UM

イタリア古典からVergin tutto amor
そして、Danza fanciulla
そして、Ridente la calma

発声練習と曲の練習を通して、高音へのチェンジのことを徹底練習しました。
少しずつですが効果が出てきているのは、姿勢の矯正です。
あごを引いた姿勢とともに、顔を動かさないこと。
特に音程の跳躍時に顔を絶対に前に出さないためには、首でしっかりと頭を固定することです。

姿勢を矯正すると、声の響きは少し深く開いたような響きになりますが、これが喉の負担にならないし、遠くに通る響きになります。

近くで歌う様を見ていて気になったのは、発音(発声)に即応して、下顎が細かく動くこと。
これは発音のせいもありますが、発声の対処ではないでしょうか?
これが、喉を微妙に扱う理由になっていて、このことが高音へのチェンジを妨げる要素ではないかと思いました。
軟口蓋側の引き上げを使うためには、この下顎の動きを抑制しなければならないと思いました。

そのような意味でDanza fanciullaは、急がないで落ち着いて歌うようにして練習すべきです。
発声が出来てからテンポを速めてください。
Vergin tutto amorは、音域が換声点までなので、何とか換声を確立できた歌になりました。
低音は、高く前に集めるように注意してください。
それから、息を無駄遣いしないで、丁寧に1フレーズを歌うことです。
あごの使い方に最大の注意を払うのが、Ridente la calmaです。特に音程の跳躍時に注意してください。

AS

フォーレの「イスパーンのバラ」そして「月の光」

今回のレッスンで指導したのは、チェンジの対応ですが、彼女の場合はチェンジ直前の2点C~チェンジにかけての4度くらいの領域の発声で、喉に対する微妙な対応が欠けていることでした。
いわゆる「喉で押す」状態になりやすいです。
喉で押さないで、喉を開くようにして、口の中で共鳴が起きるような感覚を探してください。
そのためには、口の開け方に敏感にならなければなりません。

一般的には、口を大きく開けすぎるとだめです。
横開きもだめです。
口を開ければよいのではなく、声の響きがどうか?ということを基準に探してください。

彼女の場合に限らず、皆さん歌い急ぐのだと思います。
歌い急ぐという意味は、メロディを歌いたいという思いが強いために、声の響きがなおざりになってしまうことです。
声の響きそのものを曲に相応しいものに作り上げる、ということが、練習する意味となります。
ただ歌うだけでは、声楽になりません。
譜読みが速いので、歌う練習よりも、フレーズ単位で落ち着いて声の対応、発声を徹底的に探求してください。

SNM

アントニアのアリア「キジバトは逃げ去った」
フォーレの「ネル」「ゆりかご」

どの曲もほぼ出来上がってきた感がありました。
特にアリアは、声の換声が意識されたのでしょう。
2点Fisの続く響きに無理がなくなったので、その後の最高音2点Aも、伸びてきました。
声質はまだ硬いですが、恐らく慣れればもっと楽に出せるようになるでしょう。

歌曲の「ネル」は、良く歌えていますが抑揚がないので、PやPPを強く意識して歌ってもらいました。
必然的にクレッシェンドも大事な要素です。
この曲は、メジャーな歌手が良く取り上げますが、テンポをかなり早めて派手な印象を残すような演奏が多いです。
しかし、本来は四分音符66と指示があるように、テンポの速い曲ではなく、内面的なものを感じさせる曲なのだと思います。
全体に、PやPPの指示が多用されていますので、この点を大切にしてください。
これは、「ゆりかご」も同じです。

TSS

Ave verum corpus
Il bacio

「後宮よりの遁走」からコンスタンツェのアリア。

発声練習では、母音をIやEにしたほうが、声の換声が上手くいきます。
Aだけだと、やはり開いてしまい、ほとんどファルセットになります。
ファルセットでも悪くない面はありますが、音程が微妙に上ずるのと、低音に降りたときに低音側への換声が難しくなります。

曲の練習を聞いたところ、いずれも、前回より進歩していました。
Ave verum corpusは、響きを高く意識することで声が集まり、通りの良い声になりましたし中低音も安定しました。
そのため、ブレスも伸びました。
テンポはかなり速めでした。今回のテンポがマキシマムでしょう。

Il bacioも、後半のメリスマがきれいに決まってきて、速いテンポでも付いてこられるようになりました。
爽快感のある演奏が出来そうです。
前半のPの指示は無視して、しっかり出したほうがよいでしょう。

コンスタンツェのアリアは、高音のメリスマ、いわばコロラトゥーラの花であるべき、最高音域のメリスマが進歩していました。
これは、やればコロの声がかなり出来そう!という好印象を残してくれました。
モーツアルトの気品にあふれる作品ですので、中低音と最高音との違いははっきり意識して歌ってください。

AC

フォーレの「優しき唄」4曲目、J’allais par des chemins perfides
そして、5番のJ’ai presque peur en verite
サンサーンスのサムソンとデリラから「 愛の神よ!私を助けにきておくれ 」

「優しき唄」4曲目は、無難に歌えるまでに進歩したが、まだニュアンスに欠けている面を指摘しました。
難しい意味よりも、まず楽譜上のダイナミクスを微細に点検して、その通り、それが聴くものに良くわかるように、声で表現することに集中してください。
5番は、譜読みで母音による練習で終わりました。

いずれも、この歌曲集はヴェルレーヌの私的な出来事を基にした詩であり、詩の内容からのアタックは文学的な意味があるとしても、
音楽的に深めるのは至難の技ですし、それほど大きな意味があるとも思えません。
作曲家が書いた音楽に忠実にあることで、結果的に聞き手が判断すればよいこと、と考えるべきでしょう。

ただ、音楽から類推することは可能だと思います。4番の激情は何によるものか?は、詩を読めば分かるでしょうし、5番の不安な気分が、良く音楽に表されているでしょう。
その不安が、快楽に変貌する様が、最後の楽節によく表現されていると思うのです。

「サムソンとデリラ」のアリアは、煎じ詰めれば形式的、伝統的な役柄の性質を、明快に声にする、という意識を持てばよいです。
良くも悪くも、もっと声を作るべきでしょう。
もっと煎じ詰めれば、英雄的な調子、英雄的な歌声、とはどういうものか?ということと、2000人入るホールで、最後列の人にわかるように歌う、というイメージも大事です。
これは、持ち声を超えて出せ、という意味ではなく、今ある声でどうしたらそういうことが可能か?という音楽の作り方の問題です。