GH

発声時の母音の響きは、厚みと艶が出て、良いバリトンの声だった。
発声の意識としては、軟口蓋の発声を意識していることや、喉を意識していることが、顎をしっかり引いている顔の状態から分かるが、
あまり姿勢にこだわりすぎると、今度は喉周辺に力が入るから、顔を下げないで真っすぐ前を見て歌う癖をつけてほしい。

歌は、シューベルトの「冬の旅」から4曲は、どれも大変良く歌えていると思う。
強いて言えば、メロディのキャラクターが強いので歌い過ぎてしまうこと。
「あふるる涙」は、メロディの形に注目して、言葉を強く訴えるように発音する。
「春の夢」は、中間部は除いて、前後の特徴的なメロディのリズム感を強調することで、自然にこの曲の表現の核が出来るだろう。
「辻音楽師」も、ピアノのリズムと掛け合いを演ずるくらいにすると、結果的に聴衆はこの音楽の持つ内在する

歌詞を発音するリズム感を出すことに集中することで、不要に響きに拘泥しなくなり、バランスの良い歌曲演奏になる。

日本歌曲では「初恋」において、中間部のメリスマは、あまり声を弱めないで、男らしく歌う方が良さそうと判断した。
当初はメッザヴォーチェを考えてもらったが、発声的に音程が♭傾向になる未解決な問題が残るので、いまは強声にして、はっきり歌うことにしてもらった。
結果的にも女々しくない、男らしい初恋の歌になって良いと考えた。

「落葉松」は、全体にバランスの良い発声で歌えている。
特に最高音に昇り詰める、さびの部分の声は、テノールでもやって行けそうなくらいに、安定した高音発声である。

TF

発声練習をしながら、課題を考えたが、やはり1点bくらいから2点Fにかけての、チェンジとその前段階のチェンジ領域の発声が
もっとも課題になる領域と思う。
換声点から上の領域は、この課題の克服が分かれば、ほとんど問題なく処理出来ると思う。

今回は喉を下げようとする癖を矯正するために、わざと喉を上げようとして発声することを指摘して見た。
喉を下げる癖は強いため、この上げようと意識したり意識するための姿勢、たとえば顔を上に上げる、などの方法を試みることで、
喉がバランスを取れるだろう、と思った。
歌う時に喉を浅くすることも意識に強く昇らせること。
これらの喉を上げる方法は効果があった。

喉を上げようと強く意識することによって、不要に喉を押し下げて太く当てる方法から喉の使い方を回復させることで、結果的に
余計な力みのない自然な発声に戻って行くのである。

それから息を吐く練習。ささやき声で歌詞を読むが、吐く息を軟口蓋に当てるように意識する。
そのまま実際の歌に応用する、と云うやり方。
これも、喉を引き上げるために一つの方法になるし、息を吐く意識が出来るので、息が止まらない発声になって、結果的に音程感の良い響きに繋がる。

これらの方法で、ドナウディの2曲、ヴィヴェルディのアリアを練習した。
母音で気を付けるのは、第一がO、そして次がAである。
特にOは、無意識に喉を下げる意識が強く出る母音なので、この点を意識して、IやEの響きから母音を作って行く。
結果的にOという母音は、下顎を下げない発声を心がけることになる。

OM

「私はティターニア」から、始めた。
発声練習はしなかった。
しかし、喉が温まっていないと中低音の声の響きが出ず、そのまま高音発声に行くために全体がスカスカした響きになり、結果的に高音発声も芯がない響きに陥りがち。
やはり喉を充分に温めてから歌うべき曲である。当り前だが・・。

武満徹の「歌うだけ」一度歌ってからやりなおすと、まるで声が違っていた。
「歌うだけ」は良く歌えているので、心配はない。
あとは、ピアノがどれだけ彼女の歌のスピリットを引き出せるか?にかかっていると思う。
特に「悲しい時には~」の部分のピアノ伴奏の和音のタッチが重要だ。

「私はティターニア」は、高音発声の、最高音域よりも、2点A~bの響きが、喉っぽくなりがちなのだ、相変わらずだった。
そこで、とあるメリスマ的音形のところで、ささやき声による息を吐きだす方法の練習をしてみると、声の響きががぜん変わった。
やはり喉を下げる方向に偏っていたのだろう。

3点C以上になると、出せるキャパシティの幅が狭くなるため、喉の上下の引っ張り合いのバランスは、声が出るか出ないか?音程が決まるか?決まらないか?という非常に狭い範囲なので、逆に発声としてはやさしいのである。
2点A~bというのは、これも一段上にある換声点の領域であることが難しさの原因であることと、結果的に声帯を使うバランス幅が大きいため、不安定になるのだろう。
概ねが喉を引き下げようとして失敗するようなので、やはり上顎系の発声が必須になるのではないか?と推測していた。

それから、改めてこの曲の歌詞を良く読んで、オペラとしての芝居のシチュエーション、振付を自身で良く考えてみてほしい。
少なくともレシタティーヴォに匹敵する、最初の2ページは、明快な演出があるわけなので、歌詞の通りの振付を考えて出来るようになってほしい。

最後のカデンツは、楽譜と違えて創作してもらい、単純化した。
この最高音は、とても良い響きが出せていた。