発声練習は1点Cから上向形で2点Gくらいまで上がってから、今度は下降形で2点Dから再度上がって高音を聞いてみた。
高音の入り口から勢いのある声が出て、初めて来た頃の彼女の声の小さい頃を思い出した。今が大きいというのではなくて、息の勢いが素直に声になっているのである。
合唱をやっていたせいか、ポイントを細く軽く軽く小さく当てる癖がついていて息に勢いがないため、その後のフレージングも当然のようにほとんど感じられないものだった。
だが、今はすっかりその癖も消え、何か伸び伸びと声を出すことを喜んでいるかのようである。
彼女が、中低音が太くないですか?と質問されたが、確かに当初に比べるとしっかりとメゾになっても良いくらいの声が出ているが、太すぎて困るとか、高音に影響がというようなレベルではないと思う。
高音は2点Aくらいまで。それ以上はやや無理がある。そういう意味ではメゾソプラノの音域だが、練習と本人のモチヴェーションで高音は未だ伸びると思う。
高音は機能的な訓練だけで良いというものでもなくて、そういう曲を歌いたいか、あるいはそのために練習をすることが大切である。
彼女に関しては、発声練習でやるよりも、色々な曲に挑戦しながら必要に応じて出していけば良いと思う。
発声面で言えば、後は実際に歌いながら、問題を本人が感じることで、調整したい。
例えば少し長い時間歌うと、喉が疲れるとか、特定の場所が固くなって疲れるとか、声が出なくなる、力んで声に伸びがなくなるなどである。そういう本人の自覚がない限りは今の調子で歌って行きながら、感じたことをその場で直して行けば良いと思う。
強いて言えば中低音はもう少し軽く浅い発声でも良いかもしれないが、それはあまり強要したくない。
今の声でも逆に深みのある表現は可能だからである。
声は人それぞれであり、完璧ということはあり得ない。
完璧というのは何を持って完璧というのだろう。
歌いたい歌を歌ってみて、それが思うように歌えないときに初めて必要が生じて学んで精進して行けば良いのである。
曲はバッハのカンタータ61番のOffne dich mein ganzes herze
楽譜的には音程も不安がほぼなくなり安心して聞けるレベルになってきた。
中間部の最後の高音と細かい音符が続くところが、やや不安定だが、落ち着いてさらって欲しい。
seligはアクセント通りに楽譜に強弱記号ががついているが、これは尊重して、もっと出して欲しい。
また、もし可能であれば全体にたくさんあるトレモロを付けられるなら挑戦してみて欲しい。
ヘンデルのHow beutiful are the feet of themは、これも完成度は高くなった。
特に前半はとても美しく歌えていて感心する。
後半に出てくる高音2点GのBringの母音Iは、あまり閉めないで出しやすいように口を開いてデフォルメしてほしい。
声を優先すべきであろう。
また、その後に出てくる最期のGlad tidingのIの母音もGladで開いた喉を閉めないような口の使いかを維持して
Tiを発音しないと、素直にTiを発音することで閉めてしまうだろう。
ここはコーダであり、リタルダンドを付け始めるから、落ち着いて、だけど綺麗に高音を出して欲しい。
テンポや母音の形を真っ正直に保つために喉が締まった声を出してしまうのは、感心しない。
しかしながら、譜読みがしっかりするととても綺麗に勢いのある声で歌えるようになった。
これからは、様々な曲に挑戦して欲しい。その中から必要な技術は磨かれていくだろうと思う。