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山田耕筰の歌曲、「かきつばた」「AIYANの歌」「曼珠沙華」

楽譜に指示されている強弱を、良く検証してみるとどうでしょうか?
例えば、弱声を指示されているところの音楽と歌詞を良く検討して、なぜ弱声なのか?
考えてみることは、良い発見につながるでしょう。

頭でわからないと、演奏になった時に実直な表現が出来ないからです。
理屈が分かっても身体が言うことを効かないケースもありますが、理屈が分かるから苦も無く出来る面もあるわけです。

これは演技において顕著ではないでしょうか?
演劇的に見ると、エモーショナル(感覚的)にやっても、自己満足で終わり勝ちです。

特に歌声はメロディに支配されてエモーショナルな力が湧きますから、作者の強弱の指示に素直に従えない面があります。というか無視してしまう。

強弱の指示を入れる必要があるのは、それだけ作曲家の思い入れがあるわけですから、その作曲家の意図を良く頭で理解しないと、実際には行動に移せないでしょう。

頭で理解して歌うという意味は、そういう分析力のことです。
感覚やイメージだけでは、良い演奏になりません。

つまり、情熱と理性の程よいバランスが、良い演奏(伝わる演奏という意味で)大事ではないでしょうか?
情熱は譜読みをするエネルギーであったり、あるいはある種の集中力に影響を与えるでしょう。
理性は、上述のように具体的な表現方法を考える意味です。

ショーソンの「リラの花咲くとき」
良い声で歌えていると思いました。
これも、感覚的な側面では良い出来ですが、理性的な分析で、どこまで表現を考えられるか?ということが問われるように思いました。

プーランク「月並みな話」これも良い声で歌えています。それぞれの曲の表現にも気を配っているのがわかる演奏でした。ただ、歌うときに両手を上げてゆらゆらするのが、気になりました。

手を使うときは、歌声のレガートや滑らかさ、など実質的に発声に関係のあることとして動くのか、あるいは、演技としての動きなのか?それが演技なのか無意識なのか?という点を明快にしておくと良いでしょう。

HA

中低音域や換声点で、舌根で喉を押し下げる傾向を修正する発声を練習しました。
具体的には、声がこもることと、ピッチが♭傾向になること。
とはいえ、基本的には音程感の良い声で、バランスが良い喉です。
このため、広い音域を柔軟に歌えますが、惜しむらくは声のインパクト(声質)が後一歩、という印象があります。

声質は柔らかく、通りが悪いことはないのですが、よりイタリア的な声の嗜好を目指すという意味で、彼女の選曲に適した発声になると思います。

やり方は、母音のIを基本にして声の響きを決めます。
特に中高音の、換声点から開きだす声帯を開かないようにすることと、舌を奥に引っ込める癖を排除して、声の響きを前に出すこと。
この2点を確保することが、大切な点です。

曲はイタリア古典歌曲集のAddio corindo
そして、プッチーニの「つばめ」から「ドレッタの夢」

いずれも、低音よりは高音の換声点付近での発声とその延長である高音の発声に及びました。
換声点の前の準備領域になると、声帯が開きだす声になるので、

「ドレッタの夢」は、前半を、レシタティーヴォに見立てて、明快な語り歌いにしてください。
音符が読めたら、イタリア語の語りを十分に練習して、言葉を明快にはきはきとしっかりと発音することを主眼にしてください。
響きでレガートに意識しなくてでも問題ないです。

そして、後のアリア部は、メッツァヴォーチェを中心にして、途中の6点Cと最後の5点bを強声としました。
強声の場合、口を横開きにすると裏返りやすいです。
6点Cは無理は言わないですが、最後の5点bまでは、なるべく口を縦に開けてください。
そのためには、上あごを持ち上げるような意識です。

横開きにすると、楽に出せますが、響きが薄くなるのです。
細かいパッセージなどで、音程を出すためには口を横開きにするのは効果的だとは思います。

ISS

ロッシーニのセヴィリヤの理髪師のフィガロのアリアを練習しました。
高音発声がどうか?と心配はありましたが、ほとんどその心配はありませんでした。

以前は、換声点付近になると、不安定になっていましたが、今回の曲では、むしろ積極的な声が出ていて、その違いには驚きました。
やはり、音楽が持つ力でしょうか、あるいは良く練習したのでしょう。

さすがに、高音のAは、苦しいですが、これも慣れれば出るでしょう。
レベル的には挑戦できるレベルと思いました。
また、フィガロの名前を連呼するところは、少しお茶らけても良いかと思います。
最後のFigaroだけ、裏声で5点Cを出すなど。

換声点付近は、積極的に発声できていますが、まだ喉で押している感が強いです。
なるべく下あごを降ろさないで、発音・発声して歌うように練習してください。
指をくわえたり、鉛筆をくわえても良いです。

ただ、やり過ぎると喉を痛めますから気を付けてください。
舌、舌の奥に力を入れないように気を付けてください。
ただ、しっかり顎を引いた姿勢を堅持しないと、喉を上げて、喉をやられますので、これも注意してください。

歌としては、まずゆっくりと歌うこと。その状態で、イタリア語のアクセント位置を良く把握して、アクセントを良く出して歌えるようになってください。
それが出来てから、テンポを少しずつ速めて行くこと。
最初から速めて歌うと、メロディをぺらぺら歌うだけになって、本当の意味でのロッシーニのアジリタの味が出なくなります。

きちっとイタリア語を発音・朗読出来ている状態で歌えばこその、ロッシーニのアジリタの醍醐味になりますから。