おりはらさん

ちょうど1年前に体験で来て以来になる。
早速母音アで下降形で2点Dくらいから上がっていくと、思ったよりも綺麗に高音が出せるようになっていた。
1年前の口の開け方とそのことによる喉の力みが大分抜けて高音域も大分軽く楽に出せるようになっていた。
以前はかなり重い声の遣い方になっていて、そのせいで高音が出しにくくなっていたのだと覚えている。

それは口を丸く開けて、喉を下げて胸声をしっかり出す、という印象だった。
今日の彼女の声は、少しその名残があったが、2点F以上は自然に頭声が混ざって
音程も良く2点Asくらいまで、無理なく出せていた。

一応、頭声の薄い細い声を練習してみた。
ハミングで音程を綺麗にはめて、薄い細い響きから母音に変えていく。
ハミングでは喉で押さないで、軟口蓋を良く上げて出す。
この練習を2点F以上でしばらくやってから、普通の発声に戻してやってみると
確かに高音は出しやすく軽くなったが、喉はやや締まり気味であった。

母音で出すと、軟口蓋を上げようとすれば喉が上がって締まるし、喉を下げようとすれば軟口蓋が下がるという具合で
バランスがまだ取り難そうである。
これは直ぐには上手く出来ないが、多少偏っても良いから、頭声と胸声のバランスのある発声を
それぞれ取り入れて練習することはやっておいて損にはならないだろう。

今日は発声練習を色々やってみたが、彼女はどうも基本的に喉が柔軟で、強いタイプらしく
喉に違和感を感じないタイプなので、モチヴェーションが高くなる曲を歌うことで
音域を広げたり、声質を決めたりするのが一番手っ取り早いタイプだ、と思った。

曲を聴いたが、イタリア古典の”Sebben crudele”から。
前回よりも声が少し軽くなって、声に無理がない。
明るくなったが、まだ少しくぐもった感じは残っていた。
中低音のハミングでピッチを高めに取って母音に変えて明るい響きを作ることで
薄皮が一枚取れたような明るさが出た。

響きの明るさと言うのは、声の深さとはまた別のことで深くても明るい響きというのはある。
声のスタンダード(基準)というのは、その人が出せる範囲でなるべく明るい響きにして
おくことが大切ではないか?と話した。

それは、単に基準が明るいと音楽的な音程のピッチも良い傾向になるし、その上で曲調に応じて例えば
単調の曲を自然に暗い気持ちで歌うならば、自然にピッチが下がっても許容範囲なわけとなる。

グルックの「エウリディーチェ」一音上げたキーで歌ってもらった。
これも実に安定した良い歌唱になっていた。
特に中高音の響きは力強く明るく、気持ちの良いものである。

こちらも、出来れば中低音で息漏れがなく、響きの集まった声を目指して欲しいと思った。
特にエとアの母音。
エとかアの母音は口の脇を横に引くよりも、上唇を上げるだけで良い感じである。
そのことで、全体的な演奏の印象が更にアップすると感じた。
具体的には、下顎をバクバクさせてアーティキュレーションしないで、なるべく
下顎を動かさないで歌うこと。特に中低音域である。
それだけで、自然に響きが高く明るくなるし、響きが集まるので息漏れ感が激減する。
一段レベルの高い歌唱になった印象が出る。

最後にベッリーニの「夢遊病の女」”Ah non credea mirarti”ベッリーニらしい美しいアリアである。
音域的には彼女の良い声が前半聞かれるし、最後の高音を転がす所は、やや難易度が高いが
ハードルの高さとしては、挑戦するにちょうど良いレベルであると思う。

何よりとても気持ちが乗って歌えているのが良い。
やはり選曲の妙である、と思った。