今日は初伴奏合わせだった。
基本がしっかりしたピアニストである。
プーランクのシンプルだがそれだけに難しい歌曲伴奏が予想以上の出来だったので、
プーランクが活き活きと描出される可能性が見えてきた。
声、歌の面では、全部曲の表現につながっていることなので、後はそれをこちらが教えて導くというスタイルだろうか。
恐らくこういう作業を続けていくうちに、彼女自身の喉がそれを覚えて行くことだろう。
そういう道のりの始まりだ、と思った。
ルイズ・ラランヌの3つの歌曲は激しさと優しさ、強さとせつなさという2つの要素による声や歌の対称的な表現の違いである。
強さや激しさは、声のアタックが素早くなければならない。
せつない時はどんな喉で語るだろうか?気取っている時どんな声を出すだろう?
あるいは、激しい気持ちの時は素早く喋るのではないだろうか?
この時代の歌曲の声の表現となると、モーツアルトの様式美とは違う、もっと直裁で現実的な描写になると思う。
今の時点では、もう発声のディテールに拘らないで、表現と声が直接つながることだけを目指してほしい。
1曲目、2曲目共に速いテンポだが、指示通りは無理なので、なるべく近いところで、妥協するべきだろう。
声は直裁な高い響きで。低音を綺麗な声で歌おうとしないでも良い。
声のアタックは歯切れ良く。単純なリズムと言葉のリズムを充分に生かして欲しい。
3曲目は出だしのテンポは良いが、恐々と入らないこと。
声は高く響かせる意識より、胸声区の響きを充分に意識して、滑らかに処理すること。
2段目からテンポが少し早くなる変化は、はっきりと出すこと。
真珠採りのアリアは、ピアノが少し練習不足気味だったかな。
右手は良く歌ってほしいところ。
前奏も急ぎすぎないで、確実に。フォルテも綺麗に処理して欲しい。
伴奏といっても、これは本当はオーケストラなのだから、重くなって一向に構わないのである。
歌は、高音は申し分ない。余計なことは考えずに出しやすい方法で気持ちよく出して欲しい。
このアリアは単純なABA形式であり、Aの部分の大らかな、ノスタルジックなメロディは、笑顔で気持ちよく朗々と歌えば良い。
その代わり、中間部は言葉の意味を良く捉えて、アグレッシブに歌詞の意味を訴えて欲しい。
再現部へのつなぎのところは、テンポの戻しなので、基本テンポをまず確立してから、その間合いをピアニストさんと充分練習して欲しい。
最後のカデンツは、ブレスの問題がある。
ブレスを入れる場合は、入れるだけの意味をもたせるように処理すべきだろう。
ブレスが持たないから入れるというのが直に出てしまうのは、かっこ悪い。
最後のところも、ブレスの間合いが間延びし過ぎない程度に処理して欲しい。
あまり間延びするとやや白けてしまうので。
いずれにしても、今日の時点で本番の目処が付いたのでこちらも安心できた。
暗譜を確実に。アンサンブルももう一歩高めて欲しい。
ふじいさん
今日の彼女の声、急激に面白くなってきた。
という言い方は失礼かもしれないけれど、伸びる方向性が明快になり、こちらの指針の目処が付いた、という意味で大きな進歩である。
まず最初の発声練習で中低音の響きがとても良い感じだった。
喉だけで出すのではない、良い当り方の声の響きである。
喉がリラックスして、ブレスと喉が良い具合に繋がっていたのだろう。
元々可能性としてメゾ的な中低音が出せる喉、ちょっと長めの声帯という直感的な印象があったが、やはりそうだったか、という感じ。
高音も綺麗にチェンジして出ている。
ただ、上に行けば行くほど響きが広がるというのではない。
しかし、相当訓練すれば、かなりしっかりした高音も出るようになると思う。
ただその前にある程度の充実した中低音の声の響きを確立したい所。
ここが確立すれば、オートマティックに高音ももっとしっかり出るようになってくるはずである。
一言で言えば胸声区の声の確立。
ブレスから自然に喉が少し落ち、自然にお腹からの声が出るようになる回路をこれから少しでも確立したい。
ブレスで常にみぞおちを意識して、そこから声が出るという低い意識を持つこと。
もう一点は、出した声は同じポイントでなるべく処理すること。
そして、無意識に歌わないで弦楽器のボーイングで常に一定に弦を擦り続けるように、声も響きを絶対に抜かないことである。
具体的に言うと、フレーズの形にもよるが少しだけ音程が上に跳ぶときに、上の声を簡単にチェンジして抜いてしまわないこと。
そのためには、口を開けるように上につなぐアーティキュレーションを覚えると、声が抜けないだろう。
もう一つは上に昇る時は、お腹を意識して少しお腹を張ることも良いかもしれない。
中低音域では、口の開け方よりも、喉そのものに集中して、響きが途切れない歌詞のアーティキュレーションに注意を払うべきだろう。
そのためには、歌詞の発音のために口がパクパクしないことである。
今日は本番で歌うプーランクの「あたりくじ」7曲を何度も練習した。
良く練習したと思う。
それぞれ、中低音から始まる声のアタックでは、何度もやり直した。
声が浮かないこと、お腹、みぞおち、あるいは胸を意識してアタック。
そして一度当てた声を、歌詞や音形のせいで抜けないよう、なるべくなるべく母音の響きを繋げて歌うこと。
速い曲はゆっくりにして、これらのことを徹底した。
そして、これらのことを徹底するために、あえて楽譜のダイナミックの指示は一切無視すること。
以上だろうか。
後は暗譜がしっかりすれば、身体の使い方、発声は自ずと決まるので暗譜を確実にして欲しい。
近い目標として、低音の良い声の響きの可能性があるので、楽しみである。
後は伴奏合わせだ。これも楽しみにしている。