彼女も中学校時代から合唱をやっている、合唱経験の長い人。
そのためなのか、大きなフレーズの形、勢い、声そのものが持つ明るさ、と言う側面がやや弱い印象がある。
その理由は声を無意識にコントロールすることにあるだろう。
まずは無意識の喉のコントロールを取るために、下顎を極力使わないこと。
なぜかというと、声を出す寸前に、下顎を調節して、意識して喉を下げているからである。
これが悪い意味で構えた発声になっていて、声をこもらせ、暗くしてしまうし、息による勢いが足りない。
下顎を使わないことを自然にやるためには、イとかエで発声するのが良いだろう。
それから、イは口の端をを引かないほうが良い。
エを彼女は下顎を下ろさないと発声できない、と言っていたが、それは違う。
アもそうだが、下顎は関与しなくても母音の発音になんら問題は無い。
エは頬を上げて上唇を少し持ち上げると、自然に軟口蓋が上がるのが分かる。
そこで声を出し始める意識。
などなどやりながら、発声に時間をかけて、ようやく中音域が当たるようになった。
結局、どちらかというとメゾ的な声なのだが、喉を下げて強く当てる、という感じだろうか。
ブレスであくび状態を作りすぎていると思う。
その代わり、現在の声は2点F以上では、共鳴感のあるメッザボーチェが出て、綺麗ではある。
ただ、それも2点Aを過ぎると急速に締まる。
全体に、どうも喉は低い方を嗜好する声ではないか?という気もするが、拙速な判断はできない。
曲はイタリア古典からVittoria mio core
HannoのHはイタリア語、フランス語などラテン語族はハと読まずに、アと読む。
従って、Non hanno はノナンノとリエゾン。
Esceはエッシェ。
練習したのは、とにかくすぐに高いチェンジの声にひっくり返るのは、懸命に押さえ込んで当てる声にすること。高いチェンジとは2点F以上の声のことである。
これは合唱の時は軽くて、音程が良いので有効だが、ソロとなると中音部がまるで聞こえてこないので下の声区とのミックスが必要だ。
彼女は、この下の声区を地声、と認識していたが、これも違う。
彼女の地声は、もう一段低い領域で出る声である。
1点Fくらいでイの母音ではじめる声は地声ではない。
このあたり具合をとっかかりにして、中音部の声の充実を図りたい。
すぎたさん
発声練習では、2点A以上で前回のハミングでうるさく言った効果が出て、綺麗な軽い声で音程が良くなっていた。
まずは、無理をしないでこの響き、声の出し方で高音を扱えるようになって欲しい。
今まで私が出せ~出せ~とうるさくいったせいか、全体に声が出るようになったが少し声の扱いが乱暴になったのも事実。
物事はバランスが大事なので、これからは再び、綺麗に処理することをやりたい。
それから、やはり以前からの癖が頑強にある。
それは特にフレーズの終わりや長い音符で、妙に揺れた声を出す傾向である。
これはビブラートというのではなく、揺れである。
彼女も言っていたが、声を抜く傾向かもしれない。
ただ、これは意識してもらうだけである程度良くなるので、くれぐれも注意して欲しい。
イメージだけどバイオリンなど弦楽器は、ボーイングといって、弓を持って弦を擦るが最後まできっちりと当てるだろう。もちろん力の抜き具合はあるが、最後だから抜くということはなく
むしろフレーズの最後の方が音楽的に大切な場合がとても多くある。
むしろ、最後に向けてしっかりと出していくフレーズの配分を考えて欲しい。
それから、いつもいつも考えて欲しいのは、声をこもらせないこと。
喉を下げて、奥に声を入れないで、前に出すこと。
これは、ほとんど癖である。
このタイプの人は多いが、強いて言えばメゾ系だろうか。
下顎を降ろさないで、むしろ後ろに引くようにして、声を鼻腔に入れるようにすることが大切。
曲はヘンデルのアリアVadoro pupille
これが前述の声を揺らせる癖が顕著にある。
これを徹底して直すこと。
恐らく歌うときに、何か不要に情緒的になっているのではないかな。
もっと単純に、歌のフレーズを前に、真っ直ぐに持っていく意識を持つこと。
自分の中で歌わないで、外の人に言葉で訴えるように意識するだけでも、大分違うだろう。
モーツアルトのRidente la calma
こちらは、ヘンデルに比べると穏やかな柔らかさが必要だし、丁寧な声の扱いに注意。
トスティのAddioは、語りの部分と歌う部分をテンポを含めてはっきりと分けること。
しかしながら、全体に声と曲の作りこみさえしっかりやれば、大分クオリティの高い歌になってきた。
良く精進されていると思う。
おおぜきさん
彼女は中低音がいつの間にか魅力的な大人の良い声になっている。
ただ高音の出し方、喉を絞めないように出すための方法論が未だ身に着いていないのが惜しい所。
で、高音の練習になった。40分くらいは発声練習だっただろうか。
ポイントはやはりスタッカートだろう。
ドミソでスタッカートをやる場合、最初の声出しで構えないこと。
軽く入ることで、上に行くほど喉を開く、あるいは深く当てる感覚を持ちやすく出来る。
これを最初から深く、あるいは重くしてしまうと、高音で逆に喉が上がってしまうものである。
これは、筋肉の反応の癖である。
この練習の場合、弛緩→緊張という循環が必要だから、最初はむしろ喉を浅く楽にしておいて高音ほど深く、しっかりと当てることが大切。
そうやって何度か練習するうちに、大分深い締まらないポイントが身に付いた。
この感覚は、ほとんど瞬間的なものなので、慣れが必要だろう。
慣れてくれば、いつのまにか自然に出せるようになるものだ。
後は良い声になった中低音域だが、やや響きが落ち気味になる。
ほとんど問題ないが、微妙に♭な傾向になるので、気をつけて欲しい。
喉の当たり感ではなくて、同時にもっと軟口蓋を引き上げること、常に大事にしてほしい。
これは特に中低音の話。
高音域は逆に喉の感覚と思ったほうが良い。
曲はIntorno all’idol mio高声用でやってみた。
前回よりも、高音域が素直に出るようになり、喉の絞まり感がなくなった。
これは良かった。
むしろ、この曲の場合、中音域のピッチの微妙な低さが気になった。
前述の中低音域の軟口蓋側の意識を持って欲しい。
課題は高音域を少しずつでも伸ばして行きたい。
魅力的な声質の中低音を生かして、高音を伸ばすのは時間がかかるが焦らないで、確実に少しずつ伸ばして欲しい。
それでも、初めて来たときに比べると声が出るようになったのは、雲泥の差がある。
これからの1年もまた確実に変わっていくだろう。