中低音は微妙だが、大きな違いになるので、良く感じるように。
そして、低音から高音に向かうフレーズは、喉を固定的にしないで、高音に入る前に少し喉を細くするようにする方が良いだろう。
ソプラノであれば、その逆で低音を太くすることもないし、高音を伸ばすためもある。
メゾソプラノで中低音を充実させるためには、この声質には意識を払うべきだろう。

フォーレ「イブの唄」9番の Crepusucule から始めた。
ゆったりした曲だが、その分、長い音符に依存したリズム感のまま歌うと、不正確になり勝ちな点を練習した。
具体的には例えば2分音符を半分に割って、4分音符のリズムで感じること。
特に4分音符にして2つ目は、いわゆる「裏拍」になるが、その裏拍を感じるようにして練習すると良い。
Soupireなど、以前から指摘している通り、母音Uは、深く口先を閉じるような発音を尊重してほしい。
声が前に出なくて良い。母音がUになっているところだけ、マーキングすると良いだろう。

5番 L’aube blanche 歌曲集の中では彼女の得意な曲の一つ。
リズミカルで気持ちの良い流れを感じさせるメロディ。

しかし歌ってみると、どうも歌詞の読みのせいなのか?フレーズの入りや途中でも歌詞発音のせいなのか?遅れがちである。
音符を歌うタイミングが母音の響きなわけだから、子音は厳密に言えばさらに速めに発音していなければならない、という原則。
それから、転調して音程を厳しく取ること。半音の違いがとても大きく影響する箇所がある。

そして声の強弱の使い分け。単に強い、弱い、という違いではなく、楽しさという感情を、声としては弱目に表現するイメージを大切に。
この曲の基調は、むしろ弱声にあるだろう。
なぜなら、自然に声はヒロイックな方向に向かおうとするメロディに出来ているから。

TSK

発声練習では、ハミングから母音へ変換する練習を、繰り返しやった。
このハミングでつかむテクニックは、声を息で強く押さないことが大切。
息で強く押してしまうと、声帯が太く合わさってしまい、低音で直ぐに地声になってしまうことと、息の出が強いため、結果的にブレスが持たない歌声になるだろう。

彼女の歌う様子を観察していると、急いで結果を出そうとするためなのか?息を強く押すように出しているのではないか。
声の響きを丁寧に出すため、焦らないでじっくりと出すこと。一点に細く集中して出すことを落ち着いて処理してほしい。

歌う様子を見ていると、声を出す瞬間に肩がずんっ!と下に降りる様子があるのは、いかに声のアタック時に息を強く吐いているか?という証拠ではないだろうか。
どうもこの辺りの息の使い方と、歌う最中の息の使い方を、再度検証する必要がありそうだ。

それでも、実際の作品が持つ力は凄いと思ったのは、ヘンデルのアリアを歌いだすと、中低音が比較的に安定した声になっていること。
ヘンデルのPiangero la sorte miaでは、中低音の響きが大分安定して来たと感じた。
声量はもう一つだが、それは徐々に慣れてくるだろう。

繰り返しは、修飾をつけて歌ってみた。
修飾が明快にならないと意味がないのと、リズムはIn tempoなので、修飾に入るタイミングで遅れないように。
また、1回目と同じダイナミックスで歌うため、上向形のフレーズでクレッシェンド気味のところは、同じくクレッシェンドするように指示した。

ブレスが足りないのでカンニングブレスは入れるべきである。入れないと、次のフレーズのブレスが適当になって、声のフォームが直ぐに壊れてしまう。
今は、何より声のフォームを隅から隅まできっちり守った歌い方を身につけてほしい。
カンニングブレスは、喉の状態を変えないで、横隔膜の一撃で自然に息が入る、ということである。
意識して吸おうとするのは、カンニングブレスにはならない。

「ドレッタの夢」細かく見なかったが、概ね高音発声が安定して来た印象がある。
また、出だしの2点Aくらいの声にビブラートが感じられたのも、好印象。
発声の良いコツをつかめたのであれば良いのだが。

TNA

発声の詳細については、深く突っ込んでいないが、音楽的な集中力が良い結果を残している。
特にヘンデルのLascia ch’io piangaは良い集中が感じられた。

声はまだ訓練を経る必要があるが、メロディを丁寧につむいで行こうとするイメージと声が合致しており良いレガートで歌えている。

ゆったりしたリズムの内在するテンポ感が正確である。
スローテンポを正確なリズムで歌うことは、実際は難しいことであり、声楽的な技術が未熟でありながら、この点が秀でている理由は、声量に無理をしない点がある。
声の響きを出すことだけに集中すると、息が足りなくなり結果的に尻すぼみになってテンポがいい加減になる。
こういうことは、発声法云々以前に、冷静に物事を対処出来るか否か?何を大切にするか?という考え方に関係していると思う。

ベッリーニのVaga luna も同じく良い音楽的集中。

こちらは、より声量が抑制されているが、そのために言葉だけが聞こえて来る感じである。
ホールで聴いた時にどれくらい聞こえるか?とい心配はあるが、そのままやってみる価値はある。

口奥の容積を少し拡げる意識で発音してみるとどうか?
ただ、このやり方は中低音の声の響きが奥に入ってしまうので注意が必要。
楽節の最後の部分は、前半のゆったり静かな雰囲気から、一転して情熱的な声の展開を少し意識すると変化が出て良いと思う。

プッチーニの O mio babbino caro は、やはり冒頭の高音が、不安定になり勝ち。
Mi piace belloのBeを発音する際に、下顎を降ろすきっかけで喉奥を意識出来ると思う。
最終的には、下顎を下げなくてもできるかもしれない。
どちらでも良いが、要するにBeのタイミングで、すでに高音発声のポイントが体感出来れば良い。

後は、後半再現部の直前のO DioのDioの最後のOをDiの音程から再度ずり上げる歌い方が気になるので直してもらった。
それから、DioのIの母音の発声は、口を横開きにしないで、喉奥を良く開けたポジションの深い声を作ってもらった。
なかなか難しかったが、1オクターブ低い声で練習し、その喉の状態を変えずに1オクターブ上のDiを発声する練習から、徐々に感覚をつけてもらった。