はらさん

何かプロ並みの声楽レッスンスタジオのオーディション受験と言うことで、やってきた。
なんと試験は今日である。
彼女の並々ならぬ意気込みを感じる。

前回持ってきた、ヴィヴァルディのIo son quel gelsomino
前回難しかったテンポ設定だが、優雅さと感情表現の折衷と言うこと
良いテンポが見つかった気がした。

最初にピアニストさんが提示したテンポで、1ビート100くらいだろうか。
こういうイタリアもの、それもバロックになると、必ずしもそのアリアの
音楽内容のリアリステイックな表現よりも、一歩違って、あくまでスタイル
というものを出すのではないだろうか?
意外と優雅な音楽である、このアリアは。

激しさと優雅さが並列にあるところが、このアリアの良さである。

はらさんは、発声練習からして、すでに今までと明らかに違う声を出すようになっていた。
アの母音で始めたのだが、おや?と思うほど明るい響きになっていた。
最後にエの母音で2点bまで上がったが、喉に負担を感じさせずに、綺麗にスムーズに発生できるようになっていた。

実際に曲を歌っても、下顎の無駄な動きがなくなり、滑らかは発音と発声でとても綺麗に歌えていた。
一つだけ言うとすれば、高音になると、やや下顎を前に出す感じがあってそれが、舌根で支える傾向なのだと思う。
下顎は前に出すというより、やや後ろに引いて行くほうが良いと思う。

それから、どうも歌っている間、お腹が硬くなること。
ある程度は仕方ない面もあるが、いつもそれを気にして、時々緩める意識はあった方が良いだろう。特に間合いが長いブレス時や、間奏の時。
この姿勢は、腰から背中、背骨のしっかり感が必要なので、常日頃から意識して欲しい。
声楽で必要な筋肉は意外と重いものを持つ体のしっかり感なのだ。

歌唱としては、これからの課題として、リズムの緩急を自在につけられる
ようになってほしい。
例えば、Solettoとか、Ascosaというところなど。
母音を書いてある音符以上に伸ばしてみたりといったことが、表現の方法として強調になるだろう。
まだ、テンポに縛られてしまう傾向が強い。

さて、試験だがどうだろう?素直で少女のような清廉な歌なので好感をもたれるのではないか?

あめくさん

今日はフランス語をノートに書いて、発音記号もそれなりに調べてくれたのでこちらは嬉しかった。
発音記号など、分からないことは、教えるので、ともかく分かる範囲でも
調べて書いてみて、覚えて欲しい。
また、そういうことに慣れることも大切なことである。
まだ若いから、ちょっとやれば直ぐに覚えられるだろう。

一つの言語を辞書を使って読み方がわかるようになるだけでも、
先々声楽の楽しみの大きさが違うと思う。

発声はイで始めて下降形上向形など喉を温めてから、高音は2点bまでにした。
一つだけ気になったのは、特に下降形で5線の上から下がると、2点C~Eくらいでそのもう一段下の太い声区とどっちつかずになる感があって、少し不安定になること。
上から降りる際には、なるべく途中で声区を変えないようにしたほうが良いだろう。
変えるとしても、なるべく2点Cから下の領域で変えるべきだと思う。
2点C~E辺りはとても目立つのである。

この辺りの使い分けに慣れて欲しい。

曲はサティのDapheneoから。
この曲は中低音の響きだけで歌い通すので、特に彼女の場合ラフに歌うとそのまま分厚い響きのままになって、音程が♭あるいは響きが暗く潜ってしまう。
こういう中低音域こそ、軟口蓋が上がった鼻腔への響きが大切になる。
それだけで、聞こえてくるので、ピアノの和音とあいまって、この曲特有の
不思議な音楽が醸造されるようになる。

Le chapelierは、高音のフレーズだけ喉が締まらないように、充分に間合いを取って歌うこと。特にs’etonneの高音2点G#。最後の2点Aの声。
中低音域が太いので、高音の細いのがどうもアンバランスな感じ。
オペラのアリア並みに堂々としっかりとした高音が欲しい。
この曲はそういう歌を歌えば歌うほど、歌詞とのアンバランスおかしいのである。

最後にこの一連の3つの歌曲の1曲目、La statue de blonzeを譜読み。
フランス語の読みを全部は教えて挙げられなかったが、発音記号の読み方や辞書の引き方のこつを少しだけ。
Qu’onとか、S’ennuiとか、アポストロフィで区切って一つになった言葉は、アポストロフィの後の単語から、調べると大体分かるだろう。

発音記号で難しいのは、j=ユ y=ユ eが逆さになったのが、曖昧母音。

曖昧って?これはEの発音が丸くなって、曖昧な感じ。
後はOの口をして口の中でEをいうタイプが二つ。oeというのと、
後は書き表せない○に斜め線が入ったもの、後者の方がどちらかというと狭い母音になる。Eが広いエでeがイに近い狭いエとなる。
頑張って自分で読めるだけ読んで欲しい。
後は録音など聴いて、辞書と確認して、読み方を確認する手もあるだろう。

