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発声練習の声は、大変調子が良かった。
低音は明るく、高音チェンジくらいまでだが、喉を締めずに開いた声の響きの傾向だった。
発声練習で意識出来ていることを、実際の歌でも発揮できれば理想的。
ラヴェルの「聖女」テンポをかなりゆったり目、四分音符50くらいにしてみた。
フレーズとしての抑揚よりも、フレーズを真っすぐに歌い通そうとする、静かな力強さのようなものが大切。
絶対に、歌がバタバタ、ざわざわとしないように、丁寧に真っすぐに歌い通すこと。
大事なのは、後半の高音域のチェンジ前後を歌うフレーズ。
息の支えが必要なので、ついつい早くなってしまうが、絶対にテンポを崩さないこと。
そして、四分音符2つ分の3連符を正確に歌うこと、また1拍分の3連符は急がないこと。
これらのリズムに関係する歌のテンポ感が、何よりこの曲の美しさを表現する要素だと思う。
信時潔の歌曲集「沙羅」から、「占ふと」
この曲に限らないが、この歌曲集は文語体を主にした詩であることと、謡のような音楽の雰囲気があるので、
語りの調子は、フレーズの流れよりも、一つ一つの日本語のシラブルをはっきりさせた歌い方を強調すると、
美しさが感じられるし、古雅な詩の持つ魅力も出せると思っている。
能狂言などの謡を聴けば分かるが、母音は滑らかに深い発声が行われているように、この曲でも日本語の話し言葉の明るく浅い響きではなく、深く滑らかな言い回しを練習してほしい。
基本的に「わ」Waという発音は、半母音のWを明快にうの口からゆっくりと拡げるように。
うらのうとのうなどは口先をすぼめて、かなり狭く深い発音をする、という具合である。
「北秋の」テンポよく速く歌いたくなる曲だが、あまり速く歌う必要はないと思っている。
これも言葉さばきは、古い日本語の俗謡的な言い回しにトライしてほしい。
「占ふと」も「北秋の」もそうだが、歌詞の意味とメロディを良く考えて、落ち着いてじっくり歌いたくなる所は、テンポを緩めてゆっくりと噛みしめるように歌っても面白いし、雰囲気が良くなると思う。
現代的、ビジネスライクな雰囲気ではなく、のんびり、ゆったりした時代の歌である事を良く表現してほしい。
最後に「鴉」を歌ってもらった。
をだ、わたる、などのWの発音に注意を。
おおそ鳥!の上向形フレーズのディミニュエンドの意図する表現を注意。
細くディミニュエンドではなく、太い声のままディミニュエンドしないと、面白さ、皮肉な感じが出て来ないこと。