発声練習では、やはりエの母音が一番良い。
2点F以上の音域もスイスイと綺麗に出る。
ところがアになると、途端にどうも。。
自身で調子が悪いのは、どこがどうなのか?肉体的な感覚を良く磨いて観察して欲しい。
恐らく、舌根側に妙に力みが入ってしまうのだろう。
しかし、そのアを直そうとするよりも、綺麗に響くエを他の母音にも応用すれば良いと考えて欲しい。
特に、アは、エからの応用は簡単に出来るはずである。
出来ないとしたら、その出来ない理由が、アの響きを悪くしている理由だから二重の意味で応用することは良いだろう。

今日は新しい日本歌曲を持ってきた。
最初に歌ってもらったのが高木東六=立原道造の「浅き春に寄せて」
これが、高木先生の少し甘いメロディとフランス風のこんもりした和音の
なかなかこじゃれた曲。こじゃれただって!笑

彼女は低音がそれほど出るわけではないが、なかなか良い。
落ち着いて、この歌の良さを出している。
このところ高い音域の曲を良くやっていたが、彼女のキャラクターとしてはこのような中低音域の落ち着いた曲が、今は発声的にも合っているのだろう。

後の2曲は磯崎英一と田中冬二というコンビで「あんずの花の匂う夜」
日本語の詩の生固い語感と旋律重視の形で、ちょっとおかしなニュアンスのところもある作品だが、全体的には好感が持てる。

日本の現代歌曲を聴くと、何だか合唱作品、合唱を思い出す。
作品としてどうこう言う以前に、日本語に異常なまでに反応してしまう。
ああ、やはり日本語だ。日本語で歌えるって素晴らしいな、と妙なことを思う。

ところで、彼女、今回の3曲はいずれもそれほど音域は高くないので、声の問題をあまり感じない。ということは、以前に比べて大分中低音域も響きが少しずつ出てきたのだろう。
どうやら彼女はこの日本語の歌で、良い歌のセンスが磨かれていくような気がする。
もう少し日本歌曲を勉強してみたいと思う。

かさいさん

彼女ともいよいよお別れ、ということで彼女は挨拶がてら、最後の歌を歌いに来た。
17週だそうだが、もうお腹が大きくなってきていた。
なんだか発声練習をしていても、何かお別れの一区切りを感じて感無量だった。
いつものあどけないドレミファソやソファミレドが、何かこの瞬間の特別なもののように思えた。

ムジカC。本当に彼女と共に5年間歩んできたような気がするのだ。
私自身、ムジカCのレッスンでは当初ずいぶんと苦労をした。
最初は、本当に何を教えて良いのか困ったことも度々だった。
もしかして彼女が実験台になってしまったかな、と少しばかり悪いような気さえしている。
そんなこんなで5年が経ってしまった。

彼女は元々歌のセンス、音楽的センスがある。
いわゆるクラシック愛好家というのではない。
ただ、純粋に音楽が好きで、感性がある人だと思う。
むしろ余計な知識がないために、センスがピュアーで活き活きしている、と私は思う。
私が彼女を買っていたのは、そういうところである。

恐らくこの5年間で彼女が身に付けたことは、お客さんの前でどういうことをすることが、一番大切なことか?ということだろう。
それは単に歌そのものの上手い下手とは関係がないのである。
これは大きなことである。

彼女がステージに出てくると、花が咲いたみたいだし、その歌う姿、声を聴くと何だか楽しくなる。これが一番大切なことではないのか?

今日はモーツアルト、スザンナのアリアとRidente la calmaを歌って終わりにした。
彼女は今までになく精一杯声を出して歌っていた。

これで、いよいよ彼女も名実共に人生の門出になるのだ。おめでとう。
尻に火が点かないでも、計画的に行動してくれぐれも慎重に大事に海外での生活を満喫して欲しい。