TM
発声練習では中音域の倍音が出てきて良い感じであった。
高音発声のミックスボイス的なもの、を練習。
ファルセットの練習から実声に向けて出すように練習したが、あっけなく出来るようになった。
大分以前こちらに来たばかりの頃に練習して出来なかったが、これまでの蓄積の賜物だろう。
当初から高音になると、明快に換声するのだが、それが明らかにデックングした発声で、歌曲を歌うには不自然な印象だった。
ある種のテノールやバリトンの高音として、表現に適った面もあるのだが、基本であるかどうか?
という点は、どうだろう?
ただ、自分の経験としては、デックングした方が高音が続く歌を長く歌うには良いかもしれないが、これは個別性の問題だろう。
プーランクのLes chemins de l’amour
中低音の声のことが中心であった。
ピッチの良い声を大切にすること。
中高音から高音にかけて、換声点の切り換えを意識しないで開けた発声を。
下あごを降ろさないことがポイントなので、歌詞の発音で特にAやO母音の時に注意が必要。
最後の高音は、喉の力みがもう少し抜けてくれば、更に明るい倍音の出る声になると思うが、基本的には良いポイントを捉えていると思う。
サティのJe te veux
テンポを急がないで、雰囲気重視で歌声を作るように。
柔らかさとか親密さというのは、つまり声量も関係するだろう。
女性との恋愛が応唱になっているからである。
隣にいる人に語り掛けるように。歌声は優しく、ただし歌詞のメリハリは明快に。
最後にフォーレのDans la foret de septembre
今日の発声の成果が即効性を帯びたため、非常にピッチの良い声で伴奏とのアンサンブルが良かった。
どの曲も共通だがフランス語のOEの発音は、開母音という位置づけで歌うべきだろう。
日本人の発音だと狭くなりやすいためである。
AのようでもEのようでも良いが、いずれにしても開いた明るい母音であること。
AとかE母音は、換声点までの中低音域は上あごで生じるイメージが良い。
TNT
引き続きモンパルナスを練習した。
意識すればこちらが指示したことが出来るのだが、声に集中すると声の響きだけが響き渡る歌声になる。
つまり良く鳴る声が、前面に出てくる感じ。
今回は彼の教わっていることや、特に発声に関することを話し合ってみた。
発声の要点は、声の重心を低く感じ取ることその重心が上がらない事、という点に集中していることが良く解った。
これは、バスあるいはバスバリトンとしての声作りが中心の考え方だと思う。
あるいは強い声を実現するために必要なのであろう。
私から見ると発声面と表現との兼ね合いとして、もう少し喉頭を引き上げる力を働かせる必要があるのではないか?と思った。
そのことで声質に弾力が生まれ、ビブラートも生じやすいと思う。
ビブラートがかかった声は、歌曲の場合はとても美しい表現を作ると思う。
ビブラートがないことと関係があるが、響きが硬いと感じる。
レッスンでも話をしたが、例えばチェロで言えば、共鳴孔の上で弦をつま弾くのではなくコマとチューニングアジャスターの間で弓を弾く感じ。
つまり弦の張りがもっとも硬いところを力を使って擦るために、ビンビンと固く鋭い響きになる。
これを善意に解釈すれば良く通る響きとは言えるが、声の指向性が強すぎて響きに含まれるべき共鳴感が少ないと感じられる。
あるいは彼の喉に固有の個性だろうか?
もう少し声帯に厚みがあると仮定すれば、今の発声でも弾力のある響きが出るかもしれないが、恐らく彼の声帯は長いが厚みが薄いのではないか?
彼の細身の体形や身長を考えても、そのことは想像に難くない。
モンパルナスの場合、中間部の冒頭のフレーズとか、中間部後半の導入の部分などは、声を張らないために、むしろ喉を少し引き上げてあげることで、
自然に歌詞の表現に適った歌声になるだろう。
喉を引き上げる、というと昨今の発声流儀で良くない、と思われるかもしれないが、私は引き上げは大事だと思う。
特に歌曲表現では。
弦楽器を例えに出せば、チューニングアジャスターで留めている弦を、糸巻で弦を巻き上げるのに似ている。
つまり彼が言う声の重心を低く留めるのは、そのままで良いのである。
同時に軟口蓋をもう少し使う必要があるだろう。
そのことで喉頭の引き上げが働いて、声帯間隙が生まれて息との共振が生まれて、結果的に共鳴のある声が出来、柔らかくかつ倍音の良く出る声になると思う。
Cも冒頭は良いバランスの声が出せた。
後は、長調二転調してPPで歌うフレーズは、本当に柔らかく静かな声で歌うべきである。
Mfは各所に出てくるが、Fの声よりも抑えるべきであるから、もっと余裕を以て出すべきダイナミクスであろう。
なおフランス語のRは、彼に任せているが、やはり普通に巻き舌が良いと思った。
動画でフランスの現在のメジャー歌手たちを聴いても巻き舌の方が多いし、在仏の長い日本のフランス歌曲歌手たちに意見を聴いても、一様に巻き舌でやると言っている。
つまりその方が「美しい」ということ。
巻き舌のやりすぎは絶対禁物だが、口蓋音に慣れていない日本人がやって綺麗出来るかどうか?ははなはだ疑問だと思う。
それからRについては、不正確な情報だがフランスのステージの正式な発音としては、口蓋音ではなく巻き舌であるという説もある。
口蓋音式が新しい流儀だ、という在日フランス人の意見だそうだが、フランス人が言ってるから正しいと思うのではなく、その人物ないし意見の専門性には十分注意して意見を聞くべきではなかろうか?
また、歌唱流儀のスタイルの新しいとか旧いとか?という議論は、こと演奏に関してはあまり参考にすべきではないと考える。