にしむらさん

しかし彼女は良い声だ。上質な甘さをふんだんに確保している良く出来たDolceを連想させる。
最近ヘルシーな洋菓子があるようだけど、あんなものはまがいものですな。
ヘルシーが気になるならお菓子なぞ食べるな、と言いたい。笑
酒も煙草も甘~いお菓子もちっともヘルシーではない。

さてそういう彼女の声にはやはりイタリアものが合うと思う。
今日のロッシーニ、ドニゼッティはまさに良く出来たDolceの味わい、の兆候がふんぷんと漂っていた。
まさに彼女の声は今が絶頂期だろう。

彼女の場合既に良い喉の当て方を知っているから、後はその当て方の種類、幅、をもっと持つことが出来るし、そのことで表現力の幅が広がるだろうということ。
基本は良いのである。
後は応用を覚えてほしいし、私が教えることはそういうことではないか、と思われた。

発声練習は上向5度形で始めた。
声は最初喉で楽に鳴らす感じで低音から上がって行くと、中間の1点G~2点Dくらいまでスカスカで更に上がるとまた響きが出て非常に綺麗な高音の響きの領域が2点F~bくらいという調子だった。

低音の出し方がちょっと気になったのと、中音部のスカスカが単に喉が温まっていないのだろうとは思ったが、中音部を前に当てる練習に費やした。

結果から言うと元々声が出来ている人なので、地声にもならず低音域の出し方は悪くない。
ただ、喉に頼ってしまうので顔の姿勢を真っ直ぐに正す(顔を上げ気味で喉で当てる感じだった)ことと、
ハミングをやって響きを前にあるいは鼻腔に通すように練習した。

それでも、まだスカスカなので母音をイに変えてイからエそしてアに変える練習プラス声を上歯に当てるようにして、ようやく当たるようになってきた。
中音部の特に1点A~2点Cくらいのチェンジポイントは喉を開きすぎないで、逆に多少締めるというか閉じる意識を持たないと上手く当たらないことがあると思う。

それからレッスン後に思ったのは、このハミングとハミングから母音に変える練習はこれからもとても大事だと思った。
なぜなら中音部のピッチがそれだけで俄然良くなるからである。
どうもハミング自体が今ひとつなのと、母音に変えるための軟口蓋の使い方ももう一つという感じ。
この辺り、これからきっちりと覚えて行く課題だろうか。

高音でも意識して更に喉を開く、あるいは軟口蓋を上げるということは更に高音の声を洗練させるあるいはもっと輝かし高音を出すために必要になるだろう。
中低音でそれが確立できていると、恐らく高音もまったく同じように応用が効くはずだと思う。

ロッシーニの「約束」はこれも良い声だったが、最初は平たく浅い感じで失礼な言い方かもしれないが、ややだらしない印象だった。
口の使い方は丸く、声は前に出すように、が良いと思った。
ただそれだけでとても良くなった。高音は前にしっかり。

最後のPPは弱くするよりも、ニュアンスの問題。
逆に喉が浅くなることで、弱さというニュアンスにつながることも必要。
喉は柔軟に対処できることで、感情と声の関係が自然に出てくるだろう。

ドニゼッティのIl barcaiolo
これがまた彼女の喉にぴったりだったので、実に愉快だった!
出だしの中音域は、ハミングでピッチをきっちり高く取って、明るく表現することが大切。
中間部直前の半終止前のカデンツのところが圧巻。
ここのところでかなり時間を取った。
L’alme abbandonar,Voga,vogaと2点Fisに昇って降りるフレーズは高音の喜び、快楽を印象づけるためには重く上がってブレス無しで、次に来るメリスマまで我慢。
メリスマから次の2点Gのフェルマータは充分聞かせて欲しい。
次のオプションは、最初やらなかったが結局挑戦することになった。

ここのO marinarの2点bがなかなか難しかったので、あれやこれややってみた。
ブレス後の最初のOは感嘆詞であるし、きちんと深く当てて最高音の直前のRiのイの母音、イで当てられるならむしろその方が当たるかもしれないと思った。
ここがきちっと当たらないと最後の2点bは抜けてしまうだろう。
後の下降形はディミニュエンドとテンポの緩みを持たせるのが良いだろう。

こういう聞かせどころは楽に歌えれば越したことはないが、歌うものが楽していると聴いていてもう一つ楽しみがない。
身体を使えるだけ使って、出来るだけ限界に挑戦して欲しい。
ただ、くれぐれも高音は練習のし過ぎに気をつけて欲しい。

中間部の2点Aを2小節半伸ばす所は、テンポが速くなるし、ピアノ伴奏のやり方でどうにもなるので、苦労はないと思う。

さて、どちらの曲を歌っても彼女は良い声で歌えているが、やはり中音部の声のピッチをもう少し高めに出来ると更に明るい声質になる。やはり中音域は大切だと思う。