前回非常に良くなった印象があったのだが、発声を始めたらどうも後戻りしているような印象があった。
確かにすかすかした中低音は比較的に影を潜めたが、どうも声質よりも音程が♭になる傾向が強いのが気になる。
それから声がかなり揺れてしまう傾向であった。ビブラートではなく、揺れてしまう。

また歌う様子を見ていると、喉を下げる傾向が強いのと、声を出すまでに非常に構えてしまって時間がかかる。
姿勢もやはり顔が前に出て、下顎から舌根に寄りかかるような姿勢に見える。

最初は実はイの母音で始めようと思ったのだが、まずはアで下降形からだったが2点Dくらいの声を出すのにも、何か構えてしまって出しづらそう。

どうも何か身体を色々考えて使おうという意識は見て取れるのだが、それが空回りしてしまいかえって良くない方向に行ってしまっているように見えた。

また、中低音の母音の当て具合を自然に出そうと意図してイの母音で低音から始めると、これが地声傾向になってしまった。
彼女の申告ではどうも一人で声を当てる練習をかなりしたらしく、彼女は気づいていなかったが、特にイなどでは地声になってしまっていたのである。これは、気をつけてほしい。エも同様であろう。

前述の音程の問題を直すことで、発声の全体像が変わると思ったので、ハミングで音程を高めにきっちりと取ることを練習。
そこから母音に換えて音程の良い母音で発声練習を続けた。
声の揺れは単に喉だけに意識を持たないで、声を伸びやかに高く広く感じて、お腹を自然に入れていくように
声を出すことだけ意識すれば収まるようである。

母音は最初はエで声が綺麗に当ることと、音程が良いこと両者を求めた。
イでも同様であり、特に前述の声の地声チェンジが起きないように気をつけてもらう。
最後にアの母音で練習。
高音まで伸ばしてみたが、2点bくらいまでが精一杯の感じ。
だが、声を聴いているともっと出そうな感じもする。

当初はもう少し中低音の膨らみのある声かとも思ったが、そういう声を意識するとかえって音程の良くない響きになりそうである。
結果的に、アの母音でもそれほどスカスカしないで音程も良く歌えるようになったので歌に入った。
しかし、ここまでで40分以上は発声をやっただろうか。

良く練習されるのは良いが、気をつけて欲しいのは特に声を出す際に身体を構えすぎないこと。
姿勢に気をつけること。姿勢というのは顎の出ない姿勢である。
恐らく今は顎を出す方が楽だし、響く感じがするだろう。
しかし、恐らくそのままだと今の問題は解決できないだろうと思う。
どうしても、喉を下げる意識が強いから、結果的に喉に頼って歌ってしまうのである。
というのも、最後に歌ったベッリーニVanne o rosa fortunataでは、喉を開けているにも関わらず喉が上がった歌い方になってしまっていたからである。

ともかく、喉を下げる歌い方、そのための姿勢にならないように気をつけることそして、もっと発音から発声の方向として頭の中で響かせる感覚を持つこと。
そのためには、下顎ではなく上顎あるいは上顎の中が広い感じを持つことこれさえあれば、声の出し始めの身体の使い方、構えなどはむしろ意識しない方が自然に良いポイントに行くと思う。

順は変わるが、Vaga lunaはそれほどの高音がないので、音程も良く綺麗に歌えていた。
お腹を使って声を伸びやかに広げるように意識していくことでも、声の震えがなくなるだろう。
Vannne o rosa fortunataは難しいが、例えば指をくわえて、歯を離さないで喉の力を抜いて、だけど顎が出ない、という姿勢を堅持して、高音ほど頭の中、あるいはうなじ方向に声を持っていって歌うという練習も一つの強制的な練習方法として意味があるかもしれない。
ただ、くれぐれもやり過ぎないように気をつけて欲しい。

まつながさん

自分で発声練習をすると、特に中低音の練習で喉が痛くなるとのこと。
どうかと思ってやってもらったが、問題はなさそう。
多分、無意識に声を押して無理して出す状態になっているのではないだろうか。
中低音のほうが無理をすると喉を痛めやすいので、気をつけて欲しい。

元々がそれほど中低音が出るタイプではないので、無理は禁物である。
実際、普通にレッスンで発声練習をして出てくる中低音は以前に比べると格段に安定して、音程感も良くきちっとしてきている。
決して声量はないが、無理はないし音楽的に歌が歌えるのでまずは良しとしたい。

自分で練習する際に気をつけて欲しいのは、最初から低音から力んで出さないこと。
最初は2点D(上のレ)くらいから下降形で降りて、その軽いチェンジした響きを保って、低音から練習することである。
それは、母音アで初めても良いし、あるいはハミングでも良い。
ある程度軽い声で中低音を出してから、再度低音から練習して仕上げ、という感じだろうか。

それから、レッスン最後にやったが、更に一段低い地声からハミングで練習して上のチェンジに繋いでいく練習もしていくと、更に中低音の響きが増すようになるだろう。
気をつけて欲しいのは、喉だけでやらないで、きちっと喉をある程度開くこと(これはむしろ上のチェンジでの中低音発声よりも必要)と、やはり軟口蓋を上げることが大切。

そうすることで、元の普通に出すチェンジの領域にスムーズに繋がっていく。
また、仮にチェンジするとしても、1フレーズの中でチェンジすること。
ドレミファソと上がったら、最後のソだけでチェンジすること。
またハミングの低音練習は、1フレーズの中で喉をリラックスさせて、
胸に響かせて始めたとしても、最終的には鼻腔、軟口蓋から上の響きに積極的に変えるように意識することが大切。
そういう意識がないと上のチェンジ領域への自然な以降が出来なくなるからである。

この練習を忍耐強く続けていけば、今よりも更に中低音は出しやすくなるだろう。
ただ、何度も言うが元々がそれほど低音の出る声ではないので、過度の期待は禁物である。

今日は何か彼女が頼まれて歌う機会がある、とのことで、モーツアルトの伯爵夫人のアリアPorgi amorから歌い始めた。
とても丁寧に綺麗に譜読みが出来ていて、失礼ながらあっけないほどであった。
彼女は変わったな、という好印象。
後半、少しリズムを確認したことくらい。
後は、声を出す所、それほどでもない所、は感情の出し方の違い、悲しみと怒りの違いとして意識した方通いと思う。

ケルビーノVoi che s’apeteは、2回目だし安定して中低音もしっかり歌えている。
強いて言えばイタリア語の発音が何か曖昧なイメージ。
良く言えば、舌や口が脱力しているとも言えるのだが。。
もう少しはっきりした方が良いだろう。後はSiはシではなくスィと発音すること。

後は、武満のMIYOTAを持ってきた。
これは、キーが低すぎるので、上げたほうが良いと忠告。
元々がPopsだし、声に合わせてキーを変えるのはまったく自由である。
滝廉太郎の「花」は多少低めだが、可能である。
良く歌えるようになったと感心した。
ミュージカルのI could have dance all nightも低めだが、無理ではないという印象。
これも出来ればキーを少し上げたほうが快活な印象が出るだろう。

ともかく、今の状態のままでも多少の忍耐さえ厭わなければ、かなり多くのレパートリーが持てるまでに、声のキャパシティが広がったと思う。
何より音楽的な歌が歌えるようになった。長足の進歩である。