小柄な方だが、体の芯がしゃんとして、とても健康的な喉を持った方。
子供時代から学生時代まで通じて、特に音楽の稽古事はやっていない、ただ歌が好きということだが、1年ほど前から声楽レッスンに通い、事情ありこちらに来た。
喉、体、センスがある上に、基本的に良い訓練を最初に受けたのだろう。
非常に素直で良い声である。
声を持っている、というタイプではないのだが、声を出すことのセンスがある。

譜面もあまり読めないとのことだが、それでこれだけの声のセンスが持てるのなら、語弊があることを承知で、譜面が読めない方が余程良い、とすら思わせる。

発声練習は何をやったかあまり覚えていないくらい、苦労がなく、実に素直な声。
綺麗に当たった喉。音程が良い。声量がほどほど。
決して立派な声量ではないが、訓練でもっと声が細く高く集まって、可愛らしさ、色気、華やかさを併せ持つ、典型的なソプラノになれる資質がある。

最初は普通にアで下降形から始めた。顎の出ない、背中のしっかりした姿勢が良い。
高音域2点Aくらいまで行ったが、多少喉が締まる程度。
中音部でイの母音をやってみた。
低音から始めると、慣れないせいで地声になるので、2点Cから響きを作って、再度低音から。
返った声でイの母音を作って、そこからエそしてアに変える練習。
特にアは上唇でガイドすると、下顎を使わないでもアの母音の響きになること。
これで、中低音もすかすかしない当った響きを作る。

後は高音まで昇って降りた。2点bまで。
高音も綺麗にチェンジしているが、やや締まる傾向はある。
この辺りが課題かな、と思う。

曲はIntorno all’idol mioを最初低声用から。
低いのでは?と思ったが、歌ってもらうとそれなりに良い声で歌えていた。
予想外に中低音域もバランスよく出ている。
直したのは、ちょっとした細かい音符の扱い、間違い。
それから修飾音符を直したこと。
一番大切なのは、外国語、この場合イタリア語だが、子音と母音の関係。
All’idol mioという場合に、ア、ッリー、ド(ル)ミーオという具合に
子音と母音をきっちり認識すること、アル、リードル、ミーオだと日本語になってしまう。
しかしさすが3代目の本物江戸っ子だけあって、Rの巻き舌は上手い!

次に高声用で歌ってもらうと、これがとても綺麗な中高音域。実に滑らかで無理の無い気持ちの良い声だ。
悪いビブラートがなく、清楚で感じが良い。
低音も出しやすくなり、やはりイタリア古典なら、そろそろ高声用で練習して良いのではないかと思った。
この曲はうるさく言えば、もう少し中音域で力まずに、響きを高く前に出せると理想的。

最後に、バッハ=グノーのAve mariaを歌った。
こちらはオリジナルの高い方。
これは低音から高音2点Aまでと音域が広い。特に彼女には低音が厳しい。
高音も、少し締まる。
高音に行くほど喉が上がらないように、フレーズの入りで力まないで重くならないこと。

他にももう少し高音域は細かくやりたいが、時間になったので、次回からもう少し詳しくやってみたい。フォーレのリディアも歌いたいというので、フランス語も教えたい。
良いセンスがあるので、かなり色々な曲を歌いこなせるようになるだろう。
楽しみにしている。

さくらいさん

彼女、2年くらい前だったか、一度来出したのだけど、子供が生まれて中断。
もう来ないだろうな~と思っていたら、ホームページをチェックしていて
歌いたくなって、また来た、というくらい歌が好きな方だ。
子供のころから好きで、先生にも褒められていたらしい。

背が高く首も長く、いわゆる声帯の長い大きな喉をした方。
ただ、それほど分厚い声帯という感じはなく、スリムな体に応じたスリムな声帯という声をしている。

背が高かったり首が長いのは、逆に支える筋肉が人一倍必要で、その分、彼女の場合支えが少し弱いところがある。
特に首がもう少ししっかり据わっていると、喉の力みももっと減るだろう。
今は、やや舌根で支えてしまう。特に2点F以上の高音域。

中低音域は、逆にとても声が出るタイプで、それほど苦労は無いのだが、やはり喉で力むので、喉が疲れるはずだ。
今日は、イの母音からエそしてアに変える方法で、特に舌根に力が入りやすいアの母音で響きを喉ではなく、上顎で響かせることを練習したのがポイント。

これがとても上手く行って、響きの高く明るい中低音の声質が得られた。
ただ、これも直ぐ元に戻ってしまうので、しばらく大切に注意深く練習して行きたい。

高音は、まだまだ喉が締まる傾向。
これは、あまり理屈っぽくやらずに、発声で言えばウの母音で上がっていって喉が締まる辺りから縦に少しあけるようにしていくと、良い当り具合が見付かる。
この発声の感覚をいつも高音域では応用して欲しい。
即ち、高い声だからといって、口先を開け過ぎると、かえって喉が締まってしまう。