まつながさん

彼女とはずいぶん長く話をした。
何をそんなに焦るのか、悩むのか分からないが、何かことを焦っている気がする。
何事も、一遍に色々なことが上手く行くわけではないので、焦らず楽天的に歌うことを楽しんで欲しい。
それでも、私としては教えてから1年以上になるが、教えたことが確実に
形になっているから、嬉しいのである。

強いて言えば、中低音域が出にくい声なので、その辺りを焦ってしまうのだろう。
以前に比べるとずいぶん良くなっているが、まだ舌根から喉を下げる傾向がある。
これがなくなると、本人は同思うか知らないけれど、もっとナチュラルで自然にしかも当る中低音の響きが出ると思う。
むしろ当て所を意識するよりも、彼女には有効かもしれない。

彼女の懇願で、伯爵夫人Porgi amorをまず聴いた。
何か発声のことを気にして歌っているのか、どうも小さな声で暗く
エネルギーのない歌であった。
どうも発声のことを熱心に考えるのは良いのだが、一番大切なお腹と声とのつながりが、そのことで弱くなってしまうのは、本末転倒という感あり。

整理整頓すると、優先順位をつければ、声を出すことと息を自然に吐き出していく感覚の一致した歌を歌うことである。
ただ、確かに声が綺麗に当らないと、息と声が良い関係にならないのでそこが難しいところ。

何度も書くが、軟口蓋もあるが、その前に、喉を下げる意識をなるべくなくして楽に喉が自然に当るポイントを見つけることが、喉そのものに関しては課題あると思う。
これは特に中低音域の話。
そして、フレーズは高音に行くほどクレッシェンドする意識で、お腹を自然に使うことを常に忘れないように。

後は、プッチーニの「私の名はミミ」
こちらも、まずは発声のことよりも、発声のことに拘泥するあまり
小さな暗い声にならないように。
出だしは、ミミらしく健気に明るく、はっきりと、しっかりと語ること。

歌の部分は、もっと大きなフレーズ感を大切に。
要するに急がないで、お客さんがよく分かるように、落ちついて大きなフレーズ感を出して欲しい。

最後にプーランクの「愛の小経」
こちらは時間切れになったが、やはり彼女には元々音域が低い。
だからこそ、力まないで喉を楽にして、自然に当てて歌えばお腹とリンクしてくるだろう。

わきくろまるさん

今日は本当に良い声を実感。
発声練習からビンビンと声が出ていた。
このところ、来るたび毎に成長している。

イとエの母音で1点Cから上向形でエの母音では、3点Cまで上がったが
3点Cの響きさえ、そうそう誰でもは出せない、息の廻ったちゃんとした響きが出せるようになっていた。

いつの間にこれだけ出せるようになったのだろう?と訝しいい気持ちになるくらいであった。
中低音域の響き、そこからのチェンジ、高音の喉の落ち着き、どれを取ってもバランスが良い。
そのため、良い喉の当り方であり、音程も良いし響きもビンビンと出ていた。

元々声を持っている人なので、こちらもあまり細かいことを言わずに、なるべくシンプルに教えたつもりだが、まったくのずぶの素人からここまで1年で成長したことは感慨を覚える。
彼女の普段の努力があるのだろう。
それは、実は間違った方向に行く可能性もあったわけだが、その辺はレッスン回数や頻度的にも、バランスが良かったのだろう。

今の所、彼女の勢いのある良い声を、こちらは最大限尊重してあげたい。
あまり細かいことには拘泥せず、大きな音楽を朗々と歌う、というところで更に成長して欲しいと願うものである。

曲はベッリーニのMa rendi pur contento
これもリズムの問題が克服されていた。
いつもより、ゆったりとした伴奏で朗々とやってみたが、声が充分にそのゆったりとしたテンポで歌えるようになったのである。これだけでも、長足の進歩といわざるを得ない。
ついこの間まで、ブレスが足りないといってひーひー言っていたのにである。
高音も、当初の開きすぎたペターとした響きが影を潜めて、奥行きのある響きにまで成長した。
一応上がりとしたい。

もう一曲の「夢遊病の女」アリアAh non credea mirarti
こちらも、前回のアペルトで浅い響きが大分改善されて落ち着きのある大人の歌唱になった。
意外と喉がきつい、2点F~G当りのフレーズでも涼しい顔で歌えるようになった。
途中、Il pianto mio ahのところのブレスポイントの再確認と、最後のカデンツのブレスポイントを再確認。
この段階になれば、後は無理な息の持続は止めて、安定した歌唱が出来ることを主眼にした方が良いだろう。

声の勢い、歌の明るさ、健康的な喉、どれを取っても日の出の勢いという印象である。
少し高めのハードルを与えて更に乗り越えるエネルギーがあるだろう、ということで思い切ってマノン・レスコーのアリア「ひとり、捨てられて」を与えた。
音域、調子、などなど彼女のぎりぎり克服出来る条件は揃っていると見た。
勿論、完璧を最初から求めていない。
大きな全体を歌い通すこと、破綻のない高音を目指すこと、それだけで充分である。
後は、ベッリーニのPer pieta bell’idol mio,Vannne o rosa fortunata.
こちらから先にやりたい。