UM
バッハのロ短調ミサ、Laudamus teのアリアは、さすがにバッハ!という音楽であり、良かったと思う。
音楽の出来が違うので、逆に演奏の巧拙を跳ね返してしまうような強さがある音楽だと思った。
しかし、今回は、超高音の発声がないせいもあるが、発声自体の進歩も感じられる出来であった。
中低音の声が明るくピッチの良い滑らかさを持つようになった。
また、声もチェンジの問題をあまり感じなくなって来ていて好ましいものであった。
ヘンデルのRejoice greatelyは、ブレスの長さよりも、ブレスの間合いを重視して、少しテンポを落とした。
無理やり1ブレスで1フレーズを歌っても、結局リズムが流れてしまう傾向が否めず、音楽的に安定しないからである。
無理にブレスを伸ばそうとしないで、きっちりブレスを入れて、メリスマを確実に流れないように歌った方が印象が良いと思う。
どちらの曲も、音域がすごく高いわけではないが、顔を動かさないで歌えるようになることが、発声の課題。
動かす意味は、フォームが不確定であることを意味していると思う。
よほどの高音発声ではない限り、音域の移動に応じて顔を上下に振る行為は、明らかに喉頭に依存した発声感覚だと思うから。
いつも指摘するように、首の後ろをまっすぐに立てた姿勢を堅持して、動かないで歌うことによって、必要な発声器官が良く働くということである。
発声が良くなってきたので、落ち着いて曲と対峙してじっくり歌ってくれれば良い演奏に自然になる、と思う。
HA
伴奏合わせだった。
「小さなカシの木」
5点Eの換声点で不安定になる。中低音も気を付けないと、微妙にピッチが低めになる。
喉の使い方の癖もあるだろうし、お腹の使い方も原因かもしれない。
この5点Eの発声で、声がどっちつかずになって不安定になる原因は、そばで見るに、力の入れすぎか、力の方向が間違っているか?のどちらか。
力というのは、声を出す力。
入れすぎというのは、単に声量で一気に、みたいな意識か。
方向というのは、息の方向。
声を出していて、上あごから上だけで響くか?喉に負荷が少しかかって、あたかも胸から頭までの幅広い領域で出る気がするか?
この両者の境目が、今回の不具合が出た5点Eということになる。
境目だから、どちらかに決めてしまえばよいのだが、フレーズの滑らかさと音程でいえば、上あごから上だけで歌うべきだろう。
また、このアタックの際に、微妙に力を入れている喉の力を抜くことを覚えないと、真の意味で上手い対処がかなわないだろう。
霧と話したは、声と表現共に、良く仕上がっていた。
Je veux vivreは、フランス語の読みの小さな間違いと、譜面の読み込みの間違いを指摘した程度。
前回指摘したテンポが速くなって、この曲らしさが良く出るようになった。
特徴的な修飾音符は、その扱いを鋭く素早く、またリズム的には微妙に早めに取ること。
そのことでしか出来ない表現があるから。
それは、わくわく感のようなものであろう。
高音発声は、素晴らしいものがあった。
SNM
伴奏合わせだった。
フォーレの「マンドリン」もビゼーの「真珠採り」のアリアも、とても良く歌えていた。
特に後者の最高音の発声は、1回目は大成功だった。
ただ、「マンドリン」の第一印象は、伴奏の響きに対して、声のポジションが高い感じがやや気になった。
ソプラノだから、という感じとも違う固有な声の調子が消えている感じだった。
当初のマンドリンは、フォーレらしい音楽を味わえる印象があったと思ったのだが。
また「真珠採り」のアリア冒頭の有名なメロディが、どうも緊張しているのか?声も少し息漏れがするような響きであった。
しかし、レッスン全体を通して、お腹の動きを見ていると、お腹全体をへこませてブレスをしている点が気になった。
試みに、そのことを指摘して、へこますのは下腹部だけ、ということでやってもらった。
不完全なブレス方法に留まっていたが、声は変わっていた。
共鳴のついた声で、響に安定感があり滑らかな声質になる。
声の響きだけで判断するには、高音発声に特化しようとすると、高く響かせることにバランスが行き過ぎるのではないだろうか?