曲は早春賦とからたちの花。
いずれも課題は取り合えず高音域だろう。高音はその音そのものだけではなく、そこに至るフレーズとして捉えること。それは、フレーズの低い楽な所で
ついつい声を出しすぎてしまうが、それが高音になるときに、喉を絞める原因になる。
力まないで高音に昇るほど、喉を開いて響きを広げて行く意識を先ず大切に。

後はちょっと難しくてとっつき難いと思うが、言葉の発音。
特に日本語の場合、口先ではっきりしてしまうことで、喉を絞めた発声になるので発音方法を少しずつ勉強して行きたい。
声を持っているし、勘は良いので伸びて行くだろう。
また、無理なく通ってほしい。

はらさん

彼女は昨年11月に初めて。九州在住でわざわざいらっしゃる熱心な方だ。
経験は長いのだが、最初に付いた癖が頑強で高音が出ない。出ないといっても2点Gが厳しいのである。これは何ぼなんでも発声に問題がある。

大体、ちょっと高音が出ないくらいであなたはメゾね!なんて教え方があるだろうか?
そんな教え方が今の彼女の高音の難しさを作ったのは間違いない。
教えるということは、いい加減ではいけないのだ、と思う。

どういう状態か?とにかく声を出す際の構えが強すぎる。
ブレスを下だけで、目で見えるくらいに喉を太くする。
いわゆる舌根で喉頭を押し下げるのである。

どんな音域でもこれを最初からやってしまうので、中低音で始めるフレーズだと声が以上に野太く、音程が♭になってしまう。
それでも声は出るから良いが、そのまま高音に上がるフレーズだと、2点Fくらいからもう喉が対応出来なくなり、アウトとなる。

それで、舌根を押し下げたくても出来ないように、イやエの母音で練習するがそれでもブレス時に押し下げるから、その方法もあまり意味をなさないのである。

それで、色々やって結局、劇的に変えようと意識するのではなく、少しずつで良いからともかく、ブレスで息を入れようという意識をなくすること。
すなわち、声を出すための構えを取ることに徹することが、良い結果を少しずつ生むことが今日のレッスンでわかった。
彼女自身も、あきらめることなく非常に熱心に就いてきてくれるので、こちらも真摯に教えられる。
実際、レッスンの最後には大分楽な発声になり、息でフレーズを廻すことも出来るようになった。
まずは2点Gまでを確実に息で廻すフレーズが出来るようになった。

ブレスして、構えて声を出さないこと。
むしろブレスをしないで、いきなり声を出すようにして練習して欲しい。
そしてブレスは声を出すために、入れたお腹を自然にストンと落とすと
自然に息が入ることだけで良い。

それから母音の練習は要注意。特にアである。
そのために、母音よりもハミングを覚えて欲しい。
特に口を開けたハミングが出来ると、後々舌根や下顎に依存しない、良い響きだけを作るために有効になるからである。

今日の感覚を大切に持ち帰って欲しい。

みねむらさん

今日は最初の発声から、妙に声量のあるぎりぎり、というくらい大きな声を出していた。
当ることは良いのだが、やや出しすぎであった。
イの母音で始めたが、当り具合を加減してもらってベストポジションに。

いつものようにイエアと響きを上顎に当てる練習。
など一通りやりながら、ベッリーニのAbandonoの導入から入っていった。

これも特に目新しいことではなく、ひたすら下顎の抑制と、そのことで
上顎に響きを入れることに重きを置いた。

もしかすると感覚的に彼女にとっては多少喉を絞める感覚になるかもしれない。
が、それで良いと思う。
下顎は下に降ろすというよりも、後ろに引くような動かし方が判ると、俄然良くなるだろう。
後ろに引こうとすると、自然に頬が上がるのである。喉頭を下げるのと軟口蓋を上げることをバランスがとれ易い方法だと思う。

特に中音域~中高音域は、下顎を普通にばくっと下げるとどうしても喉を開きすぎて、喉から気道にかけてのところで共鳴が出てしまう。これは特に2点D~F当りの声でなる。
また、もっと低い所では、ちょっと男っぽい声質になるのも、そうだろう。

そして高音域も2点bくらいまでは、徹底して前に持って行くこと。
下顎を降ろしすぎないで、後ろに引く感じで、顔面に響きを入れていくと良い高音が出るようになるだろう。

ロッシーニのL’esuleは、ベッリーニの訓練が効いたせいか、とても良かった。
彼女の場合、声帯が厚いのか重いのか、本当に気をつけないと中音域が♭に聞こえやすい。特にアクセントの後の収める音など、少し気を抜くと♭になる。
この点は常に、気をつけてほしい。
ロッシーニの修飾的な細かい音符は、フレーズ終わりが多いから、これも抜けないように注意が必要。
高音は、前述のように前に前にと意識すること。

「ジョコンダ」「女の声、それとも天使の声でしょうか」は、こなれてきて、良い雰囲気が出るようになった。特に出だしの声、雰囲気はとてもよい。
ただ、本当のメゾ、あるいはアルトという声ではないので、オペラ的な重さにはまだ行かない。
ただ、歌として良い歌になった。
最後のカデンツは、オペラ特有の感情表現のスタイルだから、歌舞伎の見得を切るかのように言葉の感情の暴露みたいな歌いまわしを研究して欲しい。