TNT
ラヴェルのドン・キホーテをレッスンとなった。
1曲目(物語風な歌)が恐らく一番難しいだろう。
というのも、ドゥルシネア姫の言うことなら何でも仰せの通りいたしましょう。
という恋の病に陥った妄想を歌っているからである。
楽譜にもある通り強弱の変化が、彼の妄想の心情変化を物語っているので、これを表現出来れば理想である。
それと、この曲集に特有のスペインの民族的なリズム感である。
6/8拍子と3/4拍子が交互に入るスタイルであるが、要は8分音符の音価は等しいのである。
したがって、8ビートで拍節を感じることが大事である。
このリズム感の正確さが、この曲の美点なので、声のためにリズムが恣意的にならないよう注意が必要である。
最後の弱声で歌う、Ohの声のアタックに充分注意を。
2曲目「叙事的な歌」
こちらも、ついついゆっくり歌いたくなるが、それほど遅くない。静かに粛々と歩みを進めて、徐々に熱を帯びてくるが、再び熱が冷めてマリアへの祈りとなる。
その変化は当たり前だが声の強弱である。
全体に声が良く出ている歌だが、ピッチを気にするのか?喉のポジションが高くハイバリトンのようである。
彼の場合は、下あごをもっと楽に降ろした発声で、声帯を柔らかく太く使う方法を会得する方が、バスあるいはバスバリトンの趣にならないと思う。
3曲目「酒の歌」は、途中のメリスマ部分のリズムを正確に歌いつつ、楽譜指示通りにクレッシェンド、ディミニュエンドが声にかかることが良い。
そしてしゃっくりをする個所Je bois は、急がないで重く歌うべきだろう。そしてA la joieでテンポを戻すと良い。
最後のJe bois a la joieの最後の母音は1小節は伸ばすべきであろう。
この高音の4点Eフラットは、声を前に鋭く発声するとテノールのようになる。
バスの高音は指向性を鋭く、ではなくより横から後ろにオーラのように拡がるイメージが良い。
もっと低い共鳴を呼ぶために、下あごをしっかり降ろして発声する方が結果的に良い響きと思う。
発声で気になるのは、歌い始めで音程をずり上げる癖があること。
恐らく息漏れがなく良く声が通ると方法なので一概に否定はしないが、器楽的に正確に歌声を扱うことはクラシック音楽の基本なので注意はすべきと思う。
あとはブレス時に鼻で吸うことは意味があると思うが、口を閉じてブレスをすることが、喉の状態を0に戻してしまうケースがある。
それが、声の入りでの雑音や音程のずり上げなどに関係することがあるので、フレーズ終わりの口の状態のまま、腹筋でブレスをすることも良い方法であること。