中音域で少しスカスカした響きの傾向になるのが、そのことを示しているように思う。
これも、こちらの経験上の言になるが、換声点の技術的な問題であろうと思う。
発声練習で判断する限りは、あまり換声点を意識しているようにも感じないが、かといって上手く対処できていないわけでもない。
その辺りの確実な技術的な確信があれば、高音発声も中低音発声も、一気に良くなるのではないか?
現状では、特に問題もないし、今直ぐに修正をしなければならないとは思わないが、今回のブレスの方法は試してみる価値はあるだろう。
AC
声は大変調子が良く、彼女らしい張りのある美しい声が堪能できた。
気を付けるべきは、音程跳躍で喉が上がる傾向がまだ残っていること。
歌曲だと、あまり気にならない面もあるが、アリア、特にメゾのアリアを歌うと、非常に気になる点ではある。
この方法も、一たび指示すればすぐに適応できる技術力は持っている彼女である。
アリアは、あとは、最高音5点Gを出してから、急速に下降するアルペジョの扱いであった。
これが、換声点を伴うために、不安定になる。
途中で無理に換声しようとするとひっくり返るため、リズム感と音程感が悪くなってしまう。
ここは、同じ声のまま降りようとするけれども、声量は徐々に落ちていく、あるいは声が奥に引っ込んでしまう、という欠点はあっても、
不安定にならないことを優先してほしいところである。
高音発声そのものは、確実に喉の上がらない良い響きになっていて、頼もしい限りである。
そしてここで指摘した発声法を、最初に通したフォーレのLa bonne chansonでも、使ってほしいのである。
決して声量の問題ではない。
声量ではなく、喉をどうフレーズで対処させるか?という発声の基本的なフォームの問題。
要するに声のスタイルみたいなものになるので、これをこれからは確立してほしい。
フォーレのLa bonne chansonの3曲目の「白い月が森の中で輝く」は、リズムが難しいので、間違えそうなところは、音頼りではなくテンポを数えて覚えることが望ましい。
全体に発声そのものは良いところに落ち着いているので、自信を持ってほしい。
譜読み、フランス語の読み、など譜読みの基礎的なところをもう一度おさらいして、本番に臨んでほしい。
AY
鼻炎症状があるようだったが、歌えば歌うほど調子が出ていた。
1曲目で「みかんの花」からだったが、発声的にも、良い声で歌えていた。
前回指摘したように、平べったい日本語らしいと言えばらしいが子供っぽい声、ではなく、適度に深みがある共鳴感のある声。
これもやり過ぎると、日本語の歌としてはおかしな表現になってしまうが、だからといって平べったい声で良いわけではない。
共鳴感がある声の方が、ホールで良く響くのである。
また、良く響くために、余計に力まないから、喉にも良い影響がある。
「からたちの花」
出だしは、語るように歌い進むほうが良い、という方針で歌ってもらった。
途中の高音発声、思い切りよく歌う声は大変良い。
晴れ晴れとした表現が良く出ている。
最後の節にある、「からたちのそばで泣いたよ」の声は、弱声発声がとても上手く行った。
ブレスを間合いを十分取って、落ち着いて再現部を歌って終わるように指示。
全体に、落ち着いた良い雰囲気を出せるようにまでなった。
フォーレの「5月」
Puisqueの出だしが言いにくいようだが、急がないでPuとi squeと3つに分けて考えることから始めること。
後は、特に問題もなく、こちらも大変良い声で伸び伸びと歌えている点が、好感を与える。
全般に声の調子がとても良いので、本番は伸び伸びと気持ちよく歌えるように、イメージトレーニングをしておくと良いだろう。