YN

音大を出て6年目のプロの方。
フランス歌曲を勉強しているとのことで、ラヴェルのドン・キホーテを持って来た。
今回は、1曲目と3曲目をレッスンとなった。

声は非常に端正なものを持っていて声量は充分で声質も明るい。
一瞬何を教えるべきか?と迷いそうにもなったが、歌曲を真剣に勉強したいとのことで声のコントロールとレガートを中心に指導した。

この曲集は、歌いようによっては派手な演出が出来る作風であるし実際そのように歌う歌手が多いと思うが、実はそんな浅薄な作品ではないと思っている。
たとえば1曲目の「情熱的な歌」は、実はPで始まっていることと、スラー記号がしっかり付いていることを改めて指摘した。

Pという強弱記号の解釈はとても幅が広くて、単に声を抑制するという理解だけだと音楽が壊れてしまう。
その歌声の抑制の頃合いこそが、レガートで歌うフレーズを作るカギになる。
このような観点を考えると、あまり速いテンポは似合わないと思う。
テンポの速さを見せるよりも、音価が同じ6拍子と3拍子が交互に入れ替わるスペイン風なスタイルのリズム感を良く感じて歌うことの方がが大事である。

次のページでやっとMfの指示で高音のフレーズである。
Mfであるから、これでもフォルテの半分である。
声量を出せば倍音が良く出るからピッチがはまるのは自然なことで、張らない声でいかにピッチを載せるか?を会得することが表現の幅を広げることになるわけである。

この曲は男の妄想に満ちた恋心を歌っているので、妙な大声で歌うのはおかしいのである。
恋心を語るとき、どのような気持ちだろうか?どのように女性に語り掛けるだろうか?
そういうイメージも大切にすると良いだろう。

最後のO Dulcinee で目立つのが狭いE母音。これは発音をUにして、そのままの口でEを発音すると良い。
そして感嘆詞のOhは、正に感嘆詞なのであるから、良く喉の開いた柔らかい声を出すように。
そのための口の開け具合、喉の開け具合を指導した。

3曲目は、全体に声を張って歌う曲であるが、ルバートの面白さとヴォカリーズの面白さを大切にしてもらった。
ヴォカリーズは全体に声を抑制しながら、クレッシェンド~デクレッシェンドを明快に表現することである。
Je boisの件もルバート感は良く出せている。

中高音~高音の換声点にかけてきれいなアペルトな歌声であると思うが、もう少し軟口蓋を低くした良い意味でのカバーした声をテクニックに加えることも必要である、とこの曲では感じた。

全体的な発声面で感じたのは顎の力みがない癖の無い発声を持っているが、唇が意外と使えていないと感じた。
そのため柔軟な唇の動きがもっと使えるようになれば、フランス語の発音と発声の関係におけるレガートな歌唱が実現出来るようになるだろう。
また鼻腔発声に偏る傾向もあるので、その辺りも修正していくように考える必要はあると思った。

今後の課題として、グノー、アーン、フォーレの曲を提案した。
言わなかったが、ドビュッシーの初期の曲も良いものがいくつか挙げられると思った。