ムジカCでは3人目のたかはしさんである。
高校時代から、と長いこと声楽を続けていらっしゃるが、どうも何かしっくり来ていないらしい。
色々な先生や教室に行っているが、自分で納得できない面もあるし、評価されないのも
納得が行かないのであろう。
ただ、自分に自信があるわけではなく、どうも何か上手く噛みあわないらしい。

ということで、早速聴いてみた。
色々思うことはあったが、端的に言って、ビブラートが強くやや声の揺れが大きい声という印象を持った。
それから、中音域の声の当たり具合がやや太いというか平たいというのか、独特の声の音色になっており、キャラクターとして捉えると、実際の彼女の年齢よりも年上の女性をイメージさせる声色だろうか。
声質、特に中音域の声質と強過ぎるビブラートは少し直して行った方が良いと思った。

中音域~中高音域だが、声の当て具合を加減して、もう少し声帯を開いてピッチを高めに意識した声にしたい。
口を開けたハミングから母音に換えて響きを見る。要は声を出す時にほんの少し息を混ぜるくらい意識した方が良さそうである。
というのも、ある種の歌唱方に見られる、声をずり上げて高音を当てる傾向が見られる。
強い声を出す場合に良くある方法だが、それだけが癖になっているのは良くないだろう。
まずは頭声で軽く出せること、きちっとずり上げないで出せることを身に付けて欲しい。

高音域も基本的に同じで、最初発声を見たら、高音に上がるほど口を縦に大きく開けているのは良かったのだがただ開けるだけなので、喉が締まって高音が出難い状態に逆になってしまっていた。

どうも発声の様子を見ていると、口の使い方はイタリアベルカントの教科書どおりなのだが、そのことが、実際の声に反映されていない気がする。
高音も口が逆三角形になって、下あごを後ろに引くような使い方はとても良いと思うが、それであれば、もっと喉が開いて無理のない響きになるはずなのに、実際は喉が締まっている印象である。

恐らく基本的に声を出そうという意識が強すぎるのかもしれない。
もっと弦楽器の弦の上を軽くだけと適度な力で弓を当ててボーイングするイメージを持って欲しい。

そして上記の発声のいずれにも、息を定量的に綺麗に吐いて行く、声の出始めの意識と、高音は息の速度を強めるために、お腹を少し強く使う意識を先ず覚えていってはどうだろうか。
最初からお腹を使いすぎているようで、出し始めは声を出せばお腹が自然についていくくらいで良いと思う。
恐らく最初に力んで出すために、声が揺れる傾向になるかもしれない。

また、基本的に声を当てる当て方が何か固定的で一つの方法に固執しているために、ちょっと癖のある声質になってしまっていることと、やはりビブラートも関係あるだろう。

高音域で一番良かったのが、下降形で指をくわえて後頭部に息を当てて廻していく発声であった。
声帯が開いた響きで、音程が決まって息の流れで声が出る、回るという印象になった。
これを軽く3点Cまで出来るわけで、基本的な喉の状態は良いわけである。

むしろ一番難しいのが中音域の声の当り具合を矯正することであろう。
ほとんど無意識に近く出してなっているので、それを有意識化して、直していかなければならない。

ということで、発声だけを1時間見たが、非常に熱心で真摯に聴いて実行してくれるのでこちらも教え易い。
とにかくこちらにしても、絶対ということは言えないが、直したいという気持ちは強いので、何とかやってみたい。
目標は気持ちよく、良い意味でリラックスして綺麗な声が出せるポイントを見つけてあげたい、というところである。
ソプラノとすればレッジェロな若々しい声質、また伸びればコロラチューラの回る高音に持って行きたい。

にしむらさん

声の調子が悪い、ということで心配したが、ともかくも大丈夫であった。
大丈夫どころか高音域はビンビンと出て、絶好調といっても良いくらいであった。
ただ、2点F以下の領域になると、いつもに比べても息漏れが多くなったり、ややハスキーな声質になりがちで心配。
見ていると、いつもに比べても、喉に依存して中高音域を出す傾向が見られた。
例の顔を上に少し上げて、喉当りで模索して出すような感じである。

どうしても、喉の当り具合、ポイントというのは長い年月をかけて自分で見つけるものだから、なかなかそこから違ったことをやるのは大変だろう。
実際、今でも上手い具合に当った声を出せているし、音程も良い。
ただ、やや重くなり勝ちだし、調子が良ければ良いが、調子を崩すと悪くなるのも早いのではないだろうか。

特に中音域は、元々それほど良く集まる声質というのでもないのだが、今日の場合、最初はどうも気息的で、響きも落ちてしまうようであった。

高音とか中音とか分けて考えずに、基本的に喉の位置をきちっとさせて、ということは姿勢を決めて顎を出して喉で当てない、あるいは喉で探らない発声をこれからも見つけて欲しい。
何度も書くが、顔を真っ直ぐに、首、特にうなじを背中から真っ直ぐに立てて。
そうすると喉頭が少しだけ下がった位置にあることがわかる。
その上で、声の出し始めの場所を軟口蓋から上で始める意識を持って声を出し始めること。

このことで、声帯を合わせ過ぎないで、息の混ざった高い良い響きで声を出し始めることが出来る。
俗に言う、喉で出さないというのはこういうことだと思って欲しい。
喉が一概に悪いというわけではないし、場合によっては喉を意識する感覚もも必要になるけども、今の彼女の喉にしてはやや重い使い方になっていると思うし、気をつけないと、ビブラートが強くなったり、調子が悪くなると声にもろにそれが反映されてしまう。

調子が悪くなった時に、声帯を開いた軽い響かせ方を知っているだけで、喉の負担が違うし、逆に喉が温まっていない時はそれで始めておいて、徐々に喉を使っていく、重くしていくという頃合も良くなるのである。

曲はドニゼッティの「船乗り」から。
出だしの声が、やはり気息的で響きが低く、ややハスキーボイス。
響きが低いといっても、微妙なのだが、高く意識してもらうだけで全然明るさが違う。
出だしのこの声はくれぐれも気をつけて欲しい。
後の高音域は、うまくアクートが出来ていて、無理がなく、良かった。
出来れば中高音の廻す所なども、もっと軽い明るい響きでも出来るだろう。

モーツアルト「エルヴィラのアリア」、ロッシーニの「約束」ともに、声は絶好調となった。
特にモーツアルトのアリアは、絶好調で、彼女の真面目に勉強した姿勢、歌う集中力ともに、端座して聞かなければ申し訳ないくらい
素晴らしいものであった。感心した。
歌詞の内容、楽譜の隅々まで行き届いた神経、非常に細かく綿密に見ていることが判った。
共にテンポは急ぎすぎないで、落ち着くべきところは落ち着いて。
一気呵成に行くことも良いが、やや単調になりがちなのでその点だけ気をつけて欲しい。
モーツアルトのレシタティーヴォ出だしのピアノは、マーチ風の意味合いをリズムに感じて欲しい。
また、アリアに入ってからも、収める所、少し落ち着くところなどを
良く見て、一本調子にならないように。
ロッシーニは指示よりも少しユックリ目。大らかな感じが出たほうが良いだろう。